(仮)礎の姫
@benzai
1ページ
背景の無い絵と見紛う程に、真っ白な雪の中、その館は建っていた。人が見れば幻想的に感じただろう。だが、こんな辺鄙な場所には誰も来やしない。その館の作りが普通と違っていても、誰も知りはしない。
入口の扉は無く、窓も二階部分に一箇所しか無い。入口が無いのだから、誰も住んではいないのだ。では、誰が何の目的で建てたのか。疑問だけが残る不思議な館。
ゆっくりと降り続ける雪が、徐々に館を隠していく。疑問ごと、存在を消す様に。
交易都市『ガラム』には沢山の物が行き来する。辺境の地方全ての物がガラムに集まり、ガラムから流れていく。人の流れも様々で、遠くから来て住み着く者、ガラムから出て街や村に住む者がいる。
少年アベルはガラムに流れ着いた人間の一人だ。そんなアベルは、ガラムの一角にある宿屋『猫の耳』をよく利用している。宿を切り盛りしているカリナとは丁度良い距離感で
利用しやすいのだ。
アベルが起きて一階へと降りていくと、受付にいたカリナがよく響く声で言う。
「おはよう、アベル。あんたにハリーから手紙が来てるよ」
「おはよう。何の手紙か言ってた?」
「仕事の依頼だから早めに読むように言ってくれってさ。近頃はアベルの指名依頼も多くなったね」
カリナは感心して言う。
「でも、指名して来るのは、ハリーやガリアードとかの顔馴染みばかりだよ」
そう言って手紙を開けて見ると几帳面なハリーの字が並んでいた。
「それで良いんだよ。ハリー達にアベルは信頼されてるって事なんだから。あら、どうしたの?」
手紙を手に固まったアベルに気づいて問いかける。
「ハリーが小さな字で書いてるから読み難い」
「ハリーらしいわね。まっ、朝ご飯食べてから、ゆっくり読みな」
アベルは苦笑しながら頷くと、カリナは厨房に入っていき、温かな食事を手にして戻ってきた。パンとスープだけだが、良心的な値段の中のサービスなのだ。
テーブルにつくと、まずスープに口をつける。いつもの美味しさが口に広がっていく。パンを千切って少しスープに浸す。あまり良い食べ方では無いが、アベルは気に入っている。
(仮)礎の姫 @benzai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。(仮)礎の姫の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます