(仮)礎の姫

@benzai

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 背景の無い絵と見紛う程に、真っ白な雪の中、その館は建っていた。人が見れば幻想的に感じただろう。だが、こんな辺鄙な場所には誰も来やしない。その館の作りが普通と違っていても、誰も知りはしない。


 入口の扉は無く、窓も二階部分に一箇所しか無い。入口が無いのだから、誰も住んではいないのだ。では、誰が何の目的で建てたのか。疑問だけが残る不思議な館。


 ゆっくりと降り続ける雪が、徐々に館を隠していく。疑問ごと、存在を消す様に。






 交易都市『ガラム』には沢山の物が行き来する。辺境の地方全ての物がガラムに集まり、ガラムから流れていく。人の流れも様々で、遠くから来て住み着く者、ガラムから出て街や村に住む者がいる。


 少年アベルはガラムに流れ着いた人間の一人だ。そんなアベルは、ガラムの一角にある宿屋『猫の耳』をよく利用している。宿を切り盛りしているカリナとは丁度良い距離感で

利用しやすいのだ。


 アベルが起きて一階へと降りていくと、受付にいたカリナがよく響く声で言う。


「おはよう、アベル。あんたにハリーから手紙が来てるよ」


「おはよう。何の手紙か言ってた?」


「仕事の依頼だから早めに読むように言ってくれってさ。近頃はアベルの指名依頼も多くなったね」


 カリナは感心して言う。


「でも、指名して来るのは、ハリーやガリアードとかの顔馴染みばかりだよ」


 そう言って手紙を開けて見ると几帳面なハリーの字が並んでいた。


「それで良いんだよ。ハリー達にアベルは信頼されてるって事なんだから。あら、どうしたの?」


 手紙を手に固まったアベルに気づいて問いかける。


「ハリーが小さな字で書いてるから読み難い」


「ハリーらしいわね。まっ、朝ご飯食べてから、ゆっくり読みな」


 アベルは苦笑しながら頷くと、カリナは厨房に入っていき、温かな食事を手にして戻ってきた。パンとスープだけだが、良心的な値段の中のサービスなのだ。


 テーブルにつくと、まずスープに口をつける。いつもの美味しさが口に広がっていく。パンを千切って少しスープに浸す。あまり良い食べ方では無いが、アベルは気に入っている。

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