第75話 自分だけが
いつの間にか、雨が降っていた。ザーザーと音が聞こえて、私の髪を、頭を、全身を濡らした。それでも、私は屋内に移動する気にはなれなかった。ただただ、雨に打たれていた。
「教えてよ……ねぇ……!」誰に話しかけているのかもわからないが、私は喚く。「恩返しってなに……?
考えても、わからない。私一人ではわからない。
「
「……」
「……え……?」なんで……いや、
「僕も
「理解って……」私は子供のように首を振って、「わかんないよ……なんで、
私に恩返し……今回のことで恩返し? それはおそらく物とかじゃなくて……きっと精神的なもの。そんな恩返し。
「……僕から言えることは……1つです」ずぶ濡れの
「……私と……
「はい。優しくて周りのことを気にしてしまって……でも時々思い込んで暴走してしまって……自分だけが耐えれば事態が好転すると思っている……そんな風に、見えます」
「……自分だけが耐えれば……」
……私だけが耐えれば……たしかに私はそう思っていた。社長から嫌がらせを受けるのが私だけなら、大丈夫だと思っていた。それで他の人に危害が加わらないのなら……私が耐えて
「……あ……」そうか……わかった。
だとしたら、なんて思い込みだ。そんなことはありえない。そんなことで事態は好転しない。そんなことで私は喜ばない。まるで昔の私みたいに、独り善がりで自分勝手で自己完結している。
「
そしてその間、私への直接的な嫌がらせはなくなっていた。
そのことを、
自分だけが耐えれば……
「自分がいじめられているうちは……私に被害が出ないと思った……?」
そんな理由で……? 私が嫌がらせを受けないように? それだけのために、耐えていたの? 自分の心が壊れてしまうまでに……私のためだけに?
自分だけが耐えれば、事態が好転すると思っていた……自分が耐えれば、
「バカ……そんなこと……」
私は、
――大好きな
最期の言葉が、
「直接……言ってよ……」
察しが悪いから、私にはわからなかった。
……
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