第62話 正常な判断ですね
また夢を見た。誰かに背負われて、暗い道を歩いていた。どこの道なのかはわからない。ただただ真っ暗で、お店も街灯も見えなかった。
……誰に背負われているのだろう。お父さん……
「……誰……?」
聞いてみるが、返事はない。
私を担いでいるのは誰なのか……それを疑問に思っていると、
「……っ!」
突然その人が振り返った。首だけが180度回って、私の顔を見た。
真っ暗だった。顔の部分が陥没したようになにもなかった。闇の空間だけが私の目に入った。
首元には、跡があった。傷跡。ロープの跡。ロープが食い込んで、それを取り外そうと爪を立ててできたであろう傷。
「……
私を背負っているのは、
ああ……迎えに来てくれたのだろうか。私を地獄まで運んでいってくれるのだろうか。だとしたら申し訳ない。地獄なんて彼女には似合わない場所だというのに、私のせいで地獄を文字通り見せることになってしまう。
「
ごめんなさい、と言いかけた瞬間だった。
★
「っ……!」
目が覚めた。息を呑むように呼吸をして、なんとか肺に酸素を取り込む。
汗だくだった。呼吸も乱れていて、眠っていたはずなのに異常に疲れている。マラソンでも走ったあとのようだ。
……
「……ここ、どこ……?」
私は見慣れない部屋にいた。お世辞にもキレイとは言えない天井。なんとも安っぽそうな明かり。窓も壁も薄そうで、夏は暑くて冬は寒い……そんな感じの部屋だった。
アパートの、一室……だろうか。かなりのボロアパートに見えるが、私の部屋ではない。ボロさでは私のアパートと良い勝負だけれど……
身体を起こそうとして、
「あれ……」体が動かないことに気がつく。いや、正確には動くことは動く。だけれど……「……ロープ……」
私は布団にロープでくくりつけられていた。両手と手足、さらに体。結構厳重に縛られていた。これでは動くことができない。
ここはどこだろう……私の推測が正しければ……
「……目が覚めましたか?」ため息とともに、
「……
「いいえ。ここは借りているだけです。あなたのような危険人物を自宅に連れて行くことは――」
「嘘です」私は確信を持って言い切る。「ここは
「……なんでそう思うんですか?」
「だって
「……」また
「お察しの通り、ここは僕の家ですよ」私の推測は当たっていたらしい。「とりあえず……今のあなたを自由にさせるわけにはいかなかったので……拘束させてもらいました」
「正常な判断ですね」私だってそうする。私みたいな異常者を見たら、私も拘束する。「でもよかったぁ……想定通り動いてくれて」
「……やっぱり
私は
「それはその時ですけど……その可能性は低いって思っていました」
「どうして?」
「私が睡眠薬を飲んだのは事実ですから……
「……では、眠った
「それこそありえませんよ。あの公園には他にも人がいました。私は結構目立ってましたから……目撃者がいるはずです。
知り合いが急に眠ってしまって担いで帰った、なら警察に通報されることもないだろう。お酒を飲んでしまって酔っ払っていて迎えに来てもらったという風にも見える。
「だから……あそこで私が睡眠薬を飲んで眠れば、
他に家を借りる金銭的余裕もなく、見捨てるわけにもいかない。さらに警察にもいけない。しかも
風光明媚に連れて行かれる可能性もあったけれど……
だから私は睡眠薬を飲んだ。即興の行動だったけれど、どうやらうまく進んだみたいだ。
これで私は、待ち望んだ
この匂い。空気。気温……そのすべてが
ああ……幸せ……
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