第8話 『申込みが完了しました』
午後の仕事を終えて、公園を迂回して帰宅。相変わらず遅くまで働くことになってしまった。家に帰る頃には11時。新人の社員をこんな時間までこき使うもんじゃないと思う。過労死してしまうぞ。
帰るなり、私は布団に寝転がる。今日はなんとか夕食を買うのを忘れなかったので、これから夕食を食べることができる。
スマホの充電器を無造作に引っ張って、自分のスマホに差し込む。仕事中に充電が切れそうだったので、スマホの電源は切っておいた。
その間に買ってきたお弁当をレンジで温めて、あくびをする。11時を過ぎているので、もう眠い。とはいえ空腹だ。とりあえず食事をしよう。
レンジでお弁当を温めている間にスマホを起動する。そしてまた興味のないニュースを適当に眺めて、そのへんで思い出した。
「そうだ……申込み……」
今日の出社前に、とあるサービスを見つけたはずだ。たしかタイトルが……『あなたのすべてを肯定します』というもの。申込みの途中で部長から電話が来て、中断されてしまったのだった。
私はもう一度そのページを開いて、規約等を確認していく。
『移動時間等がございますので、依頼日時の24時間前までに予約をお願いいたします』
24時間前……つまり明日の朝8時に会いたい場合、前日の朝8時に予約をしないといけないらしい。そりゃそうか。いきなり呼び出す、なんてことはできないらしい。
ということは……今から申し込んでも予約の時間は最短で明日の夜11時過ぎか……もちろん予約の日時は変更できるだろうけど、今日はもう遅い。こんな時間に通知音を鳴らしてしまうのも忍びないので、申し込むのは明日にしよう。
明日も一応休みのはずなのだけれど……どうせ呼び出されるんだろうな。部長の機嫌が良ければ呼び出しがなかったりするのだけれど……最近はなぜかあの部長、機嫌が悪い。また休日出勤する可能性が非常に高い。
今日のところはさっさと寝よう。夕食を食べて、余裕があればお風呂に入ろう。それからさっさと眠ってしまおう。
☆
ということで、翌日。また重たい体を無理やり動かして、布団からゾンビのように出てくる。そしてまた朝食を買い忘れている自分のへっぽこっぷりに呆れつつ、スマホを起動する。
現在時刻は朝の9時。これくらいの時間なら、申し込みを済ませてしまってもいいだろう。そう結論付けて、私は再び必要情報を入力していく。
『利用時間(時間単位で料金が発生。1秒でもオーバーした場合、追加の料金が発生。予約状況によっては延長不可)』
つまり、1時間の利用の場合は3500円で済むが、1時間1秒の場合は7000円かかるということだ。まぁそりゃあそうだろうな。そうじゃないと、無限に延長ができてしまう。
利用時間は……まぁ1時間でいいか。ちょっと話すだけだし、それ以上の時間になると気まずくなりそうだ。どうせ当たり障りのない言葉しか投げかけられないのだから、短くていい。
『予約日時(24時間265日可)』
……深夜1時とかでもいいのだろうか。来てくれるんだろうな。だって24時間営業なのだから。
……予約は……来週の土曜日かな。また休日出勤になる可能性があるけれど……どうしても外せない用事があると事前に行っておこう。さすがに1週間前に申告すれば、大丈夫だと思う。無理なら……諦めよう。
というか……なんで休日に休むのに申告が必要なんだよ。休日なんだから申告無しで休ませてよ。
愚痴を言いつつ、その他の入力設定を打ち込む。そして最終確認画面。『入力の内容に間違いがなければ、進むを選んでください』
……念のため入力内容をもう一度確認。そして深呼吸をして、窓の外を見て、ストレッチをして、もう一度深呼吸をして、恐る恐る進むをタップする。
『申込みが完了しました』
その文字を見て、ちょっとドキドキしている。新しい一歩を踏み出したという高揚感と、無駄遣いしてしまったという後悔。そして緊張。
……本当にこのサービスの提供者は……
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