十七章 力の解放

 酒呑童子と対峙する皆。緊張した空気の中先に動いたのは柳と忍だった。


「はっ」


「やっ」


地面を強く蹴り勢いをつけて相手へと斬り込むも酒呑童子に軽く避けられてしまう。


「はっ」


裂けられ先へと駆け込んだ風魔が刀を振りかぶるが素早い動きで回避されてしまった。


「行け……」


「えい」


冬夜が指示を出して見えない攻撃を食らわせると今がチャンスとばかりに布津彦が剣を振う。


「お願い皆を守って……」


「ほらほら、食らえってね」


「千代、オレ達がタイミングを作りまーす。貴女はそこを狙ってください」


麗が腕輪を握りしめ祈る横を通りサザがナイフを放る。ライトが千代に告げると酒呑童子へと突っ込んでいった。


「行くよ……えい」


「そーれい」


「食らえい」


皆が作ってくれたタイミングに合わせて矢を放つとケイトとケイコも拳を突き出し攻撃する。


「……」


「全く効いていないなんて」


あれだけの攻撃をしたにもかかわらず無傷で佇む酒呑童子の様子に胡蝶が顔を青ざめた。


「今度はこちらから行かせてもらうぞ」


「おい、なんかアレやばくないか?」


相手が言うと大気が震えだす。酒呑童子の両手にたまり始めた渦にサザが冷や汗を流した。


「食らえ」


「千代!」


「麗、危ない」


「くっ」


狙いは最初から決められていた様で放たれた攻撃にライトと柳と忍がそれぞれ相手を庇うように押しのける。


「ライト」


「言ったでしょ……オレは貴女を愛しているって……愛する人が傷つくところはみたくありません……だから……」


「っ!」


庇われた千代がどうしてといいたげに彼に尋ねると優しく微笑みかすれる声でライトが話す。しかしすぐに気を失ってしまい彼女はこみ上げる思いに息を呑む。


「柳さん?」


「ははっ……かっこつけて庇ってこれじゃあかっこ悪いよな。でも、麗に怪我がなくてよか……った……」


「柳さん!」


麗が自分の上で庇う相手の名を不思議そうに呟くと彼が自嘲気味に笑いながら呟く。しかし意識を失ってしまい彼女は驚いて叫んだ。


「……それで僕を庇ったつもり?」


「すまない。君なら問題ないとは分かっていたが、身体の方が勝手に動いていた」


傷だらけでその場に座り込む忍へと雪奈が淡泊に声をかける。その言葉に彼が小さく答えた。


「僕なんか庇う必要なんてなかったんだよ。君は本当に昔から変わらない……不器用だね」


小さく溜息を吐き出し言うと一瞬瞳を閉ざし緑石に手を置く。


「トーマ」


「承知いたしました」


瞳を開いた彼女はトーマへと視線を移す。彼がその意図を理解して小さく頷いた。


『緑石の力を解放する』


緑の煌きに包まれた雪奈の雰囲気ががらりと変わる。


「雪奈?」


『君はそこで休んでて』


忍が雰囲気の変わった彼女へと不思議そうに声をかけたら小さく笑い言われる。そうして雪奈は酒呑童子の前へと歩いて行った。


「守護者の力を解放する。皆様を守れ」


トーマが言うと眼帯で隠していた目を晒し魔力を込める。すると皆を囲むように夜色のドームが現れ消えた。


『さあ、始めようか』


「……」


雪奈はにやりとわらうと酒呑童子が警戒して身構える。


『ふっ』


「っ!?」


強く地面を蹴り上げると離れていたはずの彼女は一瞬で相手の懐まで移動しておりそのあまりの速さに酒呑童子も驚いたが防御の態勢に入った。


『はっ。やっ』


「くっ……」


瞬きの間に繰り出される技の数の多さに相手は追い詰められていく。


『やっ』


「くっ……仕方ない。あの姿にだけはなりたくなかったがやむおえない。……我を本気にさせた事後悔するがいい」


「何?」


雪奈に蹴り飛ばされ後方へと投げ出された酒呑童子が体勢を立て直すとみるみる姿が変わり出す。その様子に千代が驚く。


そうして一メートルもの巨体に額には二つの角が突き出て口は裂け牙がギラリと光る化物がそこに現れた。


「ぐぅおおおっ!」


『……麗、千代。今から僕の力を付与する。そうしたらその矢で奴の胸を貫け』


「は、はい」


「分かりました」


雰囲気の変わった彼女に戸惑いながらも二人が返事をするとそれぞれ身構える。


『彼の者に力を与えん……今だよ』


「お願い千代さんを守って」


「この矢に全てをかける……お願い当って! やっ」


雪奈の合図に麗が腕輪に祈ると千代の身体に力が宿る。そうして放たれた矢は黄金と緑の煌きに包まれ酒呑童子の胸を貫く。


「ぎゃあああっ!!」


『酒呑童子……哀れな鬼よ。その呪縛から解き放たれよ』


断末魔の悲鳴をあげながら掻き消えていく相手を見やり雪奈はそっと呟いた。

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