三章 旅の始まり

 トーマと出会った雪奈達は彼について町を目指す。


「そう言えば……私達はそのまま制服姿だけれど、雪奈だけ服が違うよね?」


「こっちに来た時に勝手に変わっていた。ナイフもついているし、この世界での僕が構成されていたんだろうね」


歩きながら千代が問いかけてきた言葉に彼女は答える。


「ごめん……よく分からないんだけれど」


「分からないなら、知らないままでいいんじゃない。それより、千代達の格好の方が問題だね。この世界では目立ってしまう」


説明されたがよく意味を理解できずに困った顔をする彼女へと、皆の服装を見ながら雪奈は話す。


「そうですね……このままでは町に入ることも出来ないでしょう。それではあそこに立ち寄りますか」


「あそこってどこに連れて行く気だ?」


トーマの言葉に忍が鋭い目で睨みやり追究する。


「貴方方に敵意は持っていませんので、その目で見るのは止めて下さい。特に貴方にそういう風に睨まれると心が痛みます」


「古傷をえぐるってね……忍。トーマの事は信頼しても大丈夫だよ。何しろこの星を守る、守護する者ガーディアンだからね」


困った顔で溜息を吐き出す彼の様子に雪奈は間に入るかのように口を開く。


守護する者ガーディアン?」


「それに、僕達は彼がいなければこの異世界で生きていけないんだ。いわば途方に暮れていた僕達に手を差し伸べてくれた恩人にそんな態度は良くないんじゃないの」


「……分かった。トーマさん。すまない」


首をかしげる麗の言葉は無視して彼女は説明を続けると、忍も理解した様子で謝る。


「皆様、俺の事は是非トーマと呼び捨てください。トーマさんと呼ばれるとこそばゆくなりますので」


「で、隠れ里まであとどのくらい歩くの」


トーマの言葉が終わるのを待って雪奈は問いかけた。


「おや、よく俺が向かっている場所が分かりましたね。流石は雪奈さんと言った所でしょうか」


「で、あとどれくらい歩くの」


感心する彼へと再度問いかけるとトーマが微笑み口を開く。


「ここから後三日はかかるかと」


「み、三日ってそんなに歩き続けれるかなぁ……」


「千代達にとっては初めての長旅になりそうだね」


彼の言葉に千代が驚いた後不安そうに呟いた。雪奈も考え深げに思考を巡らせる。


「現在っ子にいきなりそんな距離歩けって言われたって無理に決まってるだろう」


「この世界には乗り物とかはないのかよ」


柳もうんざりした顔で言うとサザが問いかける。


「なくはないですよ。馬くらいですけれど」


「乗馬なんてしたことないわよ」


「無難に歩く方が良いかと……」


さらりと言われた言葉に今度は胡蝶が困った顔で話すと布津彦がそう提案した。


「はぁ……歩く以外方法がないか。面倒だけど仕方ないね」


「大丈夫。遠足だと思って歩けば楽しいと思うよ」


柳が諦めた顔で溜息を吐き出すとにこりと笑い風魔が話す。


「オレ、歩くの平気でーす。でも美しいお嬢さん達は歩くのきついです。何とかなりませんか?」


「いずれ何とかなるかもしれませんが、今は歩き以外の方法がありませんね」


ライトの質問にトーマが含みのある言葉を話す。


「大丈夫……歩ける?」


「歩くしかないかなぁ」


冬夜が心配して千代に尋ねると彼女も諦めた様子で答える。


こうして一行は歩いて隠れ里へと向かうこととなった。


「さて、そろそろ日も暮れてきますし今日はこの辺りで野宿しましょう」


トーマの言葉にだだっ広い草原に座り込む。


「ちょっと待ってて、今火を起こすから」


「雪奈さんって何でもできるんですね」


どこかに行っていた雪奈がその辺で拾ってきた木の枝を組んで火打石で火をつける様子に麗が感心して話す。


「旅慣れはしているからね」


「え、それって一人で旅行とかに行っていたってこと?」


彼女の言葉に千代が驚いて尋ねる。


「……まぁ、似たようなものかな」


「それよりも、夜は鬼が活発に動き出す時間です。皆さんいつ奴等が現れるか分かりませんので用心することにこしたことはありませんよ」


はぐらかす雪奈に助け船のごとくトーマが口を開き話す。


「胡蝶。これその辺で拾ってきた。これを使って料理お願い」


「分かったわ。この世界の食べ物。日本で見た事のあるものと似ているから多分大丈夫」


食材を探しに行っていた冬夜が戻って来ると胡蝶へと差し出す。それを受け取った彼女が調理を始めた。


それから暫く経ち夕食を平らげると千代達はすぐに歩き疲れていたため眠りに入る。


「……さて、トーマ。今の現状を確認しておきたい」


「そうですね、今は鬼の首領酒呑童子が牛耳る世界。各地を鬼の頭が支配し、小鬼や悪鬼や鬼人といった者達に人々は悩まされております。やつらはいたずらに人里を攻め入っては殺戮を楽しみ、その地を血で穢します。人々はなすすべなくただ苦しい毎日を過ごすだけ。神々は既にこの地上から離れており手助けすることが出来ず、二対の龍神だけが残るこの世界は混とんとした時代を迎えました」


一人火の番をしている雪奈が近寄って来たトーマへと声をかけると彼も分かっていたと言わんばかりに説明を始めた。


「金竜と銀竜に会えれば千代達も力を取り戻せるかもしれないね」


「はい。ですがそこまで行くのに奴等の邪魔が入る事でしょう」


「それは想定内だ。彼女達はまだ本来の能力を取り戻せていない。ならば、戦って慣れていくしかない」


二人は真剣な顔で語り合う。まるで相手が何を考えているのか分かっているかのように話は進む。


「酒呑童子は赤子も同然の今のうちに潰してしまおうと思う事でしょう。これからの旅は過酷なものとなると覚悟のうえで貴女は千代様達を連れて現れたのですね。ならば俺も力を貸しましょう」


「トーマ。その力なんだけれど今は封印していてもらいたい」


トーマの言葉に彼女は待てと言った感じで話す。


「と、仰いますと?」


「時が来たら君の力が必要になる。だからその時まで君は力を封印していてもらいたいんだ。そのほうのが奴等を欺ける」


「分かりました。雪奈さんの事ですから何か深い考えがあるのでしょうね」


こうして二人の秘密の会話は終わり、雪奈は黙って焚き火の番をし、トーマはいつ鬼が現れてもよいように周囲に警戒を行った。


翌朝。朝食を食べ終えると旅を再開する。


「はぁ……疲れた」


「戦いの連続って意外に疲れるものなんだな」


千代の呟きを拾った柳もぼやく。隠れ里へと向けて足を進める一行を邪魔するかのように時折現れる小鬼との戦いに皆疲れ切った顔をしていた。


「この世界は鬼に支配されております。その鬼達を束ねているのが酒呑童子。奴は人の姿をしていますがその正体はおぞましいほどの化物です。奴を倒さない限りいつまでもこうして鬼との戦いが続く事でしょう」


「酒呑童子って授業で習ったことがあるけど、こんな話だったっけ?」


トーマが説明すると千代が首をかしげて風魔に問いかける。


「いや、まったく異なっているよ。やはりこの世界は俺達のいた世界とは違う次元軸なんだと思う」


「この世界は皆様のいた世界とは異なる次元の世界ですので、まぁ、似ている話もありましょうが全て異なっておりますよ」


彼女の問いかけに風魔が答えると、その言葉に彼が微笑み語った。


「その話はもうおしまいにして、ここで少し僕達の目的を考えた方がいいと思う」


「と、言うと?」


その話が終わるのを待っていたかのように雪奈が口を開いた。布津彦が不思議そうに首をかしげて問いかける。


「酒呑童子奴を倒すことで僕達は元の世界に戻れるというのは言わなくても分かっていると思う。だけど、その為には今の君達では奴の足元にも及ばない。聞いた話が本当ならあいつは人ではない化物。そんな奴にただの人間が束になってかかっていったって勝てる見込みはない」


「そりゃあ、分るが。だがそうなるとオレ達はどうやって奴を倒せばいいんだ」


彼女の言葉にサザが不安そうな顔をして尋ねた。


「各地を支配している鬼の頭を倒しながら力を付けて行き、最後に酒呑童子を倒す。そうすればいいだけの話だ」


「待て、鬼の頭を倒すと簡単に言うが、俺達にそんな力があるとは思えない」


にやりと笑い言われた言葉に忍が待ったをかける。


「この世界には二対の竜神が守っている。その竜神に会いに行けば力を授けてもらえるかもしれない」


「それでは、その竜神に会うために旅を続ければいいですか?」


雪奈は初めからその質問が来ることが分かっていた様で特に考える事もなく説明した。その言葉に今度はライトが不思議そうな顔で聞いてくる。


「まぁ、そういうことだね」


「金竜と銀竜に会うためにもかつて瑠璃王国があった場所まで行かねばなりません。そこにある太古の森……その奥地に二対の竜神を祀る祠があるのです」


彼女が小さく頷くと今度はトーマが口を開いた。


話を聞いていた皆も漠然としていた目的が定まり少し安心したのかほぅっと息を吐き出す。


こうして隠れ里を目指した次の目的地が定まり皆は元気を取り戻して歩きを再開した。

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