第19話

「な、なんだこれは……」

 

 軍の指揮官……将軍は全員三人いる王子のうち、誰かの派閥に入っている。

 本来であれば将軍が総指揮を取るべきなんだろうが、敗戦の責任を取りたくない王子により、将軍は動かないよう厳命されており……そのおかげで僕は総指揮の権限を持つ者としてこの場に立てている。


 将軍はこの場に誰もいない。

 しかし、だからと言って士官が全員いないわけではない。

 僕の隣には数多くの士官がいた。


「これは……戦争、なのか?」


 その士官たちは目の前で行われている戦いを前に呆然と声を漏らす。


「まぁ、戦争でしょ」

 

 今、僕の前で行われている戦い。

 それはまさに地獄の様相であった。

 

 飢餓に苦しみ、狂人となったアレステーヌ王国の兵士もといただの貧民。

 まともに武器を扱うことも出来ないような彼らは敵兵へと突撃し、ただの死体となり、幾つもの死体の山を作り上げている。

 被害者の数遥かにはアレステーヌ王国側の方が多いだろう。

 だが、劣勢なのはどちらか。

 それはカスリーン王国側であろう。

 

 彼らはあくまで兵士たちであって、ゾンビを倒すゾンビハンターではない。

 うめき声を上げながら、殺到し、人の死体をそのまま口に放り込み、拳で殺そうとしてくる狂人を前にカスリーン王国の兵士は動揺し、恐怖している。

 恐怖は伝染し、彼らの動きから力強さを奪い、ゆっくりとその足より前へと奪う活力を失わせていく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!」


「い、嫌だ……」


「うっぷ……」


「おぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ」


「……ぁ」

 

 逃げ出すもの、恐怖する者、吐き出す者、殺される者。

 既にカスリーン王国の兵士たちは組織としての統率を失い……アレステーヌ王国の貧民たちは最初から統率などない。

 人と人が混ざり合い、死体が積み上がり、狂気に支配される地獄が今、僕たちの前に広がっていた。


「くくく。もっと飢えろもっと狂えもっと恐怖しろもっと殺せ」

 

 そんな中、僕は精神操作系統の魔法をフル活用し、地獄へと薪を投入し続けた。

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