第20話
「……引いて、いきますね」
それからどれだけ経っただろうか?
僕がけしかけた飢餓に苦しむ貧民たちの群れは全滅した。
まぁ、正規兵と何の訓練も受けていないどころか武器すら持っていないただの貧民である。
正規兵の心を削ることは出来ても、相手方を壊滅させられるわけがない。
むしろ、敵を数百近く倒したことに驚嘆すべきだろう。
僕がけしかけた八千人近くの貧民は四千人近くの敵兵のうち、数百を殺し、更に数百の負傷者を出してくれたのだ。
圧倒的な戦果と言えるだろう。
こちらの正規兵、千五百人ほどの被害者はゼロなのだから。
「ふふふ。使えない貧民風情が敵兵を引かせた……実に素晴らしい戦果だろう?」
貧民たちを皆殺しにしたカスリーン王国の兵士たちはそのまま砦を攻めて来ることはなく、大人しく引いていく。
「……そう、ですね。はい。まともにぶつかれば被害が出るどころか、敗走していてもおかしくない相手でしたしね。それで、追いますか?」
「いや、それは今じゃないよ……少し、策を張り巡らせているからね。君たちが動くのは少し後かな。作戦行動は既に一部の高官たちには伝えてある。君もそれに従うように」
「ハッ」
「じゃあ、僕は用があるのでここらへんで失礼するよ」
「お気をつけて」
僕は会話していた士官の子と別れ、一人……歩き続けた。
■■■■■
「完璧だとも、君たち」
カスリーン王国が退却を始めてから5分も経っていない頃。
僕は退却するカスリーン王国の正規兵が陣地に戻る途中で確実に通るであろう場所を強襲出来、なおかつ多くの人間が隠れてもバレないような場所へとやってきていた。
「リスト様の命ですから」
僕がやってきた場所。
そこには東部で起きた反乱を鎮めるため、東部へと派遣されているはずの部隊が待機していた。
「良いね。僕は自分の命を忠実に守る子は好きだとも。うん……さて、と。もうすぐカスリーン王国の兵士がここを通る。君たちの役目は?」
「敵を殺すことです」
僕の問い。
それに対して、部隊の頂点に立つ部隊長は簡潔で、力強い答えを返してくる。
「素晴らしい……諸君らの活躍を僕は祈っているよ」
僕は小さく笑みを浮かべ、現状が自分の思い通りに進んでいることに安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます