第18話

「くくく」


 エミリア様の命令に従い、カスリーン王国との国境部にある砦へとやってきた僕は

 ……こうして笑みを浮かべている本当に僕が裏切り者みたいだな。

 周りの士官が今すぐこいつを殺したほうが良いのではないか……?みたいな顔をしている。 


「素晴らしいと思わないか?諸君。現状、我が国は滅亡の危機に瀕している。絶望的な敵が我々の前に立ち……今、我々を殺そうとしている」


 だがしかし。

 ここにいる兵士たちはそんなもの気にしないだろう。

 

 兵士たちが待機している場を歩く僕の目に映るのは恐怖に震える兵士の姿ではなく、飢餓に苦しむ貧民の姿である。

 僕が自分の秘書に命令し、国境部へと送らせた貧民たち……この国で生きる価値の低い男どもである。


「……うぅ」


「お腹……お腹、空いた」


 彼らの頭の中にあるのは空腹感である。

 国家のことなど考える余裕はないだろう。


「さて、諸君」

 

 自分で言うのも何だが、僕の声は実に良く通り、人の心へと簡単に入り込む。

 ドワーフの国でプチ宗教を作り、子供たちを魅了し、僕がセクハラし放題の状態を作った僕の声の力は神がかったものがある。


「これより来るのは我々の食料である」

 

 既にエミリア様からカスリーン王国より宣戦布告を受けたとの伝令も、敵軍が動き出したとの伝令も受け取っている。

 この砦からも、既に敵兵の姿を確認することが出来る。


「我々を飢餓から救い出すため、ここへと駆けつけてくれる良質な餌である。前を見ろ」

 

 貧民たちはゆっくりと動き、この砦へと迫ってくる敵兵へと


「あれは獲物だ。我々を殺すため、牙を向けるものだ。森で、道で、海で、見つける我々を殺し……そして、我々が殺し、食べる獲物である」

 

 この世界には魔法という便利なものがある。

 ドワーフが得意とするのは身体強化系統の魔法であり、僕が得意とするのは精神操作系統の魔法である。

 僕が得意な精神操作系統の魔法でほんの少し、貧民たちを興奮状態へと変え、ドワーフの得意とする身体強化系統の魔法を使ってほんの少し、貧民たちの体を強化する。


「諸君。狩りの時間だ。己が空腹感を満たす時がやってきた」


 空腹感。

 それは人を狂わせるのは十分な苦しみであり……今、僕に唆された狂人たちはゆっくりと動き出した。

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