第12話

 結局。

 この国の第一王女であるエミリアは僕という毒を飲み干すことに決めた……と彼女本人は言っていた。


「結構ややこしい情勢しているな……」

 

 彼女の助手とか言うどれくらいの権限がわからない役目を与えられた僕は世界情勢、この国の状況について、王宮の中にあった図書室で本を読み、調べていた。


「終わっているな……これ」

 

 この国の現状。

 それはもう酷いものだった。

 まずこの国の地理的価値は皆無であり、気候は最悪。

 経済もほとんど死んでおり、優秀な人間は全員国を出ていくため、万年人材不足。

 現在の国際情勢はかなり不穏なものであり、激動の時代を迎えそうな感じがある……そんな情勢なのにこの国の情勢も不穏そのもの。


 この国の舵取りをするはずの国王は病で倒れ、意識不明。

 病で倒れた国王が次期国王を指名していなかったせいで第一王子、第二王子、第三王子が王座を争って政争中。

 国内はまとまっていないような状態である。


「……あの子、すごかったんだな」

 

 そんな国内情勢の中。

 最も強い影響力を持っているのが第一王女たるエミリア様である。

 国内で最も大きな派閥を持ち、多くの貴族を味方につけ、足の引っ張り合いを王子たちがしている間、必死に国体を維持しているのが彼女である。

 

 エミリア様が男であれば国王の座についていただろうとすべての貴族より言われている少女である。

 圧倒的な男権社会。それがこの世界のスタンダードなようである。サリカ法典があるのかな?この世界にも。


「ふぅむ……エミリア様の助手という立場もそこまで悪くないのかもしれないな……さて、と。問題の疫病であるが……」

 

 絶望的なアレステーヌ王国。

 そんな国で起きている現在最大の問題は飢饉。

 飢饉が起きた原因は単純で、主要作物の間に疫病が流行ってしまったことにある。

 

 どんな土壌であっても元気に育つ奇跡のような作物である『むかみ』。

 農業に適さない土地であっても育つむかみは農業どころか牧畜にも向いていない土地であるアレステーヌ王国で重宝され、この国の主食となっている。

 アレステーヌの民は一年間でむかみしか食べないと諸外国に言われるほどに依存していた。

 

 だが、このむかみの間で疫病が流行ってしまった。

 最悪なのはこの国がむかみを単一栽培していたせいで疫病は際限なく広がり、栽培されていたむかみのほとんどがダメになってしまったのだ。

 状況としてはアイルランドのじゃがいも飢饉に近いものがあるだろう。

 いや、でもブリカスによる飢餓輸出がない分まだマシ……いや、でもこの国は産業が死んでいるせいで諸外国から食料を買うことすら出来ないから同じようなものか。


「んー。ちょっと無理そう……」

 

 じゃがいも飢饉によって壊滅的な被害を受けたアイルランド。

 この飢饉によって被害を受け、人口を減らしたアイルランドの人口は、結局現代になった今でも回復していない。

 19世紀と20世紀を比較して人口の増えていないヨーロッパの国はアイルランドだけ。

 

 そうなってしまうほどにアイルランドで起きたじゃがいも飢饉は酷かった。

 そんな最悪の飢饉と似たような状況になっているこの国を僕が救えるか……ちょっと、難しいかもしれない。


「んー。どうしようかなぁ……」

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