第9話

「んっ。美味し」

 

 三日ぶりのまともな食事に僕は満足しながら、手元にある硬く、前世基準どころかドワーフの国基準でも食べれたものじゃないような味のパンを頬張る。

 ちなみにだが、ちゃんと食事の前にお風呂へと入り、服も新しいものを買ったので今の僕はちゃんときれいきれいである。


「そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 そんな僕の言葉を聞いてリリスが嬉しそうに頬を緩める。


「……」


 だが、その表情の中に深い悲しみが混ざっていることを僕は感じ取る。


「……飢饉発生中、かな?」

 

 僕はボソリと呟く。

 王都。

 本来はきらびやかであるはずのその場所は活気がなく、通行人のほとんどが痩せ細り、街に売られている食料品はほとんどない。

 今、僕が食べているパンもリリスが貴族の生まれであるからこそ買えたようなものであった……多分。

 パンを買う前、お店の人とリリスが僕を省いて二人で話していたから勝手にそう思っただけなんだけど。


「……は、ははは。そうなんだよね……この国の主要な食料品に疫病が蔓延しちゃって……」


「なるほど……」

 

 飢饉。

 それは地球の歴史においても大きな影響を与え、その問題は飢餓輸出、ロシアとウクライナの戦争、肥料不足などが引き寄せる世界的な食糧難……現代でさえ強い影響を及ぼす。

 

「ふふふ……全く。あの王女様は全く酷いことを考える。沈みゆく国に仕えろとは酷なことを言う」


 飢饉が発生しているアレステーヌ王国。

 順風満帆な国家であるとはとても言えないだろう。


「……気持ちはわかるが、いくらリストとは言え、エミリア様の侮辱だけはゆる」


「だからこそ、意味がある」

 

「……え?」

 

 笑みと共に放たれる僕の言葉にリリスが困惑の声を浮かべる。


「くくく……」

 

 僕はただのドワーフの少女である。

 何の後ろ盾も、力もないただの少女……しかし、前世で得たこの世界の人間を遥かに凌駕する知識を持っている。

 それは強力な武器となるだろう。

 されど、どれほど強力な武器であろうとも振るう場所がなければ錆付き、眠るのみ……だが、この国であればきっと、その武器を振るう場所があるだろう。


 ドワーフの国においてそこそこの立場の家の娘として生まれた僕はデブで毛むくじゃらのおっさんと結婚する定めにあり……そのことに絶望した。

 しかし、その定めは幸運なことに無くなり、僕は自由を手にした。

 

 その自由の中で何を為し、何を手にするかはすべて僕次第。


「僕は……」

 

 この国で出世し、金を稼ぎ、ウハウハ百合ハーレムを作ってみせる……ッ!!!

 色々なジャンルの女の子たちと毎日ヌチョヌチョするのだッ!!!僕はァッ!!!


「ふふふ……」

 

 僕は純度100%の欲望がこもった笑みを浮かべ、残ったパンを頬張った。

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