第2話

「那須木、ちょっと頼みがあるんだけどさ」


「どうしました?急に」


 四日前、バイト先の佐久間先輩から深夜に急に電話がかかってきた。佐久間先輩は大学のフットサルサークルの先輩でもあって、このバイトを僕に紹介してくれたのも彼だった。


「実は今日、ばあちゃんが死んじゃってさ、これから五日間くらい法事とか葬式とかでバイト行けなさそうなんだ。那須木、シフト代わってくれないかな?」


「僕が代わるのは全然大丈夫ですけど、佐久間先輩のおばあさん、先月も亡くなってましたよね?あと、たぶん先々月も」


 あっと、そうだったっけ?と佐久間先輩が素っ頓狂な声を出した。電話口の向こうからは、ねぇまーだー?、と女性の声が聞こえる。


「俺ちょっと家庭が複雑でさ、ばあちゃん八人くらいいるんだ。悪いね、那須木。今度ラーメンおごるからお願い!」


 佐久間先輩は決して悪い人ではない。ただ、ちょっと女の人に弱いところがある、それだけだ。僕がこうやって佐久間先輩のお願いを聞くのは、よくある話だった。


「僕、まだ先月の焼肉もおごってもらえてないですから。ちゃんと覚えててくださいね。こっちは結構楽しみにしてるんですよ」


「わかった、わかった。俺が知ってる中で一番うまい店連れてってやる。約束する」


「その約束、信じてますからね。僕のこと悲しませないでくださいよ」


「わーかった、わかってるって!じゃあ、よろしくな。ほんと助かるわ。あ、そうだ…」


「なんですか?」


「お前はたぶんまだ見たことないと思うんだけど、ちょっと変わったお客さんがいるんだ。来週の火曜に答え合わせしよう」


「なんのことですか?」


「まあ、いいからいいから。楽しみにしとけ、じゃっ、おやすみー」


 僕の返事を待つことなく、佐久間先輩からの電話は切れた。


 これが、四日前の夜の話。僕と彼女が出会うことになるきっかけとなった出来事だ。

 

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