ブロッコリーさん
青山海里
気になるあの人
第1話
店内に入ってきた、たった数秒の時点ですでにその人は周りの環境から浮いていた。その人が入ってくると、ごくありふれたスーパーマーケットは異物を飲み込んだかのような顔を見せる。
自分が周囲の人の視線を独り占めしていることに気づいているのかいないのか、その人はまっすぐ野菜コーナーに足を運ぶ。小さなスーパーマーケットの、小さな野菜コーナー。買い物用のメモを見るわけでも、いくつか手に取って見比べるわけでもなく、その人は一番右に置いてあるブロッコリーを無造作につかむと、迷うことなくレジへ持ってくる。
「いらっしゃいませ。こちら一点で百五十八円になります。袋はどうなさいますか?」
この人が口を開く前から、僕は自分がこれから受け取る答えをすでに知っていた。でも、それが仕事だから訊く。
「そのままでいいです」
答えると同時に差し出された掌の上には、きっちり百五十八円の小銭。
「かしこまりました。百五十八円、ちょうどお預かりします。レシートは―」
「いらないです」
「かしこまりました。ではこちらお品物になります。またお越しくださいませ。ありがとうございました」
その人はレジを去るときには必ず頭を軽く下げてくれる。それも僕はもう知っていた。
店を出ていく大きな頭をレジのスペースからじっと見つめる僕。
僕がブロッコリーさんを見るのは、今日でもう三回目。三日連続のことだ。
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