推し活

 自称しただけでは王にはなれない。そんなことは判っていても、第四王子は物心ついた頃から、〈王になる……〉ことを夢見てきた。

 ここは歳月がかかろうと自分のファンを増やしていくしかない。いわゆる、推し活運動を広げていくしかない。

「でも……王子、推し……というのは、誰かに強制されてやるものではないのではありませんか?」


 第四王子は、家宰、書記官、警護官などのスタッフを抱えているが、まずはかれらにを推してもらう……積極的かつパワフルに、だ。それを一般民衆へ広げ、それぞれがそれぞれに発信してきく。当然、推し活の対象は、第四王子……。

 スタッフミィーティングが終わり王子が姿を消すと、

「うーん、厄介だなぁ」

と、若い書記官がつぶやいた。

「……ぼくの家、みんな第二王子推しで……」

 すると、同じような声がわんさか……。

「いや、おれんとこは第一王子だ。文武両道の立派な青年に成長なされた。推しもなにも王座を継ぐのはあの御方おかたしかあるまいよ」

「いや、デジタルオンデマンドの時代、長男が家を継ぐのは古き慣習だぜ。そんなことにこだわる必要はない。われらの王子さまも、末男まつなんとはいえ、当然、王位を狙う権利はあるさ」

 そう横槍を入れたのは、主任警護官で、第四王子推し……かとおもえば、実はそうではない。かれは、第三王子推しらしかった。

「いや、第三王子こそ、王座にすわっていただきたい」

 そう断言する。

「なんだぁ? このスタッフのなかには、おつかえしている第四王子推しは、ほとんどいないのか……」

 ため息をついた家宰は、それでも、

「まあ人それぞれだからなぁ」

と、言った。

「……このさいわしが、里人の家を一軒一軒回って、第四王子推しを説いて回ってみるさ」


 この……人口数百人ばかりの王国にも、いろんな人生模様……いや推し活模様がある。



                ( 了 )


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