7.復活

 全ては一瞬の出来事だった。


 結城と八城は呆然と煙が出て行った窓を見ていた。脱力感が二人を覆っていた。


 やがて、八城がポツリと言った。


 「結城先生。これは一体?」


 「復活ですよ」


 「復活?」


 「ええ、イエスは13日の金曜に処刑された後、15日の日曜の朝には復活して、人々の前に現れています。つまり、14日の夜に死から復活したんです。あれと同じことが七海君に起こったんです」


 「えっ、どういうことですか?」


 「おそらく、イエスは殺されても、肉体が復活する特殊な体質だったのでしょう。そして、そんな特殊な復活体質を持った人間は、何百年か毎に生まれていて、21世紀にも生まれたんです。それが七海君だった。だが、七海君はイエスほど完璧ではなかった。生身の身体ではなく、一種のエネルギー体、霊体とでも言いましょうか、そういう状態で復活したんです。七海君は、2年前に焼死して復活し、初めてそのことを知った。不完全なために、生きながらえるためには、七海君は13日の金曜日に殺されて、14日の土曜日の夜に復活することを儀式のように繰り返さなければならなかったんです。最初は一緒に死んだ綾乃君と遥香君の霊体に殺されて・・二人の霊体が消えると、次に女子寮の二人の寮生に殺されて、その都度、再び復活して生きながらえてきたんです」


 「すると、二人の寮生は?」


 「おそらく、秘密を知っているので、復活した七海君に殺されたんでしょうね」


 八城が絶句した。


 「こ、殺された・・では、今日はどうして、七海は女子寮生ではなく、私に乗り移ったんでしょうか?」


 「まず、八城先生の身体で邪魔な僕を殺して、次に先生から出て、先生に自分を殺させて、明日の夜に復活してから先生を殺すつもりだったんです」


 八城がブルッと身体を震わせた。


 「七海はまた寮に戻ってくるのでしょうか?」


 「もう二度とこの女子寮には戻らないでしょう。でも、これからも、どこかできっと13日の金曜日に誰かに殺されては、14日の土曜の夜に復活することを繰り返していくでしょう。生きるためにね」


 八城が深いため息をついた。


 「悲惨な話ですね・・それで、結城先生。七海のノートの、13日の金曜日には『人をいくら怖がらせても許される』とは結局、何だったんでしょうか?」


 「イエスが死んで復活し、人々を畏怖させたことを指していたんです。つまり、死と復活を意味していたんですよ。七海君は、復活するためには誰かに自分を殺してもらわないといけない、そして、復活した後は、秘密を知ったその人間を殺さないといけない・・そんな生きるための死と復活が苦しくて、あのノートであなたに助けを求めたんです。かわいそうな人ですよ」


 結城と八城は再び窓を見た。窓から月の光が差し込んでいた。結城がポツリと言った。悲痛な声だった。


 「イエスにとっても、死と復活は受難の一つだったのかもしれませんね・・七海君のように死と復活が苦しいからこそ、イエスはあのように人々に愛を説いたのかもしれない」


 八城が黙ってうなずいた。悠久の歴史が二人を押し包んだ。


       了


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復活 永嶋良一 @azuki-takuan

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