ゲームセンターに寄る
「……それで、ここのどこに学生服があるのかな?」
「っ~~~~~~」
期待喪失、と言った感じの目線を送ってくる望月桜に、何も言い返せない私がそこにいる。
ここはリオンモール高魔が丘店の三階に設置されているゲームセンターの前である。
休日は特に、多種多様あるアミューズメント設備から流れ出るBGMと、それらに群がる人々の喧騒によって作られたカラフルな音色が鼓膜と心を揺さぶる。
その光景を見ながら、服屋に案内するはずだった私は苦し紛れの言い訳を言う。
「わ、私の足が勝手に連れてきたんです……」
それを聞いた望月桜は苦笑いを浮かべる。
「トノカって身長もそうだけど高校生らしくないんだね。」
「し、身長
憐れみの視線で上から見下ろしてくる望月桜に負けじと、私は背伸びをする。
しかし望月桜はそんな私に見向きもせず、パンフレットを開いた。
「あ、紳士服とかはちょうどこの下みたいだし、二次元的には間違ってなかったんだね。」
「え?」
横からパンフレットを見ると、確かに書かれている地図には三階のゲームセンターがある一階層下、二階フロアには紳士服、学生服などの店舗があるようだ。
ともあれ、今日は制服を買いに来ただけだから、ゲームセンターに用はない。
「と、とにかく二階に行きましょうか!」
「え? ゲーセン寄らないの?」
方向転換し、最寄りのエスカレータへ向かおうとする私を、望月桜が引き留めた。
「え、さく……望月さんはゲーセン寄りたいですか……?」
「うん。トノカは寄りたくないの?」
「う~……寄りたいのはやまやまですけど……」
財布の中を確認する。
中には制服代を除いて千円札が二枚と小銭が少々しかない。
使おうと思えば使えるが、わざわざゲームに使いたくない。
──正直行きたくないな……。
すると、あまり乗り気でないのを察したのか、望月桜は一人dえゲームセンターの方へ向かって行っている。
「ま、待って! 私も行きます!!」
慌てて私も付いて行く。
──節約しなくちゃ……。
──────────
結論から言う。
何も取れなかった。
財布に入っていた小銭と崩した千円は瞬く間に無くなってしまった。
にもかかわらず、手元には景品の一つもない。
「あのアーム設定……取らせる気ないですよ……!」
「トノカってUFOキャッチャー下手なんだね」
ブツブツと毒づく私にそう声を掛ける望月桜。
なにおう……と思ったが、UFOキャッチャーが苦手なのは事実。
それに望月桜の両手には大きな袋が握られていて、その中には私が苦戦している間に近くの台で撮った景品の数々があった。
「ぐぬぬ……でもおかしいですよ。私のアームは全く動かなかったのに、さく……望月さんがやったらあんなにも動くなんて絶対おかしいですっ!」
私がやったら景品を撫でるだけだったのに、望月さんがやったら何十センチも動いた。
あの挙動は絶対おかしい……。
「いやいや、コツが分かれば誰でもできるよ」
「ほんとかなぁ……」
あんまり納得できないが、今日の目的はあくまで制服を買いに来たのだ。
UFOキャッチャーをしに来たのではない。
──UFOキャッチャーのコツってなんだ……??
頭を捻りながらも、私は歩先をゲームセンターの出口に向けた。
「あっ…………」
ふとそんな声が聞こえた。
足を止めて振り返ると、望月桜はとある台に目を向けている。
どうやら大型の台らしく、三本爪の大きなアームが付いた台には大きなネコのぬいぐるみが入っている。
「ネコのぬいぐるみ可愛いですね!」
白色のネコで人気があるらしく、奥の景品棚にはもう既に別の景品が陳列されており、今も一人の女性がプレイしている。
しかし、大型の台であるからか難易度も高く、何度掴んでも撫でたり落下する有様だ。
少しして諦めたらしく、「……ま、いっか!」と呟いて台を離れていった。
「……ねぇトノカ、あれだけ最後に取ってくるけど良い?」
「良いですけど……取れるんですか? さっきの人も取れてなかったですし……」
「もちろん。コツを知ってるからね」
「コツ……?」
済ました顔で言う望月桜は台の前に付き、100円玉を一枚だけ入れた。
「え? 500円入れないんですか? 一回無料で出来るのに……」
「これでいいんだよ。一回で取ればいいんだから」
──一回で取れるのかなぁ……?
そんな私の不安をよそに、望月桜はボタンを押した。
右移動、奥移動でアームが動く。
アームはちょうどネコの真上に行った。
ここまでは普通のUFOキャッチャーだ。
なんならありきたりな方法とも言える。
テレレーテレレ―と音楽を鳴らしながら降下する。
これからできる手といったら、「ガチャンッ」と地面に着く直前で景品を直接キャッチする手法か?
いや、それをやっても一回では取れないだろうに……。
「…………っ」
「ん……?」
一瞬、視界に何かが映った気がした。
次の瞬間、地面にアームが付き景品をキャッチ。
そして……。
「あ、上がった!?」
アームにがっしり掴まれたネコのぬいぐるみが、順調に持ち上げられていく。
まあここまではたまにあるパターンだ。
上げることで期待させ、結局落とすことによってプレイヤーを更なる沼へと誘うのだ。
だから私はこのまま落下する未来を予測した。
しかし……。
「え……」
一番上に持ち上がったアームは、見て分かるくらい強くネコのぬいぐるみを掴んだまま、取り出し口へと向かっていき。
「よしっ」
獲得を知らせる効果音が鳴った。
「じゃ、行こうか。」
「ええぇぇ……!?!?」
何事もなかったかのように、平然とこの場を去ろうとする望月桜の方を掴む。
実は少し心当たりがあった。
どうして望月さんはあんなに景品が取れるのか、アームのパワーが強いのか。
あの動き、あのアームパワー。
私は分かった。
望月桜は
「まさか魔法を──」
しかし私の言葉が終わる前に、私と望月さんの間に割り込む人がいた。
「あなたUFOキャッチャーお上手ね!? わたしがやった時は持ち上がりもしなかったのに!」
「えっ……ま、まあ、はい。…………嫌味?」
「え!? いやいやいや別に嫌味を言いに来たわけじゃないわよ!? ……ちょっと羨ましい気持ちもあるけど、取ったのはあなたなんだし、とやかく言うつもりはないわ!」
「そ、そう……」
「この人……」
異様に明るく話しかけてきたこの人は、さっきこの台をプレイしていた女性であった。
女性、と言っても成人女性ではなく高校生ぐらいだろうか。
容姿は望月桜と同じくらいの身長と、黄色っぽい橙色の髪を後ろ髪は後方で纏め、前髪は黄色のカチューシャを付けたポニーテール。
いかにも明るい女子高生、といった感じだ。
しかし違和感があった。
それは彼女からの目線。
「あ、自己紹介がまだだったわね? わたしはカスミ、
「わ、私は望月桜……」
「間陽野十乃華……です」
ズイズイと入ってきた朱雀霞は「そう!」と言うと。
「ごめんなさいね突然話しかけて。またどこかで会ったら気軽に話しかけて頂戴!」
そう朱雀霞は微笑みながらその場を後にする。
結局一度も感情の籠った視線を向けることなく。
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