第5話 院長室
やっと解放されたユウトは、院長先生の部屋に向かった。
等間隔で設置されているオイルランプの橙の光が、ぼんやりと廊下を照らしている。
旧時代には電灯などがあったというが、今は電気などは普通は使われない──否、使う事が出来ない…というべきだ。
ロストテクノロジーとなった発電・送電システム。技術も技術者も居なくなり久しい。辛うじて使える発電システムは各監理機関で使われるのが精々である。
『…もう少し明るいと歩きやすいのにな……』
歩くと少し軋む廊下がいつもより暗く感じた。
奥の部屋──院長先生の部屋の扉をノックする。
陽当たりが余り良くない場所で、尚一層の暗さだった。
「お入りなさい」
中から、院長の声がする。
その声にユウトは応えて、部屋に入る。
部屋の中も薄暗い。院長の表情が読み取れない程度には。
必要最小限しか置かれていない調度品は、蜜蝋燭の光に揺れて陰影を浮き立たせている。幻想的というよりは不気味さが上回っている。
「お話は何でしょうか?」
何か叱られる様なことをしただろうか?とユウトは思う。
「…そう身構えなくても大丈夫ですよ」
院長はユウトの心を見透かした様に柔らかい口調で声をかけた。
「募集要項はどうでしたか?」
ユウトは伝えるべきかを迷った。
危ない事はしなくて良いと常日頃から言われているが、敢えてそれに反していることをしている自覚はあったから。
院長も募集要項だけ見れば満足すると思っていただろう。
「…今回は無理そうです」
「今回は…?」
今日確認してきたことを素直に話した。
端的にいうと、受験費用が高額すぎて手も足も出ないと。
「…暫く別の方法を探しますが、必ず迷宮に行きます」
「辞める気はないんですね」
「…はい」
暫く双方は沈黙をした。
ゆるりとした静寂の間、窓の外はなお闇が濃くなり蝋燭の灯りが揺らめき続けた。
「…決意は固そうですね。いいでしょう」
院長が机の抽斗より金貨を二枚取り出し、机の上に置いた。
「これをお使いなさい」
「これ…は?」
ユウトが目を見開く。
何年掛かるか解らないほどのものがいきなり目の前に現れたのだ。驚くなという方が無理がある。
「そうですね…貸付ということにしておきましょうか。その内返してもらえば良いので遠慮しないでください」
「…ありがとうございます!」
丁寧に礼をしてユウトがそれを受けとる。
院長はその姿を見て、目を細めていた。
「…あの子は魔力適正も高く美味しそうですね……さぞかし喜ぶのではないでしょうかね…」
蝋燭に照らされて嗤う影が揺らぐ。
「…最近は色々要求が増えて面倒ですが、今回は暫く大人しくしてくれそうですかね」
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