第4話 廃墟の街

 ユウトはぼんやり考え事をしながら歩いていた。


 考え事をしてはいたが、足はまっすぐ自分の帰るべき孤児院へとむかっている。




 足元は余り良くない。


 旧時代の幹線道路は、あちこちがでこぼこになり、ひび割れそして陥没している。


 高架の高速道路は崩落し、幹線道路の両脇にあった建造物はコンクリートが崩れ、むき出しになった鉄筋は酸化と風化が進み原型をとどめていなかった。




『…旧時代の首都、と言われるだけあってやっぱり巨大な建物が多いな』






 旧山の手線内側地域は、迷宮から溢れ出した瘴気に呼応するかのように旧皇居パレスから植物が溢れだし、黒く深い森を形成している。一歩入れば方向感覚を失なうような深く不気味な森。


 一部を除き立ち入りが制限されている場所である。




 旧山の手線外側地域は、そこまで旧時代も木々が少なかったのか黒い森に飲まれることはなく、巨大なビルの廃虚群に少々生育激しい蔦が絡まる程度だった。まぁ、蔦の形成する植物の地下根は手間は掛かるが食材に薬にとそれなりに役には立つのだが…。




『…兵どもが夢の後…か……』




 そう言ったのは誰であったか?


 何故、そんな言葉を思ったのか…ユウトは解らなかった。












「おかえりーユウト!」


「どこまでいってたのー」




 孤児院に着いて“ただいま”を言う時間も貰えぬまま、自分より年下の子供達に囲まれ質問攻めにされた。




「試験の要項確認しに行ってきたんだよ」


「どーこーまーでー?」




 一つ答えれば次の質問が飛んでくる。


 そういう空間は嫌いではない──が、少々歩きっぱなしだったので長時間は辛いところだが、10歳に満たない子供達は敷地からそう遠くは出られないので気持ちは良く解る。




「旧アキハ地区のヤッチャ※1


「どこだかわかんなーい!」




 子供達がキャッキャと騒ぎ立てる。


 娯楽の少ない世界、変わった話が娯楽の一種だ。




 子供達が少々騒ぎすぎるなか、孤児院の数少ない大人──管理をしている院長である──がユウト達の方へゆっくりと近づいてくる。その風貌は少しばかり神経質そうである。




「帰ってきましたか。ユウト、後でで良いので奥の部屋に来てくださいね」




 そう言うと院長は奥の部屋に向かった。


 非常に機嫌良く、獲物を選ぶようなその目は誰の目にも触れられることは──無かった。





場所捕捉

※1

 旧神田青果市場。現在のUDX(秋葉原)

 


 

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