第9話 みーさんの3日間


佐野海凪さのみなぎ(29)


彼女は24歳の時に起業、5年経った今では年商1億を超える立派な会社の代表取締役社長となっていた。


そんな彼女はものすごく多忙である。


「社長、来年の人員計画についての資料です。目を通しておいでください。それと新規ビジネスについての会議なんですが——」


テーラードスーツを羽織り美人秘書を連れて車内を歩くその様は社員の憧れの社会人像であり、社内のアイドルのような存在でもあった。


「社長美人すぎる……よし、仕事がんばろ」

「ほんとに美人っすね…先輩、俺声かけに行ってもいいっすか!?」

「軽くあしらわれて終わりだろうな」

「女でも惚れちゃうスタイルだよね……」


そんなバリバリキャリアウーマン美人女社長、一見仕事しか興味ないように見えるが実はバリバリのゲーマーなのである。無論このことを社内で知っているのは美人秘書のみなのだが。


(ふぅ、仕事忙しすぎてみんなで再会するの明日なのに何にも装備揃ってない……)


みーさんは装備を揃えるためにも早足で退社した。



——ガチャッ——


家の扉を開けると同時にヒールを脱ぎ靴下をポイッポイッと脱ぎ捨てるとすぐさまベットに飛び込んだ。


「つ、疲れた……」


今日もよく頑張った私。1時間だけゲームするか。そんでご飯食べてお風呂入って寝よう。 


みーさんはゴーグルを着用した。


『ユーザー名"miiiiiiii" ログインを確認しました。』


どんどんとアバターが形成されていく。


前回みんなで解散した後、中途半端なところで秘書から電話がかかってきてやめたので、よくわからない草原でリスポーンした。


「よし、どっか適当なダンジョンでも潜ろうかな……」


——ドォォォォオン——

 

ビクッッ


な、なんだ…!?


突然後ろから何かの衝突音が聞こえてきた。音のした方を向くと、そこには2人のプレイヤーが手に汗握る激闘をしている最中であった。


「このドロップ品の帰属者は俺だ!」

「いやどー考えても俺だろ!オルァ!」


ドロップ品をかけて戦う2人と間近でリスポーンしてそれを傍観する女社長。あまりに変な構図に自ら笑いそうになるがそこはじっと堪える。


意外にも2人のイザコザは見てて飽きないもの、というかまぁまぁの接戦だったので、決着が着くまで見てようとみーさんはその場に腰を下ろした。


「「うおぉぉぉぉぉぉおお!!」」


ドロップ品のレアそうな弓をかけて、お互いの剣は速度を増していく。今この瞬間に勝負を決めようと思ったのか、2人とも戦技の予備動作を構えた。


お、決着がつきそう。


「エンシェントファイヤー!」


「オールドバーン!」


——ドガァァァァァアン——


凄まじい音と共に砂煙が巻き上がる。


(どっちだ!?一体どっちが勝ったんだ!?)


みーさんは煙が落ち着くのを待つ。


そこに勝者として立っていたのは……




「……あ、あれ?……いない?」


そう、そこには誰も立っていなかったのだ。つまり相打ちだったというわけである。そしてそこには2人の激闘の痕とも言える2人分のドロップ品が落ちていた。


「これ…貰っちゃうか。私って本当運いいな」


みーさんは自らの予言通り、歩いているだけで装備を揃えてしまったのだ。それもこれもみーさんの豪運とタイミングを掴み取る才能なのである。


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みーさんの装備

武器:強弓ごうきゅうアルバトロム(攻撃力:45〔ヘッドショット:90〕)

防具:ヌーメロウの鱗装備一式(セットボーナス:反撃ダメージ10)

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ふぅ、30分くらいしかしてないけどもう終わろう。

お腹すいたしお風呂入んなきゃ出し。


『ユーザー名”miiiiiiii” ログアウトを確認しました』





「んはぁ…生き返るぅ」


海凪は上空200メートルにあるガラス張りの湯船につかっていた。手でお湯をすくい、自分の肩にかける姿からは大人の美しさを余裕に感じられる。


ほかのみんなは今頃何してるんだろう、そんなことを考えながら、海凪は湯船に顔を半分まで沈めぶくぶくと泡を吹かすのだった。













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