第8話 baluluの3日間
一方ばるが訪れていたのは、ダンジョン【ナタ監獄】だった。
ナタ監獄
それはかつて城が建っていた場所にある地下監獄である。出てくるモンスターの難易度は低めにも関わらず所々に宝箱があり、中にはレア装備が入っているとか。
これだけ聞くと一見めちゃめちゃ人気のあるダンジョンに思えるかもしれない。
しかしこのダンジョンはプレイヤーの中で最も嫌われているダンジョンであった。
それはなぜか。理由は一つ、クッッッッソ複雑な迷路のような造りだからだ。
一度入ったらもう出れない。来た道を戻ろうとするも来た道がどこかわからなくなってる。目印を置いても帰る時にはなくなっている。
終いにはプレイヤーは出ることを諦め、わざとモンスターに倒されて外へリスポーンすることを選ばざるおえない。
別名【生きる監獄】。
それに挑むのは、瞬間記憶能力の持ち主baluluである。
◇
「ふぉぉぉぉぉぉぉお!なんだこのダンジョン物資うますぎだろ!」
ばるは歩けば歩くほど見つかる宝箱に歓喜の雄叫びを上げていた。
「いやーこれ俺一位確定やーん。ん?…お、おい…あれは…」
ばるは数十メートル先に何かを見つけた。それは今までに見たことのない、紫色の光を放っている。
ばるはまさかそんなわけないと自分に言い聞かせながら近づく。しかし近づけば近づくほどに、それは自分の期待をいい意味で裏切っていく。
「こ、これは紫等級の武器!?!?」
それは日本ではまだ手に入れたという情報が出回っていない紫等級(ヒロイック)レアの槍【守護神の行き先】だった。
「っ、ぐふ、うっへっへ」
ばるにはその喜びを言葉にするボキャブラリーを持ってなかった。だからこのような気持ち悪い笑みを浮かべているのだが。
「こんなん勝ち確定やん…防具は全部は揃ってないけどもう帰っちゃうか!」
そう言うとばるは【守護神の行き先】を手に取る。その時だった。
——ガコンッ——
何かが作動する音がした。
ん?なんだ?とばるは周りを見渡す。しかし特に変わっている部分はなかった。そんなことよりもばるは手に入れた紫等級の武器に頬をすりすりし夢中な様子だった。
ばるはその他にも持って帰れそうなものは空間収納ボックスの中に入れた。
「よーし帰りますか。道複雑って聞いてたけど期末テストを前日に丸覚えするよりかは簡単だったし、もしかしてここ穴場ダンジョン?」
そんなことを言いながらばるは来た道を戻っていく。
「この道は確かに右から2番目だよね……ん?」
元来た道を覚えているばるはその道に違和感を覚えた。
確かに右から2番目の道を通ってきたけど…ここにバツみたいな傷あったっけ?
ばるの超能力的な瞬間記憶がこの違和感にwarningを出していた。
なぜこのような事態が起こっているのか。答えから言うと先ほどの——ガコンッ——である。
このダンジョンの目玉でもある紫等級の武器をナタ監獄がそう簡単に譲るわけもない。
その武器を手に取ると同時に装置が作動、さまざまなギミックを経て道をランダムに入れ替えるのだ。
このダンジョンへ来たものは絶対に逃さない。これがナタ監獄が生きる監獄たる所以なのだ。
今頃ナタ監獄はまたカモが釣れたとニタリと笑っているに違いない。
しかし相手が悪かった。
「絶対にこの道ではない。ってことは……あ、ここの壁の傷覚えてるわ。てことはこの道か」
ばるは来る際にパッと目に入っていた壁の傷を見つけてそれが来た道だとわかった。それと同時にさっきの作動音の正体もわかったのだ。
「んー道がごちゃ混ぜになってんのか?ったく、面倒くさいけど記憶の解像度あげるか…」
ばるは目を瞑り両手の人差し指2本で側頭をトントンと叩く。その間にもばるの頭の中では来る時に通った記憶を頼りに細かい情報を集めていく。あそこの壁にはこんな傷が、小さな苔が、石レンガの配列は……
側頭トントンがピタッと止まった。
「さて……帰るか」
ボソッとそう呟くと、ばるはなんの躊躇いも無くランダムに入れ替わった道を進んでいく。それはまるで元からその道を通ってきたかのやうな足取りだった。
ばるの圧倒的な観察眼と記憶能力が織りなすこの超能力にナタ監獄は焦っているに違いない。
ま、待てえぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!
ダンジョンの奥底からそう聞こえてきそうである。
そんなことはお構いなし、ばるはナタ監獄の出口を見つけると突っ走って出て、数時間ぶりとなる陽の光を浴びた。
そしてその手にはしっかりと紫等級【守護神の行き先】が握られていた。
「いつもの事ながら……Perfect job……」
———————————————
ばるの装備
武器:守護神の行き先(攻撃力:39)
防具:頭:無し
胴体:迷宮メイル
グローブ:迷宮グローブ
足:チェーンレギンス
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よし、今日はこの辺で辞めとくか。あー早くみんなのびっくりする顔見て〜。
『ユーザー名"balulu" ログアウトを確認しました。』
◇
「ばるー!ご飯よー!早く降りてきなさい!」
お母さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと待ってー!今降りるー!」
ばるは軽やかなステップを刻みながら下の階へと降りていく。いい武器を手に入れた後の達成感と共に食べる母さんの料理は絶品である。
「お兄ちゃん早く〜もうお腹ぺこぺこ〜」
妹のはながばるを急かす。ごめんごめんと席に着くと家族みんなで手を合わした。
「「「いただきまーす!」」」
司たちとの再会を楽しみにしながらばるは唐揚げを頬張った。
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