第5話 ネットヤンキー
「あれはネットヤンキーか」
人混みの中心でプレイヤーをリンチしているプレイヤーを見て司はそう言った。
"ネットヤンキー"
それはダイバー型VRのゲームが開発された当初からぼつぼつと現れ出した。まあ簡単に言えばネット上でオラついている奴らのことだ。
ただオラついて自らの存在をみんなに主張しようとする思春期タイプ、ゲーマー女子にナンパまがいなことをする厄介タイプ、PK(プレイヤーキル)をして物資を剥ぎ取るヤ○ザタイプなどいろいろ存在する。
「強い人おらんのかな?なんで誰も止めないんだろ」
まながそう呟く。
普通なら強いプレイヤーがネットヤンキーを見かけると、注意をしたり追い払ったりしてお礼を貰おうとするのはよくある事だし、強い者の責任みたいな風習もある。
しかし誰にもそのような動きは見られなかった。
「ぎゃっはっは!こいつ初心者だからチュートリアル終わりにもらえる10000銀貨もってやすよ兄貴!」
「ったく、これだから初心者狩りはやめられねえなあ!!」
ネットヤンキーが野太い声で騒ぐ。
その手には青く輝く短刀が握られていた。
「くそっ、なんであのネットヤンキーレア武器の【闘牛の束】もってんだ……」
「今の段階で青等級もってるやつなんているのか……?」
「私たちも巻き込まれるかもしれないし…ここは離れた方がよさそう……」
周りからはザワザワとそのような会話が聞こえてくる。
その様子を見たまなは来た道を振り返った。
「流石のうちらもこれだけ武器差あったら勝てないでしょ。助けれないのは残念だけど、ここは大人しく引くしかないね」
まながそう思うのも仕方ない。ZONE DAYとは常に生きるための判断をとれる者が勝ち残るゲーム、そういう世界で戦ってきたからこその判断なのだろう。
その考え方はもちろん司にもある。
しかし勘違いしてほしくないのはendとmanaでは格が違うということだ。
「さ、司みんなのとこ帰る…よ…あれ?どこ行った?……ってえ!?司なにしてんの!?」
なんと先程まで隣にいた司がネットヤンキーの集団へむかって歩いて行っているのだ。
「ぎゃっはっは!次は誰をぶち殺してやろうかな…っとおいおい…兄貴カモが来やしたよ」
1人のネットヤンキーが司を見てそう言った。
「おいおいぃ…てめぇ装備も持たずに何しに来た?操作方法わからないなら10000銀貨で特別指導してやろうか?えぇ?」
【闘牛の束】をもったリーダー格の男が司へと近づく。
司より一回りは大きいだろうか。体もだいぶゴツい。しかし司はまったく物怖じする様子がない。
「たしかこういうゲームって強い人がお前らみたいなのをしばくのがルールだったっけ?」
司はリーダー格の男を煽るような口調でそう言った。
「司なにやってんだ…!」
まなが止めようと人混みを割って来るも、司はそれを止めた。
「可愛い声した嬢ちゃんじゃねえか。お前ぶっ殺した後そいつも連れ帰ってやるよっ」
リーダー格の男が【闘牛の束】を空へ掲げるとそれを思いっきり振り下げた。
——キイィィィィイン——
それは斬撃をも飛ばし、辺りに砂煙が舞い上がった。
「やりましたね兄貴!」
「雑魚がでしゃばるからこうなんだよ!」
「ぎゃっはっは!あんな奴今ので1発だろ……ん?」
ネットヤンキーたちは周りを見渡す。
なぜなら先程まで目の前にいたはずの無装備の男は、ドロップ品も落としたわけでもなくその場から姿を消していたからだ。
「……どこ逃げやがった?探せ!まだ近くにいるはず…グハッ」
1人のネットヤンキーがドロップ品となり消えた。
「おいお前どうした!?サーバー落ちか?何が起こってやが…グフッ」
「本当に何が起こってやがる!?お前ら逃げダハッ」
1人、また1人とリーダー格の男を残して消えていく。
「な、なにがどうなってんだ!?誰の仕業だ?姿を表せクソイモリが!」
誰がどこで何をしているのかもわからないまま味方だけがどんどんと倒れていく。
「う、うう、うわあぁぁぁぁぁぁあ!!」
リーダー格の男は武器を振り回し斬撃をありとあらゆる場所に飛ばしまくった。
しかし死神の手は彼の死角、空から降り注いできた。
——ボキッ——
骨の折れる音と共にリーダー格の男は倒れた。
空から降ってきた男に目に見えない早技で首を折られたのだ。それはFPSやRPGなどジャンルを問わない必殺技、
司は綺麗に着地を決めるとふうっと一息つき、手を汚れを払いのけるようにパンパンとはたく。
そこにまなが心配そうな顔をして駆け寄ってきた。
「つ、司!さすがにあれは無茶しすぎ…」
「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」
まなの言葉を遮るように周りにいたオーディエンスが湧き上がる。
「何がどうなってたんだ!?」
「さっきの人すごい…POGフレンドになりたい…」
「もしよかったら私たち…君とクエスト受けたいなぁ♡」
司の周りに多くのプレイヤー達がごった返す。中には司をチームに誘おうとしてくる者までいた。
や、やばい。まなのこと見失いそう…
人混みにのまれそうになるもそこは司お得意のルートを見て、しっかりとドロップ品とまなを捕まえてオーディエンスから抜け出した。
「おーい司ー!」
人混みを抜け出したところにばるとみーさんが駆け寄ってきた。
「お前らよくこの人混みから抜け出してきたな……ってお前なんだその武器!?」
ばるは司の手に持たれている短刀を見てそう言った。
「あぁこれ?ネットヤンキー達から奪ってきた。人助けできたし武器も手に入ったしでめっちゃラッキーだな俺」
司は得意げな顔でドヤっている。それを見ているまなは司を心の中で否定した。
あれはラッキーなんかじゃない。
人混みと自らの凄まじい速さを利用して姿を消し、10秒も満たないうちに取り巻きを殲滅、最後なんて何もない空中から急に現れて何食わぬ顔で首をクラッチしちゃうんだから。
まなは司に恐怖を覚えていた。それと同時に…
(やっぱendはかっこいいな…!!)
manaにとってendは憧れでもあった。
「てかさっきの戦いで水分ゲージ尽きそうになってんじゃん!ちょ、もっかいカナリア行くぞ!」
司が慌て出す。それもそうだ。水分ゲージが尽きると毎秒1ずつダメージを喰らってしまうからだ。これはレベル1の司のパラメータ的にかなり痛い。
「「えーまたー?」」
他の3人の言葉が息ぴったりと揃う。そんな3人の肩を掴み、まあまあと言いながら司達はカナリアへと戻っていった。
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