第4話 はじめてのRPG


「くっそ、、どーしたらいいんだっ、、」


世界最強の男は悩んでいた。


今までどのような厳しいシチュエーションだとしても、持ち前の実力と切れる頭で華麗に乗りきってきた。しかし彼は悩んでいたのだ。


RPG最初の関門、ジョブ選択に。



「どれがいいんだ、、」



それぞれのジョブには得意なこと、苦手なこと、特有の戦技など様々な利点がある。


しかし彼が悩んでいる理由はそこではない。


「せっかくRPGの世界に来たわけだし、、いろいろ武器使いたいんだよなー」


ジョブにはそれぞれ得意武器がある。例えばアーチャーなら弓が得意だ。しかし大剣は使えない。このようにやりたい武器の何かを犠牲にしなければいけないのだ。


もちろんジョブを進化させていければ使える武器は増えるがそれまで我慢できないしなー。


――――――――――――――――――

ジョブ

・ウォーリア  ・アーチャー

・ナイト    ・ランサー

・ガンナー   ・僧侶

・マジシャン  ・バトルマスター

――――――――――――――――――



んー、ん?バトルマスターって何?



司はバトルマスターをタップして詳細を見る。


――――――――――――――――――———

・バトルマスター


 全ての武器を使うことができる。


 戦技:なし

特殊スキル:防御力を攻撃力に変換できる。

      全てを攻撃力に変換した場合

       攻撃に当たると即死。

――――――――――――――――――———



な、なんじゃこりゃ、、、おれにぴったりの職業にも程があんだろ、、、!


戦技ってのが無いのは確かに惜しいところではある。しかし全ての武器を使えるなら楽しみ方もその分増える!これしかねえ!


司は即決でバトルマスターを選んだ。


『ユーザーネーム:end バトルマスターとしての新たな生をこの世界へ生み出します。』


アナウンスの声と共に、司の視界に景色が流れ込んでくる。





鳥のさえずりが聞こえてくる。見渡す限りに広がる緑の草原、堂々と立つ木々、ところどころ隆起している岩肌。


始まりの地、【イニシャルタウン・郊外】へと司は降り立った。


うおおおおおおおおお!すげええええ!体がいつもより思い通りに動く。さすが3大企業が作ったゲーム、ダイバー感が半端じゃない。


ぴょんぴょん飛び跳ねながら周りを見てみると自分の他にもプレイヤーが見掛けられる。さすがMMOって感じだ。



さて、確かイニシャルタウンのギルド【カナリア】ってところが集合場所だったよな。街までここから約3km、集合時間まであと5分ないってところか。


司は軽いストレッチをしてクラウチングスタートのように屈み込んだ。


「間に合えばいいな」


———ドォォォォォォオン———


ものすごい音と共に司は地面を蹴り上げる。とてつもなく低い姿勢で、最高速度を維持しながら司は街へと駆けて行く。



「お、おい、なんだあの速いの、、」

「ん?なんかモンスターでも湧いてるんじゃないの?」

「ほんとに?まあならいいけど、、、」



司は他人からみて、人間がモンスターかの判断も誤らせるほどの速さだった。



そして司はこの速さで走ったことを後々に後悔することになる。





(よし、4分でイニシャルタウンに着いたぞ、、!)


綺麗な水路、丘を段々に整備し斜面に建てられている家、丘の頂上の中心にあるとてつもなく大きい風車。司はイニシャルタウンへと着いた。


目標到達時間まで後1分、マップは一度読んで理解しているからカナリアの場所はわかる。


しかし司の前には、まるで集合時間を守らせまいとたたずむ多くのプレイヤーの混雑がそこにあった。


だが、世界最強の男にはそんなものないも同然だった。


彼は見えているのだ。人混みの中、最速かつ最短でカナリアへと向かうルートが。


体を横にして、あるいは飛び越え、またあるいは人の股を滑りくぐり、カナリアが目と鼻の先のところまできた。


あと10秒、このまま突っ切る!!!


残り約100メートル、司はさらに速さを上げる。


―――バアァァァン―――


走った勢いのまま、扉を開けてカナリアへと入った。


軽快な音楽、居酒屋特有のザワザワ、充満するおいしそうな匂い。

司はクエスト斡旋&酒場ギルド【カナリア】に着いた。


あいつらどこにいんだろ。さっきメール見た感じ、入って右の端の方らしいけど。


司は辺りを見渡す。すると明らか自分を見て手を振ってる3人がいることに気付いた。


なんかなつかしいなぁ、、、この4人で揃うのも1週間ぶりか、、※彼らにとっては長いです


司を見たbaluluはすぐさま駆け寄ってきた。


「えんどー!」


「ばるー!」


二人は手を取りあうとルンルンキャッキャとスキップを始めた。


「まったく…ほんと仲良しだな。」


「ふふ、なんかほのぼのするわあ。」


司とばるを見た二人がそうつぶやく。


「お前らも久しぶりだな!まな!みーさん!」


ユーザー名"mana"

司たち仲良し4人組の一人。ZONE DAYのプロチームに所属していた経歴があり、司もその実力を認めている。ダウナーな雰囲気を醸《かも》し出しているが、心の中はハイテンションな17歳JK。


ユーザー名"miiiiiiii"

同じく仲良し四人組の一人であり、みーちゃん、みーさんと呼ばれている。そこそこ若いにも関わらず、会社を経営している女社長。他の3人が暴走した時のブレーキ役、26歳。

 


約1週間ぶりの再会にみんな歓喜の表情を浮かべる。


「いやーそれにしても司が来るとは思ってなかったなあ。」


まながカナリアで買えるバターエールを飲みながらそう言った。


「たしかに司くんFPS一本って感じでだったしね。」


まなに続きみーさんもそう言った。


「まあ確かに最近は連勝記録争い激しかったからな。でも俺と記録競ってた奴が途中で雑魚死してだいぶ猶予できたんよね」

 

それを聞きばるはなるほどと頷く。


「だから俺が誘った時結構快諾してくれたのか。もうちょい渋られると思ってた」


まながエールを飲み干し、早速今日集まった本題へと入った。


「とりあえず今日からうちらこのゲームするわけだけど、目指す場所はどこ?」


それは4人で同じゲームを始めた時に必ずする話し合い、〔このゲームで何を目指すの?〕と言うものである。


「まあそりゃあもちろん…?」


「毎度目標は一緒だよね」


「やるからには世界一だろ!」


4人がテーブルを中心に手を合わせる。


「頑張るぞー!」


「「「えい、えい、おー!」」」


司の音頭と共に他の3人がえいえいおーした。


「ふぅ、やっと俺らの冒険が始まったって感じだな」


司がふとそんなことを言った。そんな司を見たまなはある違反に気づく。


「あ、あれ?司装備は……?」


「……へ?」


司がすっとんきょうな声で返事をする。


「てか俺も思ってたけどなんでお前ら装備持ってんだ?……まさか俺をおいてクエスト言ったらしてたのか…!?」


みんなが違う違うと手を振った。


「司くん…チュートリアル受けてないの…?」


「…へ?」



女性陣がやれやれと司に視線を向ける。


「自分の足が早すぎてチュートリアル飛ばしてくるなんてことある?」


「ある意味司くんらしいと言えばらしいけど…」


一方ばるは…


「司すげー!!!」


いやていうか足が速いだけで飛ばされるチュートリアルってなんだよ!絶対に受けれるようにしとけよ!


そう心の中で司は叫んだ。


※補足

ダイバー式のVRゲームではその人の脳の処理速度がゲーム内での動きにつながるため、現実世界を超えた動きもその人の脳処理速度次第でできるようになる。だから司はありえん速さで走れたってわけっすわ。


「チュートリアル受け直してくるか…」


「まあそうしないと武器すら手に入らないからね。まあ善は急げよ」


いやいやさっき急いできたから今こうなってるんだって


と心のなかで司はつっこんだ。なんであんな早く走っちゃったんだ…


みんなは席を立ちはカナリアを出た。


すると出てすぐのところに何やら人溜りがあった。


「ん?なんだこの人混み。祭りでもしてんのか?」


ばるが背伸びをしてみようとする。しかし人混みの中心部は見れそうにない。


「おれとまなで見てくるわ」


司がふとそんなことを言った。


「え!?なんでうち?」


「この前ルートの見方教えてやったろ。そのテストみたいなもんだ!」


司は前にルートの見方をまなに教えたことがあったのだ。ゲームで勝つためには必ず必要になってくる技術である。


「そゆことか…しゃーない、行くか」


「何があったか教えてくれよー!」


「はいはいわかったよ」


そうして司とまなは人混みの中へと入っていった。


誰にもぶつかることなく体を器用に動かし、最短かつ最速のルートを2人は見つけながら、人混みの中心部へとたどり着いた。


そこで2人が目にしたものは…


「あれは…」


「「か?」」

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