第23話 一人での旅路
フランスへ行くことを決めたソーマだったが、イスパニアとフランス国境のほとんどは危険な魔物で溢れる森で覆われ、
実質的な移動は北回りか南周りの海沿い以外は現実的では無かった。
(バルセロナがイスパニア側の東の国境最大都市だったのか・・・・)
(戻っても大きな街だから知ってる人に会う可能性も低いんだろうけどもし会ったら気まずいよな・・・)
(となると北側通るか。ボルドー、ナント経由でパリかな?)
ソーマは自分の知っている大きな都市を事前に聞いたが、やはりこの世界でもそれなりの規模の街のようだった。
乗合馬車でボルドーまで3日かかると聞き、ソーマはお金と時間の節約のため馬車は使わないことにした。
(身体能力強化したら馬車より早く走れるけど何キロくらい持つか検証もしよう。)
速度をいくつか試したが全力だと1時間持つかどうか、馬車の倍くらいの速度なら半日は持ちそうだった。
(もし戦闘になって魔力が無いとかシャレにならないし全力で走ってるときに攻撃されたら防御も難しいな)
(長距離移動するときは馬車に乗るか馬を買うか借りるかか・・・)
幸い盗賊や魔物などに遭遇することなく夕方には海沿いのバイヨンヌという比較的大きな街に着くことが出来た。
(移動でほぼ魔力を使ってしまったな・・・馬車の使い勝手も一度試しているか・・・)
ソーマはひとまず宿をとろうと比較的綺麗な建物に入る。
「部屋は空いてますか?」
「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」
「一人で。一泊いくらですか?」
「今空いてる部屋でしたら夕食と朝食付きで一泊3万Gと5万Gがございます。」
(少し高い気もするけど、安宿だとセキュリティもあるけど衛生面も心配だしなぁ。)
「・・・・では3万の部屋で。」
キーを受け取り部屋へ行くとビジネスホテルの部屋よりは少し広いくらいの部屋で、
思った以上にベッドやシーツは綺麗に整っていた。
「寝るだけ部屋で3万か・・・う~ん。次は安い宿がどれくらいのクオリティか試してみるべきか・・・」
金銭的にはかなり余裕はあるものの、一年間宿に泊まるとなるとこの価格に毎日だと年に1000万G以上かかることになる。
武器や防具にポーションなどの消耗品も必要と考えると毎月100万稼いでも足りない計算になる。
ソーマは食事のために食堂へ行く前に、バルセロナを出て以降、風呂に入っていないと思いフロントへ確認する。
(バルセロナの城に泊まった時はお風呂があったけどあれってやっぱり特別だよなぁ。)
(シャワーも無い気がするし、水か湯を桶に入れて洗う感じか?)
「すみません。体を洗いたいんですが・・・」
「奥の部屋を使ってください。水ならサービスです。お湯がご入用でしたら1000Gでご用意しますよ。」
「・・・ではお湯を頼みます。」
5分ほど待つと桶にいっぱいのお湯と布が届き洗い場?へと行く。
「まぁこんなもんだよなぁ・・・もっと高級なとこだとお風呂に入れるんだろうか・・・」
「自由に風呂に入れるくらいにはなりたいけど、それって貴族でも上の方がじゃないと無理か。」
ソーマに限らず現代の風呂やトイレに慣れた者にとっては中世レベルの衛生観念は慣れないものだった。
「・・・水魔法で自分で水を出したらどこでも体が洗えるか?」
ソーマは集中し指先から水を出し身体へとかけていく。
「冷たっ!水魔法の水って何度だ?」
「お湯にしようと思ったら水魔法と火魔法か・・・?」
「氷を出すのは水魔法か?氷魔法か?氷、、、お湯、、、温度変化、、、、水魔法の応用か?」
原理はわからないが、お湯を意識すると徐々に温度が上がって温かい湯を浴びることに成功した。
水よりお湯の方が魔力の消費が大きかったので、水を出す魔力に加え、温度を上げるという状態変化にも魔力を使ったのだろう。
「飲み水にもなるなら荷物も減らせるし水魔法って必須じゃないか?もっと練習しておこう!」
30分ほど水、お湯、熱湯と試した後、氷も試すと随分魔力が消耗した気がする。
「あまり長く使っても不自然だしこれくらいにしておくか・・・」
ソーマは食堂へ移動すると情報収集も兼ねてバーカウンターに座り酒も注文する。
「おすすめの酒を。」
「ボルドーが近いからワインがおすすめですよ。酒は別料金で一杯1000Gですがよろしいですか。」
「今日の食事に合うワインをお願いします。やっぱりボルドーのワインは品質が良いんですか?」
「そりゃワインならボルドーが一番でしょう。セビリアで同じ品質のワイン飲もうと思ったら数倍の値段ですよ。」
「へぇ、じゃあボルドーで仕入れて他の街で売れば儲かりますかね?」
「そりゃまぁそうでしょうが、大樽を運搬するのに大規模な商団がいるから元手がかかりますし、
盗賊や魔物対策の護衛も必要で、失敗したら大赤字になるからなかなか大変でしょうね。」
「なるほど。それで遠方だと高くなるんですね。もし売るならどこで一番高く売れますかね?」
「そりゃ新大陸でしょう。運搬は大変だし向こうじゃ作れないし。
次は戦争中のイングランドでしょうね。フランスとイングランドで交易できるのは限られた商会だけですから。」
「お客さんはワインの交易でも始めるんですか?」
「具体的に考えてるわけじゃないですけどしばらく色んな街を周ろうと思ってるんでついでに稼げたらと思って。」
たしかに普通は運搬コストがかなりかかるだろう。そのコストがソーマの場合はかからない。
ソーマはPRに他の人にはできない大量の収納が可能だから適当に荷物を運ぶだけでも儲かると思い、
フランスやイングランドに行くときに何を持っていけば良いかを考えていた。
「ボルドーに行ってから考えてみます。ボルドーまではどれくらいかかりますかね?」
「通常の馬車で2日だいたい4万~5万Gで高速馬車なら朝出て夕方には着くけど20万~25万Gはかかります。」
(自分で移動しても一日でいけるけど一度馬車も経験しておくか・・・)
「なるほど。馬車は毎日出てますか?」
「どちらも毎日出てますが定員になれば出発するので早めに行ってた方がいいですよ。」
ソーマは礼を言って酒代とチップをカウンターへ置くと部屋へ戻って休んだ。
翌朝6時前に馬車の出る駅に着くと、既に数人の客が出発を待っていた。
「ええっと、高速馬車に乗りたいんですが・・・」
「乗って待っててくれ。客が集まったら運賃集めて出発する。」
どうやら普通の高速馬車の客はまだソーマだけのようだった。
まだ他に客もいなかったので馬車には乗り込まずに情報収集をすることにした。
「いつも何人くらい集まるんですか?」
「ん、ここは始めてか?まぁ10人も来りゃいい方かな。」
「運賃は15人以上で20万。10人以上で22万。それ以下で25万だ。」
「向こうの馬車は結構人集まってますね。」
「そりゃ安いからな。こっちに乗るのは商人やハンターとか金があって急ぐ奴だからそんなに使うやつは多くない。」
「お前さんはハンターか?若そうだが高速馬車乗れるんなら結構な稼ぎがあるのか?」
「ハンターですがまだ稼ぎはそうでもないです。高速馬車に乗ったこと無いんで一度経験してみようかと。」
「そうか。まぁでもハンターが乗ってるともしもの時はありがたいからな。」
「というと、盗賊とか魔物ですか?」
「ボルドーまでは主要街道だから盗賊なんて滅多に出ないぞ。」
「出たとしても速度の遅い通常の馬車の方が狙われやすい。」
「高速馬車は乗ってる客層で金はあるが、ハンターがいたり商人の護衛がいたりするから盗賊もあまり狙わない。」
「魔物も街道まで出ることはあまり無いんだがたまにあるからそういうときハンターがいると助かる。」
「猪やら狼の魔獣あたりだと振り切れるとは思うが、もしもの時は協力してくれ。」
「ま、このルートで強力なやつに出くわすことは無いからそんなに心配することは無いけどな。」
「もし出たら運賃サービスしてくださいね。」
しばらく雑談していると他に数人客が集まってきた。
その後しばらく待つがそれ以上は増えず、結局5人の客で出発することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます