第24話 ワインの価値は
「5人か・・・仕方無い今回の運賃は一人25万だ。集めたら出発する。」
御者の男は客が少なかったからか若干残念そうに言うと金を集めて回る。
2頭の馬が馬車を引き街道を進んでいく。
ソーマ以外は2人組の乗客が2組だったがどうやら知り合い同士らしい。
「おはようございます。私はボルドーで酒屋をやっているメッセと言います。」
「で、向こうはワインを納品して貰っているティーズルです。」
「失礼ですが、ハンターの方ですか?」
二人の隣にる者たちの紹介は無かったが、従業員か奴隷だろう。
「ええ、ソーマと言います。バレンシアで活動してたんですが他の街もいろいろみてみたくて先日初めて街を出ました。」
「お二人は商売でこちらへ?」
「ええ、事業を拡大し販路を拡げたいと思ってまして。」
「フランスだけではなくイスパニアでも商売できればと。」
バイヨンヌはソーマのいた時代だとフランスの都市だがこの世界ではイスパニアの領土であった。
「新大陸だとかなり高く売れると聞きましたが。」
「新大陸ですか・・・たしかに10倍以上になるんでしょうが流石に直接卸す伝手もありません。」
「ひとまずバイヨンヌの商会経由でイスパニアで流通させたいと思っています。」
ソーマはワインPRの収納へ入れイングランドで売ることを考えていたため、
メッセからワインを購入できないか考えていた。
事業拡大と言っていたことから売り上げも悪くは無いのだろう。
「同じ馬車に乗ったのも何かの縁でしょう。ボルドーに着いたらワインを売ってもらえますか?」
「お近づきのしるしに宿に届けさせましょう。」
「ありがとうございます。すぐに飲む分だけじゃなく樽単位で仕入れたいと思ってるんですが・・・」
メッセはソーマがボルドー滞在中に飲む分と思っていたが、ソーマは交易用に仕入れるつもりだった。
これから色んな街を周るハンターが樽で買いたいと言い出しメッセは困惑する。
「樽ですか・・・勿論お売りできますが、、、」
「折角色んな街を周るならついでに交易もしようと思いまして。」
「馬車を買って積めるだけ積んで行こうかと。」
「安いワインでも1樽200万くらいですが大丈夫ですか?」
「10樽くらいを考えてます。安い物よりできるだけ高い方がいいです。」
「いくつか最高級品も手に入れたいのですが譲っていただけませんか?」
「最高級品は1瓶でも数千万、、、1億超えるものもあります。それらは領主様など特別な方へ卸しているので初めての方へお譲りするのは難しいです。」
「私はフランスでの伝手はありませんが、イスパニアではバルセロナ家からの推薦状をいただいています。」
「お二人がイスパニアで商売を考えているならお力になれることもあるかもしれません。」
「それと、イングランドへも行こうと思っています。向こうではブランデーやウィスキーを仕入れるつもりです。」
「今回最高級のワインを売っていただけたら、向こうで仕入れた酒はメッセさんに取り扱ってもらおうと思いますが・・・」
ソーマは推薦状を見せると二人は絶句する。若いハンターが上級貴族の推薦状を持っていることに驚いたのと、
商売としての損得勘定を考えているのだろう。
「ソーマさん。ハンターと言われましたがどこかの貴族の出なのですか?」
「いえ、私は平民ですがたまたまバルセロナで騎士団の仕事を手伝う機会があってその時に推薦状をいただきました。」
「・・・わかりました。他国とは言え侯爵が信用している方であれば是非これからもお付き合いさせていただきたい。」
「ボルドーに着いたら店に来てください。特別に秘蔵のワインも準備しましょう。」
「ありがとうございます。絶対に損はさせませんから安心してください。」
ソーマは他国であっても推薦状がここまで通じるとは思っていなかったため驚いた。
(この推薦状ってイスパニア国内であればこっと効果があったということか・・・)
(こんな簡単に使っていいのか?)
他人の権威を借りることに少し心配しつつ出来る限り使わないように意識する。
「ところで、輸送はどうするんですか?人を雇うつもりで?」
「護衛はいらないので一人でやるつもりです。」
商売の話を続けると、ソーマがひとりで馬車を扱うという言葉にメッセは驚く。
実際にはPRに収納されるので馬車は必要ないのだが、収納は秘密にしたいから建前上一人で運ぶことになる。
「盗賊や魔物の群れに襲われたら一人じゃ無理ですよ!これだけの荷物を運ぶならせめて数人の護衛はいないと・・・」
「街道沿いではそこまで危険は無いと思いますし、多少の盗賊や魔物なら一人でもなんとかなるので。」
「億単位の荷物を運ぶんですよ?自分の身は守れても一人じゃ荷物まで守れない時もあるでしょう。」
「一人だけで運ぶ計画というなら今回の事は考え直させてください。」
(収納の事を言うわけにはいかない・・・たしかに複数の盗賊相手に荷物まで守れるとは言えないよな・・・)
「運搬計画は見直します。すべて整えてからまた話しをさせてください。」
「私も誇りを持って商売しています。商品を雑に考えられては困ります。」
(これは失敗したかもしれない・・・売ってもらえないかもしれないな。)
「失礼。私も言い過ぎました。そもそも私どものワインを召し上がっていただいてなかったですね。」
「サンプルがありますのでどうぞ召し上がってください。」
そう言うとメッセは荷物から瓶を取り出し手際よく栓を抜きグラスにそそぎソーマへ手渡す。
「ありがとうございます。いただきます。」
(揺れる馬車でも大丈夫だっけ?澱は大丈夫か?若いワインだったら無かったか・・・?)
「いかがですか?」
メッセは試すようにソーマへ問いかける。
「そうですね・・・比較的若いワインだと思いますがボディはしっかりしていると思います。」
「それと・・・僅かですが、これは魔力?を感じます。」
前半は半分適当だった。酒はある程度嗜んではいたが、ソムリエのように批評できるほどの知見は無かった。
だが味の良し悪しはある程度分かるので出されたワインが良い物ということは認識できていた。
そして何よりワインから魔力を感じたのだ。魔力ポーション程では無いが魔力が回復するのを感じることが出来た。
それだけは無く魔力の上限も増えたように感じた。これはほんの僅かに感じた程度なので、
簡単な魔法1回分にも満たない上昇だろう。
だがワインを飲むだけで魔力上限が増えるのであれば毎日飲めば飲むほど強くなることに繋がる。
本当に魔力が増えるのかどうかソーマは確認したかった。
「ほう。分かりますか!」
メッセは感嘆の声をあげる。
「ソーマさんくらいの年齢なら貴族でも無い限りこのクラスのワインは飲んだことは無いと思います。」
「それを所見でそこまで感じ取れるという事はかなり才能のある方だと思います。」
「このワインは感じられた通り魔力を増やすことができます。」
「ぶどうの栽培から魔力を含んだ水を与えたり熟成中も魔力を吸収させ作ったものです。」
「5年ものですがこれで一瓶500万Gほどで売っています。」
「魔力が増える・・・そんな簡単に増やせるなるなんてすごいですね!」
「増えると言っても実際は微々たるもので、あくまで嗜好品としてのお求めがほとんどですかね。」
「そうなんですか?少しでも増えるなら皆欲しがると思いましたが・・・」
「需要は勿論ありますが、これを1年飲み続けたら年間20億近くになりますよ。」
「実際には1年飲み続けてファイアボール1発分増えるかどうからしいです。」
「実際に検証した人がいるんですか?」
「ええ。これを毎日飲める貴族の人たちはかなり魔力を持つ人が多く、日頃の成長での上昇分も大きく検証できないんですよ。」
「ほぼ魔力の無い豪商が飲み続けたら1年後になんとファイアボール1発撃てるようになったとか。」
「実はこれも噂なんで正直本当の事かどうかは分かりません。」
「そうなんですね。」
「ですがほんの僅かでも増えることは事実の様ですし、魔力は味にも影響あるようで嗜好品の価値としても上がります。」
「30年以上熟成させたものだと1億以上で取引されています。」
(魔法一発分が生死にかかわることもあると思うし、魔力が増えるなら飲みたいけど毎日飲めるほどの金は全然無いな・・・)
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