第21話 宴の始末

ライヤーはシオンと街へ戻り、救援をファーガス隊長へ要請した。

ファーガスは始めから失敗すると思っていたのか団員の準備は想像以上に進んでいた。


「やはり無理だったようですね・・・」

「あれほど豪語しておいてこのざまですか。それで、今の状況は?」


「まだ失敗したとは限りません・・・・」

「私の魔法で3割は倒しました。協力者が残って食い止めています。」

「準備ができ次第救援を。」


「一人残っている者の救援?3割倒したと言われましたがまだ700程いるのですよ?」

「往復で2時間以上かかるのに1人で持ちこたえられるとお思いか?」

「こうなった以上、街の被害を最小に抑えるために街道の森出口付近で防衛線を張るのが最善でしょう。」


「まだ持ちこたえているかもしれないのに見殺しにするんですか!?」


「見殺しにしたのは貴方でしょう!一人残して戻ってきたのですから!」

「貴方の意地のせいであの者は死んだのです。私の部下たちまで巻き込まないでもらいたい!」


ファーガスの判断は責任者として間違っていなかった。

詳しい状況がわからない中、準備もできていない者を向かわせても被害が大きくなるだけだ。


「防衛線を張る!街の手前で絶対に食い止めるぞ!」


ファーガスはシオンとの話を打ち切ると部下に指示を出していく。


「・・・・・」

「魔力も少し回復しました。私だけでも戻ります。」


「・・・・では馬車を出します。」


「ライヤーさんはどう思いますか?」


「ほとんどの人はファーガス隊長を支持すると思います。」

「部下や街を想う優秀な人です。」

「ただそれはソーマさんや副長の力や人柄など分からないということが大きいです。」

「このまま街に被害が出るようなことがあれば副長の名誉も信頼も大きく損なわれるでしょう。」


「名誉とか信頼とかではなく仲間を助けたいんです!」


「部下を死なせたくないのは隊長も同じです。副長はソーマさん一人を助ける代わりに団員に何人も死ねと命令するんですか?」

「貴方は責任のある立場です。時には死ねと命令できる立場なんです。」

「それには大きな責任が伴うことを覚えておいてください。」


ライヤーに指摘されるまで、シオンは団員が死ぬ可能性をなぜか考え付かなかったのだ。


「・・・私が魔法を暴発させてしまったのが原因です。」

「スケルトンが残っていたら私が責任を持って倒します。街までは行かせません。」


「覚悟や意地だけで何でもうまく行くとは限りません。」

「ソーマさんがスケルトンの数を減らしてくれていたら数の上では副長だけでも可能かもしれません。」

「ですが街道からだけじゃなく森から広範囲に展開された場合は漏らさず倒すのは無理です。」

「街の団員はそれを防ぐために準備してるんですよ。」


「最初からファーガス隊長とよく話しをするべきでした・・・・」

「ですが謝罪は後です。今は私に出来ることをします。」


「結構。私は状況を確認したらファーガス隊長に情報を伝えに戻ります。」

「戦力としては期待しないでください。」


二人はいつスケルトンと遭遇するか緊張したまま馬車を走らせたが街道で出会うことは無く、

何のトラブルも無くスケルトンのいた場所に戻ることができた。


「まさか・・・」

「これは・・・」


二人が到着したとき目にしたのは、ソーマが残り50程度まで減ったスケルトンと戦っている姿だった。

遠目で見る限りでは特別負傷している様子もなく危なげなく剣を振るい数を減らしていく。

呆然と10分程度見ていると最後のスケルトンを倒しソーマがその場で座り込むのを見て我に返り馬車を走らせ近づく。


「遅かったですね。ちょうどいま終わったところです。」


「ソーマさん、一人ですべてのスケルトンを倒したんですか・・・?」


「時間はかかりましたがなんとか。」


「ソーマ!ごめんなさい!私が最初に魔法を勝手に撃ったせいで貴方を危険に晒してしまって・・・」


「まぁ予定は変わったけど、300くらいは削ってくれてたし誤差の範囲だから気にしなくていい。」


シオンは泣きそうになりながら謝罪するが、ソーマは何でも無いという風に答える。


(あの数のスケルトンを一人で倒してまだ余裕がある?一体どうやって・・・?)


「一人でどうやって倒したんですか?」


「どうって、借りた武器でこつこつ倒しましたよ。剣に槍に斧、色々試せていい経験になりました。」

「転がってる魔石の回収は皆さんにお願いしてもいいですか。流石に少し疲れました。」


言われて周囲を見回すと数百の魔石が転がっていた。


「低級の魔石は高威力の攻撃で倒した場合は魔石も砕いてしまう・・・」

「本当に剣で倒していったんですね・・・」


最初にシオンの魔法で倒した分は魔石もろとも跡形も無く消滅している。

強力な範囲魔法を使える者数人で一気に殲滅するのが楽だが、

その場合は魔石が回収できず利益が無くなる。

逆に近接で倒す場合は囲まれないように数を揃えないとかなりのリスクを伴う。


「今回の任務は魔石の権利は騎士団ですか?」


ソーマに報酬の確認をされライヤーは思考を戻し答える。


「団長からすべてソーマさんの報酬で構わないと聞いています。」

「魔石の回収後、換金はこちらで行いましょうか?持ち運ぶのも大変ですよね?」


「おまかせします。」


「今回の報酬は当初1億Gでしたが数が想定以上でしたので魔石買取分を含め2億Gお支払いします。」

「ソーマさんのPR口座へ送ってよろしいですか?」


「はい。ありがとうございます。てっきりスケルトンと戦ってる途中で刺されると思いましたよ。」


「・・・・・なぜそう思ったんですか?」


「どうしてライヤーさんがソーマを刺すの?」


「騎士団を断った不確定要素は排除しておきたいと考える人もいるかもってこと。」

「自分が同じ立場ならそう思う。実際にやるかって言われたらまだそこまで割り切れてないからやれないだろうけど。」


「・・・・団長からは出来る限り助けるよう指示を受けています。」


「エレノア団長は貴族らしくない。チルダース団長は正々堂々とする意味で貴族、騎士らしい。」

「それを補佐する二人は優秀そうでしたね。どちらですか?」


「・・・・両方です。」


ライヤーは誤魔化しても無駄かと思い正直に話す。

まさか気づかれるとは思わず、この後どうすべきか思案も巡らす。


「で、どうしますか?戦いますか?」


「え、何、どういう事?」


「シオン、副長達から俺を殺すようライヤーさんは指示を受けてる。」

「で、そのことを俺が気づいてることを伝えた今、命令を実行するか聞いてるんだ。」


「なんで落ち着いて殺しあうかどうか聞けるの!?」


「俺はできれば戦いたくないけど、相手が俺を殺す気なら仕方ないだろ?」

「ライヤーさんの判断を聞きたくてね。戦っている最中か終わったと思って気を抜いた瞬間が一番効果的だけど、

そのどちらも逃して、狙っていることを知られてしまった以上、消耗している今が一番チャンスだ。」


「・・・・スケルトンの大軍に勝ったソーマさんと私では勝負になりませんよ。」


「消耗度合いを考えたらたぶん可能性はありますよ?」


「いえ、命令は絶対的な排除じゃありません。国に悪影響がある場合です。」

「ソーマさんは少なくとも今は街の被害を防いでくれた恩人です。」

「我々から敵対しない限り敵になることも無い・・・と思います。」


「今回の報告でより警戒されるんでしょうけど、できればよろしく副長達には伝えてください。」


「ライヤーさんが戦う選択をしなくて助かりました。」


「助かった?冗談を。戦ってたら消耗を考えても良くて五分でしょう?」


「いや、俺が負けることは無いですよ。戦ってたら逃げますから。」

「逃げたらたぶん今夜は野宿になったんで、街の宿に泊まれるので助かりました。」


どこまで本気だろうか?戦っているところを見ていないのでライヤーはソーマの力を測りかねていた。

ただ、戦わずに済んだことを安堵しているのだった。

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