第20話 塵は塵に
ライヤーがソーマ達の宿を着くと二人は既に入り口で待っていた。
「おはようございます。時間は伝えていませんでしたのでもう準備できているとは思いませんでした。」
「おはようございます。起きて準備してたら監視の人が報告に出られたようなので。」
「・・・・気づいていたんですか?」
ライヤーは念のため宿に騎士団員を二人付かせていたのだったが気づかれるとは思っていなかった。
「え、いたんですか?適当に言ってみただけですけど。」
笑いながらソーマは言うが、本当は気づいていたに違いないとライヤーは思った。
(失態だ・・・警戒されたりしなければいいが・・・)
「気にしないでください。同じ立場なら俺でもそうしますから。」
「そう言っていただけると助かります。」
「少し早いですが現地に移動しますか?馬車で1時間くらいの場所ですが。」
「そうですね。お願いします。」
馬車で1時間ほど移動し高台から見下ろすと最初は何か分からなかったが、
よく見ると無数のスケルトンに埋め尽くされて蠢いているのが分かった。
「・・・スケルトンからこっちを襲うことは無いんですか?」
「もう少し近づくと襲ってくると思います。それと今も少しずつ増えていて増えるのが止まると周囲に散っていきます。」
「そうなると街を含め周囲の被害が大きいのでここで食い止めるのが今回の任務になります。」
「てっきり場所は墓とかだと思ってましたけど、ここは古戦場とかですか?」
「昔ここで魔物の群れによって多くの人が亡くなった場所と聞いています。」
「それよりも、この数を見ても二人とも落ち着いてますね?本当に二人でやるつもりですか?」
「まぁできれば戦力はまだあった方がいいですが・・・シオンが断ってしまいましたし。」
なぁシオンとソーマが声をかけようとした時、初めて二人はシオンの様子に気づいた。
小刻みに震え、目の焦点があっていない。落ち着いていたのではなく恐怖し怯えていたのだった。
ソーマがどうやって落ち着かせようかと思案していたが、思いつくよりも早くシオンの限界が訪れた。
「来ないでっ!」
叫び声と共に全力で雷魔法が放たれる。
事前にシオンが言っていたが想像以上の出力で放たれた魔法はスケルトンの塊の中心に落ち拡散する。
しかしその一発に魔力を込め過ぎたのかシオンは気を失い倒れそうになるところをソーマが受け止める。
「ライヤーさん、馬車の武器を置いてシオンを連れて安全な場所まで退避してください。ここは俺が残ります。」
「本気ですか?まだかなりの数が残ってますよ?シオンさんの援護無しで一人で全部を受け続けるのは・・・」
「そう言うなら援軍を連れて来てください。往復2時間に準備時間ですか・・・」
「3、4時間くらいなんとか持ちこたえてみせます。」
ソーマは軽く答えるがライヤーは1時間も持つとは思えなかった。
だができることはたしかに街へ被害が出る前に出来る限りの早急に戦力を集め駆け付けるしか無かった。
「数が当初の予定以上だったので追加報酬を準備しておきますよ!期待していてください。」
「お、それは嬉しいですね。何に使おうかな?」
ライヤーとソーマは悲壮感のあるやりとりはせずあえて軽口を言ってそれぞれの仕事に移るのだった。
「すごい威力だな・・・」
ソーマはスケルトンを見ると魔法で倒せたのは全体の2~3割くらいだろうか。
遠距離から放ったという点では凄まじい威力だった。
あれを喰らえば騎士団長クラスでも無事では済まないのではないだろうか。
ただ、スケルトンを倒すのにはオーバーキルすぎた。もっと効率よく魔法を使えば、
今のシオンならば半数以上のスケルトンを倒せたのでは無いだろうか。
「大幅に予定は狂ったけど戦いを見られないのはありがたいかな。」
スケルトンはまだ魔法の影響があるのかその場にとどまっていた。
もしかしたらダメージが残っているのかもしれない。
「動かないのか、動けないのか・・・どちらにせよだったら!」
ソーマは馬車に積んでいた武器からまずクロスボウを選び適当に撃つ。
距離も200m前後あり正確に狙うことはできなかったが密集していることもあって命中していく。
威力を確認すると命中したスケルトンの骨は砕けるが腕や腹の骨が砕けただけでまだ動いているものもいれば、
命中後骨全体が崩れ落ちるものもあった。
「そういえば弓や矢に魔力を込めると威力が上がるのか?」
試すと射程と威力が若干上がるようだった。
込めた魔力は減衰するのか、剣を振るときに感じた時ほど威力に差は無いように感じた。
ソーマが矢を10数本撃つ頃、スケルトンに動きが見えソーマの方に一斉に動き始める。
「怖いというより気持ち悪いな・・・・でもVRニュークのゴキブリ大量の方が気持ち悪い。」
ソーマは様々なVRゲームで大量のモンスターを相手にしたことがあった。
なかには巨大なゴキブリが湧き続けるようなものもあり、今更スケルトンで怯えることは無かった。
(ゲームでは数千、いや数万は死んだか?でも今回は本当に命が懸かっている。)
(命が懸かる現実では慎重に戦う相手を選んで無理なく強くなるのが一番なんだろうけど・・・)
(でも今回は格下のスケルトン。ただ数が多いだけだ!)
(少し厳しいという戦いからすべて逃げていたら、逃げられない状況が来た時何もできない。)
(だからここはリスクがあってもやらなければならない!)
武器を持つ手に力を込め、身体能力を強化し一気に突っ込み大群の間合いに入る。
ソーマがまず選んだ武器は槍であった。槍の間合いまで詰めると腕力で薙ぎ払う。
正面にいたスケルトンとその横にいた2体の胴を寸断した槍は3体目で勢いを失い身体を吹き飛ばす。
寸断された上半身はそのまま地面に落ち骨の身体は形を失いバラバラとなる。
だが数百いるスケルトンはすぐ横や後ろから次から次へのソーマへ殺到する。
「クッ!まずいっ!」
ソーマは咄嗟に風魔法を攻撃用としてではなく、突風を起こすイメージで左手をかざす。
風の判断でソーマは後ろに飛び下がり距離を取り、正面のスケルトンの足を止めることに成功した。
それでも突風の範囲外のスケルトンはどんどん押し寄せてくる。
(これが数の力か・・・・)
(距離をとって攻撃魔法も試すか?)
50mほど距離をとってまず風を刃となすウインドカッターを試す。
スケルトンに直撃すると貫通し2体のスケルトンを倒す。
数発放ち何体か倒すがスケルトンの勢いは止められずまともや接近を許す。
距離を再度取り続いてファイアアロー、ファイアボールを放つ。
当初は火の魔法はコントロールできていなかったが、盗賊戦の後からある程度ならばできるようになっていた。
ファイアアローは一度に数本の火の矢を同時に放つが、1本が当たっただけでは倒せず、
2~3本当たると倒せるようだった。ファイアボールは2~3体倒せる威力のようだ。
そして最後に雷魔法を試すことにした。
いままで一番制御が難しくまともに使えはしなかったが、
シオンの魔法を受けたり、使っているところを何度も見て、
またシオンの魔法の余波が残っている今ならばやれる気がしたのだ。
「サンダー!」
風と火の魔法はイメージだけで放ったが雷魔法は声に出した。
その方がより魔法のイメージを具現化しやすいと考えたからだ。
サンダーは発動したがソーマが想定していたよりも広く拡散したため、
一番手前の4体を倒すにとどまった。
あるいは接近して撃っていたら少なくとも10体。うまくいけば20~30は倒せたかもしれない。
(ファイアボールだけで300~500撃つのは厳しいな・・・)
(ウインドカッターやファイアアローも射程はせいぜい50mくらいで減衰がひどい。)
(雷魔法はまだコントロールできてないし魔力消費が多すぎて連発は無理だな・・・)
(近接攻撃も魔法も途中で大群に囲まれてアウト。たしかに普通は二人で倒すのは厳しいな。)
ユーキは一人だからこそ誰とも連携をとる必要が無く誤射の心配も無い。
それを最大限活用し近接では一撃入れては下がる一撃離脱戦法を。
また魔法は数発撃っては下がる引き撃ちを繰り返しスケルトンを削っていった。
円を描くようにスケルトンの大軍の外周部を攻撃していく。
最初に使っていた槍は既に折れ、メイス、戦斧、ウォーハンマー、フレイルと次々と壊れるたびに持ち替える。
シオンとライヤーがいなくなったことで誰にも見られていないのを確認し、
すべての武器を収納していたものを実戦の中すぐに取り出しているのだ。
(収納も実戦で使えるな・・・)
途中魔力ポーションもやはり収納から取り出し飲む。
最初は圧倒的な数に気圧されたが今はもう少しずつ削る作業となっていた。
戦いが始まってどれくらいたったか。
魔力はポーションを飲みながらにもかかわらず半分以下になっている。
一方でスケルトンはまだ半数近く残っているようだ。
だがソーマに焦りは無い。
数が減れば減るだけスケルトンの数の圧力は消え動きをコントロールしやすくなる。
またソーマは武器だけではなく魔法も使って戦っていたが、
戦いが始まってすぐと比べると僅かではあるが威力が上がり、
何より消費魔力が少なくなっていた。
魔力が尽きるより先にスケルトンが全滅する方が先になるだろう。
何時間戦っているだろうか。援軍が来るのが先かと思ったが、
これなら一人で全滅させる方が先になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます