第19話 墓場の前に
ソーマとシオンは騎士団の宿舎を断ったためライヤーに紹介された宿に泊まることにした。
「私は騎士団の詰め所に泊まります。厩舎に馬も預けないといけないですしね。」
「明日お迎えに上がりますのでよろしくお願いします。」
「宿代は経費で落ちますか?」
報酬などでかなり懐には余裕があったが経費で出るならとソーマは尋ねる。
「・・・こちらで支払いはやっておきますので安心してください。」
ソーマ達と別れた後、ライヤーは既に何度も目を通した2通の手紙を読み返す。
それは第一第二それぞれの副長から別々に届いたものだったが内容は似たものだった。
ソーマとシオンが国や騎士団にとって害があるならば絶対にこの任務中に排除しろというものだ。
そして害が無かったとしても可能ならばやはり排除しろとある。
両団長からは何も言われていないしエレノアからは支援するよう指示を受けている。
おそらく副長たちの独断だろうが二人ともが危険と感じているようだ。
ライヤーはそこまで不安視する必要は無いと思っていただが先ほどの対応で考えが変わりつつあった。
「二人とも悪い人間では無いし、今のところ国にとって有益だが・・・」
呟きつつ、1000のスケルトン相手に対処できると考える二人の異常性を考える。
その力がもしも敵となったとき、止められるのは団長クラス以上しかない。
そして、多くの異邦人がこれから現れて同様の強さを持っていたとしたら、
おそらく各国のパワーバランスは崩れていくのではないか。
勿論、魔物との戦いが楽になるかもしれないという面はあるが。
「そもそも本当に二人で任務達成できたなら、俺がなんとかできる相手じゃないだろ・・・」
ライヤーは自分にこんな命令出してくるなよと思い明日に備えるのだった。
ソーマとシオンは寝る前に簡単に明日の打ち合わせをすることにした。
「シオン、夜に男性一人の部屋に来るのはどうかと思うぞ。」
「もしソーマが何かしようとしたら痺れてもらうから大丈夫。」
「この部屋だったらよけることもできないわよ。」
「まぁいいならいいんだけど、、、さっきは流れでああなったけど、実際二人でなんとかできると思う?」
「えっ!?自信がある感じで喋って無かった!?」
「いや、仕事で受けてる以上依頼主を不安にさせちゃまずいだろ?」
「やばいと思っても表には出さずに大丈夫です!って見せるようにしてる。」
「ええ、、、、そんなこと言われても私にも大丈夫かどうかわからないけど・・・」
「でもシオンが話の途中でキレて出ていっただろ?一人でも自信あるかと思った。」
「それは、その、、、怒りが抑えられなかったのは悪かったわ・・・」
「スケルトンはゴブリンより強いけど知能は無いらしいからある意味やり易いとは思う。」
「時間とか周りの事を考えなくていいなら一人で少しずつ削っていったらなんとかなる気はする。」
「ゴブリンも魔力使わなくても倒せたから、囲まれない限りはなんとかなると思う。」
「時間がかかるってこと?」
「時間もかかるし、囲まれないように動くから他のスケルトンが街に移動したら対処できない。」
「え、それじゃあ意味無いじゃない!」
「厳密にいえば討伐と言われてるだけで街に被害が出ないようにとは言われていない。」
「それはここの騎士団の仕事ととることもできる。というか任務の仕様書上はそれでいい。」
「それじゃあ私がここの隊長に怒った意味が無いわ!」
「そう。俺も少なくとも人的被害が出ないようにはしたい。だけど自分の命を危険に晒してまでは考えてない。」
「だから俺だけで倒せるけどシオンに協力してもらって被害を出さない戦い方を考えないといけない。」
「私はどうしたらいいの?」
「逆に何をどこまで出来るか分からないから聞くけど自分の魔法の威力や射程、使用回数とか分かる?」
「そんなの把握する時間なんて無かったじゃない?ソーマだって分からないでしょ?」
「俺は射程や威力はある程度分かるよ。昨晩シオンが寝てた間にある程度検証したからね。」
「時間が限られてたからどれくらい使えるかは分からなかったかな。」
「俺の魔法はシオンより威力が低いからその分多く使えるけど、身体能力強化や武装強化も同じ魔力使うから併用でどれだけ持つかは分からない。」
「私の寝てる間にずるい。正確にはわからないけど騎士団の人の模擬戦の時の魔法なら感覚的に50回以上は、、、いけるかな?」
「威力を上げることもできると思うけどどこまでコントロールできるかはわからないかも。」
「あの時の魔法でたぶんうまくいけば10体以上倒せると思う。」
「効率的にいけば500以上倒せるけどスケルトンが密集してないと効果下がるし、
安全を考えてもう少し距離を取って威力と範囲を高めて数発撃てたりとかってできる?」
「たぶんできると思う。どれくらいの威力とか何回使えるかもではわからないけど。」
「安全な場所から何発か撃って削ってくれたら俺が前に出るからその間下がって、魔力回復したらまた撃つ感じになるかな。」
「まぁ二人じゃ出来ること限られるし作戦という作戦は無理か・・・」
「ちょっと待って。打ち合わせはこれで終わり?本当に何百も相手にするつもり?」
「烈の時じゃないけどソーマも魔力の使い方覚えて無敵になった気になってない?」
烈の名前が出て二人は少し気ずい、暗い雰囲気となる。
「・・・・いや、たぶん大丈夫だと思う。戦力の把握はできてる。」
「自分のできることとできないこと、敵の強さ、数。分かったうえで今回はたぶん大丈夫・・・だと思う。」
「数が実は1万でしたとかよっぽどの想定外が無ければね。」
「この街の隊長もライヤーさんも無理って感じだったのに、ソーマはできるって判断なのね。」
「まだこの世界に来て数日なのにそんなに強くなってるのに、まだ魔法を勉強しようとしてるのはなぜ?」
「シオン、勘違いしないで欲しいのは俺はそこまで強いわけじゃないよ。」
「スケルトン自体は騎士団でも勝てる相手で、問題なのは数。」
「俺は燃費や戦い方でそれが対応できそうってだけ。逆に単純な攻撃や防御の力だけで言ったら大隊長以下だよ。」
「それでもうまく戦えば大隊長には勝てるんでしょう?」
「戦い方次第ではね。でもそれを言ったらシオンの魔法の方が強いよ。」
「俺には一撃で数十以上の魔物を倒すことはできないし、シオンの全力の魔法喰らったら俺は一撃で終わると思う。」
「私も人のこと言えないけどこの世界でも既に強い方なのは確かでしょ?もっと好きにできると思うけど。」
「俺は好きに生きてると思うけど。シオンはなんで騎士団に入った?」
「自分一人で知らない世界でやっていけるか分からなかったからかな。」
「それに茜や美雪みたいに言葉も通じない人がたくさんいるなら助けになればと思って。」
ソーマは一人暮らしも長く社会人として仕事をし生活しているが、シオンは学生で親の下での生活しかしたことがなかった。
たしかにそれが突然知らない世界に突然来て一人で生きろと言われても難しいのかもしれない。
「なるほど・・・他の人のことまで考えるなんてなかなかできることじゃない。」
「茜や美雪がこの世界で生きていくにはたしかに誰かの助けがいると思う。」
「だがもし俺やシオン、烈のように魔法が使えた場合どうなる?」
「どうなるって?言葉も通じるし魔物とも戦えるってこと?いいことじゃない?」
「俺達5人中3人が魔法使えたんだ。異邦人は百人なのか千人いるか分からないけど半分が魔法使えたらどうなると思う?」
「俺達みたいに騎士団に誘われるとかだとたしかにいいかもしれない。」
「だけどこの世界で犯罪者になるかもしれないし、誰かに利用されるかもしれない。」
「良い意味でも悪い意味でもたぶん大きくこの世界は動くと思う。」
「魔法の力だけじゃなくて色んな知識含めてね。」
「だからこの世界をもっと知っておきたい。」
「そのうえで自分がどう生きるか考えたいと思ってね。」
「ラノベでよくあるスローライフ?今の力でも可能なんだろうけどこの不便な世界で楽しめると思う?」
「調味料もあまり無い世界で飯は不味い娯楽は無い。俺たちの世界の人間には無理じゃない?」
「とりあえず力を付けてお金を稼いでそれからどうするかはその時考えるかな?」
「私は騎士団に入ったけど自分で具体的に何をしようなんて考えてなかったわ・・・」
「団長は悪い人じゃないと思うけど、大貴族だから色々しがらみもある。」
「何でもただ言われるがままにするのは止めた方がいい。自分で考えて決めるんだ。」
「・・・気を付けるわ。」
「それと何にでも疑うことを覚えた方がいい。」
「疑う?会う人みんな疑うなんて嫌になる・・・」
「別に人に限ったことじゃないけど、疑うのが嫌なら疑問に思うといい」
ソーマは手のひらに火を灯す。
「それって、、、火の魔法コントロールできるようになったの?」
「前は体に火が付いてなかったっけ?」
「完全じゃないけどね。」
「それよりこれを見てどう思う。」
ソーマは手のひらの火を消すとテーブルにあったコップを裏返して置くと、
コップの中に火を灯した。
「コップの中に火を出すなんて・・・すごい制御じゃない・・・・」
「そこじゃない。」
集中力が続かないのかコップの中の火は少しずつ揺れ消えてしまう。
「ふぅ、、、コップの中に火があることに疑問は無い?」
「酸素が無いのに火が付いている・・・?」
「そう。つまり魔法の火は俺たちが知っている原理とは違った現象で発生している。」
「たぶん魔力が作用しているんだろうけどね。」
「小説やゲームじゃないんだ。原理や法則があって魔法も発動しているはず。」
「それが把握できれば使いこなすのも簡単かなと思ってね。」
「明日の戦いの前に何かのきっかけになってシオンの魔法がより使えるようになれば嬉しいから教えた。」
「他にも俺なりに気づいたことはあるけど全部は教えない。」
「シオンは俺の言葉や行動も全部そのまま信じない方がいい。」
「・・・・・少なくとも今の話は信じられると私は思う。」
「そう。考えて判断するのはいい。無条件に何でも受け入れなければね。」
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