第18話 任務地へ
ソーマとシオンは盗賊との戦闘、仲間の死、騎士団との模擬戦などこれまでの人生で経験したことが無いような1日を過ごし、
身体的にも精神的にも完全に回復する前に使用人によって起こされることとなった。
「お二人ともおはようございます。」
「私は第一騎士団の情報収集、兵站担当のライヤーと申します。」
「これから二人を任務地であるレリダへお連れします。途中イグアラダとタラダの街を経由して夜に着く予定です。」
「ええっと、、、装備を整えたいんですが街で買い物をすることはできますか?」
ソーマはライヤーに確認する。盗賊が使っていた剣はあるが数百のアンデット相手に予備も無いのは無謀に思えた。
「早朝なので店は開いていません。経由地は軍馬を替えるだけの予定ですので店による時間は取れません。」
「騎士団の物資から必要分は支給しますのでこの後見てください。」
ソーマとシオンは城の倉庫に案内され武器や防具、ポーションなどを手短に選んだ。
「食料や水などは私が用意していますので安心してください。」
「それでは急ぎ出発しましょう。移動中に状況を説明します。」
まだ日が昇る前から三人はバルセロナの街を出発した。
「商人の馬車より随分早いですね。」
シオンがライヤーに話しかける。
前日乗った商人の馬車より数倍速いし揺れも少なく快適に感じたのだ。
「軍用馬だと馬力が違いますからね。それと今は主要街道なので速度が出てます。森や山道では少し速度は落ちますよ。」
「そういえば武器とかソーマがたくさん持ち出したみたいですけど大丈夫だったんですか?」
ソーマの方を非難するようにジト目で見ながらシオンはライヤーに尋ねる。
「一人であれだけ持ち出すのは予想外でしたが大丈夫ですよ。」
「普通だったら大隊任務なので100人以上の武具にポーション使いますからね。」
「それを輸送することも考えると馬車一台で済んで経費も手間も少なくて正直有難いです。」
「でも武器もこんなに使う?剣や槍だけじゃなくて斧やメイスなんかもあるし・・・」
「武器がどれだけ持つか分からないし予備はある程度用意しておかないと。」
「シオンは魔法メインだからいいだるおけど俺は武器無くなったら厳しいしな。」
「アンデットってゾンビとかスケルトンとかですか?」
「今回はスケルトンがほとんどみたいですね。数は500以上になります。」
「剣よりも長柄武器とか鈍器の方が使いやすいでしょうね。」
「武器に多く魔力を込めると威力や武器自体の耐久も上がるかもしれませんけど、敵が多い場合は魔力切れが怖いです。」
「上位のスケルトンじゃなければ魔力込めなくても倒せますけど武器も消耗しますね。」
「500以上って・・・二人で対処できるものですか?」
「団長はできると思ったから二人に任せたんだと思いますが・・・」
「大隊長クラスが二人だと無理ですね。スケルトン自体は余裕ですが問題は数です。絶対途中で魔力切れになります。」
「副長殿が魔法で圧倒してくれると思うので!」
ソーマは茶化すようにシオンに振る。
「ソーマが囮になって敵を全部引き付けてくれたら一掃できるかもね!」
「アンデットはゴブリンよりも能力自体は高いですが知能が無いのでその意味ではやりやすいかもですね。」
「ソーマさんが引き付けてシオン副長が魔法で削る。戦い方としてはそれが一番だと思いますよ。」
その後二つの街で補給を受け目的の街に三人は入った。
「思ったよりも早く着きましたね。現地の責任者に現状の確認に行きましょう。」
レリダの街はバルセロナと比較すると小さいが、それでも人口は5千人ほどで中規模の街らしい。
騎士団の建物に入り責任者に面会すると笑顔で迎えられたが、二人だけだと知ると急に不機嫌になった。
「ようこそお越しくださいました。私はこの街の隊長のファーガスと申します。思った以上に早く来ていただいたのでまだ街に被害はございません。」
「エレノア団長の新しい副長だとか。若いのに大したものです。」
「他の団員の宿舎を用意させますが1個大隊でよろしいですか?」
「二人です。」
シオンが簡潔にこたえる。
「二人?ああ、隊長格は副長殿とお隣で2人ですね。随行の団員はいかほどでしょうか?」
「ですので二人。私と彼だけです。今回の任務は二人で当たります。」
副長という自分より上の立場の前だがファーガスはみるみる機嫌が悪くなり声を荒げて叫ぶ。
「は?え?二人?1000近いアンデット相手に二人?何を考えているんだ!」
「ライヤー!数百のアンデットで大隊単位の対処が必要と支援を求めたがどういうことだ!」
「ファーガス隊長。副長の前で失礼ですよ。エレノア団長の判断です。」
「この街の住人が危険に晒されるんだぞ!今回の半分の数だった時に大隊でも隊員も住人も被害が出たんだぞ!」
「それをこんな若い二人で何ができるというんだ!」
ソーマとシオンは1000近いという数を聞いて絶句する。
「我々の力に疑問があるのであればレリダの騎士団員にも協力をお願いできますか?」
「街の防衛も必要だ!それに俺は部下を無駄死にさせるつもりは無い!」
シオンの提案をファーガスは拒否する。
「ファーガス隊長。副長が命令した場合は断れませんが。」
「なんだと!この若い副長殿は我々に死ねと命令するのか!」
ライヤーが更に諫めようとするがシオンがそれを制す。
「いいでしょう。当初の予定通り二人で殲滅します!」
「貴方方は街で待機して防衛にあたりなさい!」
「ソーマ、ライヤー行きましょう。」
シオンは二人に声をかけ建物を出る。
「まぁ立場や状況を考えるとファーガス隊長の態度もわからなくはないかな。」
ソーマはファーガスの言動に一定の理解を示すがシオンの怒りは収まらない。
「街の住人や部下の事を考えるんだったら協力すべきでしょう!」
「私たちが失敗したら誰が対処するんですか?ここの団員だけで何もできないから応援を求めたんでしょう?」
「それを見た目や人数だけで一方的に判断するなんて!」
「だからこそエレノア団長は実績を作らせて新しい副長の実力を示そうとしたんだろ?」
「もともと二人での任務予定だったし、二人で達成したという事が実績アピールにもなると思うけど。」
「数は数百がって聞いてたのが1000近いって想定以上だけど。」
「そう。数もです。ライヤーさん!情報収集も担当なんですよね!どういうことですか!?」
「すみません・・・このエリアでは数年に一度アンデットが出るんですが普段は300~500なので・・・」
「いつもこうだから今回もこうだと思いましたと?それがあなた方の仕事ですか?」
「ゴブリンの時も異常発生と言ってたから何か関連性があるのかもしれない。」
「今まで一度も無かったことを予想するのは難しいんじゃないか?」
「ソーマはさっきから擁護ばっかりしますけど、対処するのは私とソーマなんですよ?」
「1000体も相手にできる自信があるんですか!?」
「やってみないと分からないけど、一体一体は強くないからな。団長クラス相手にしろって言われたら勝てないと思うけど、絶対勝てる相手を1000と言われたら立ち回り次第でなんとかなるかと思うかな。」
「竹刀とかじゃなくて真剣を1000回振るだけでも無理じゃない?」
「生身なら無理だけど身体能力強化があるからなんとかなると思う。シオンが半分倒したら俺は500で済むしね?」
「でもここの団員が100でも200でも倒してくれるだけでもだいぶ違うでしょ?」
「倒さなくても引き付けてくれるだけでも!」
「いや自分で断ってたよね?もっとよく話してたら協力してもらえたかもよ?」
「あんな自分勝手な人相手に下手に出てお願いするなんて無理!ソーマはできるの?」
「必要なら俺はするよ。仕事だからね。まぁ今回は俺の立場では言えることでは無いからね。」
「誰からも副長と認められたら違うと思うけど今後は立場的に嫌なことでもやらないといけないこともあると思う。」
「下げたくない頭下げるくらいならいいけど、部下に死ねと命令しないといけないこともあるかもね。」
「そんなのが嫌だから騎士団断ったの?」
「それだけじゃないけどね。」
「あ~もう嫌になってきたわ。」
「今更嫌ですってわけにはいかないだろ・・・強くなれば理不尽に耐える立場から強いる立場にもなれるんじゃない?」
「私はそんな横暴な人にはなりません。でも強くはなりたいかも。」
「魔法覚えて間もないのにこれだけ使えるんだからすぐにもっと強くなれるでしょ。」
「ひとまずスケルトンを倒しましょ。」
不機嫌なシオンにソーマが話しかけ多少気がまぎれたのかようやく話が終わる。
だがライヤーの不安はまだ解消されない。
「・・・二人とも軽く言われますけど本当に大丈夫ですか?」
「エレノア団長もここまでの規模だとは思っていないはずです。」
「バルセロナに再度救援を求めた方がよくないですか?」
「楽できるなら俺としてはそうしてもらいたいですけど無理じゃないですか?」
「伝令出して1日で届いてそこから検討、準備。大隊どころか中隊規模でも数日かかるでしょ。」
「ましてや今は異邦人の対応で人手が取られてるんですよ。」
「こっちにまわす兵がいるとは思えないですけど。そもそも数日放置してもスケルトンは大丈夫なんです?」
「・・・・・」
「正直に言うとお二人にお任せするしか無いと思います・・・」
「やはりせめてここの団員を動員できるようにしましょう!」
「いや、無理に頼んで被害が出てこちらのせいにされても困ります。」
「シオンの魔法の邪魔になっても困るのでやはり二人でやる方が気が楽です。」
「分かりました。では今夜は休んで明日の早朝現地にお連れします。」
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