第16話 疑惑と勧誘
悠樹とエレノアの沈黙を破ったのはテイトの言葉だった。
「シオンさん。ソーマさんは自分は異邦人ではないと言っていますがどうですか?」
「貴方はこれから騎士団の、団長の次の身分になります。騎士団のことを考えて意見をください。」
「・・・・・・・」
そう問われ紫苑は正直に答えるかどうか一瞬考える。
悠樹が表情も変えず紫苑を見つめる。
(あせりもしないなんて・・・)
(私が本当のことを言ったらどうするつもりなんだろう・・・)
紫苑は本当のことを言ってやりたい衝動にかられたが、
嘘は言わなかったが、テイトたちが求めている回答はしなかった。
「どうと言われても、、、私が異邦人だからといって他の異邦人を見ただけで見分けられるわけではないです。」
「ソーマさんとは村であってここまで馬車で一緒だっただけで詳しくは分かりません。」
「ですがもしソーマさんが異邦人だとしたら、本人が否定するってことは隠したいわけですよね?」
「それを無理やり暴くと騎士団の敵になる可能性があるのでは?」
「団長ならともかく、大隊長クラスでも簡単な相手では無いです。」
「少なくとも魔物と盗賊討伐では騎士団にとって利になる行動をとっています。」
「国や街、騎士団にとって悪い考えを持っているのならそもそもこんなことに首を突っ込まないでしょうし、
一般常識でぼろを出すなんてないと思います。」
「テイト、新しい副隊長の意見はもっともだと思うがどうだ?」
エレノアが副隊長に任じたシオンが魔法の能力だけでなく頭も悪くないことが分かり上機嫌でテイトに問う。
「・・・・そうですね。」
「ではソーマさんが異邦人かどうかはいいでしょう。」
「ですが騎士団をここまで断る理由を教えてもらえますか?」
「騎士団に入ると自由が無くなりますよね?」
「村を出て常識も知らないので見聞を広めるため色々な街を見て回りたいのと、
魔力の使い方に慣れていないのでもっと特訓をしたいなと思いまして。」
「騎士団でも訓練はできるし魔物討伐で実戦も積める。仕事で色んな街に行く機会もあるが?」
「他の国も行ってみたいですし、今は剣よりも魔法をもう少し学びたいので。」
「魔法?タイプ的に戦士じゃないか?向いていないと思うが・・・」
「すみません。向き不向きがあるというのはわかりますが戦士タイプのこと教えてください。
他にどんなタイプがあって、特徴があるんですか?」
「そう難しくないしそのままなんだが、魔力操作の得意分野で戦士、魔剣士、魔術師タイプに分けられる。
身体能力強化、武具への魔力や属性付与、攻撃、防御魔法のどれが一番得意かで分けられている。」
「魔力を身体の中と周囲、外、どこで扱うのが得意かは人によって変わるから普通は一番得意な分野を伸ばす。」
「ソーマさんは身体能力強化以外はほとんど扱ってなかったから戦士タイプだと思う。」
「それなら魔法を覚えるのは一番効率が悪い。」
「まったく使えないわけでは無いんですよね?」
「それはそうだが全部を使えるレベルに扱える者は極僅かだな。」
「ちなみにエレノア様はどのタイプですか?」
「私か?私は魔術師魔剣士が得意だな。身体能力強化もある程度できるが。」
「団長は魔力総量が国でもトップレベルだから参考にはならないと思う・・・」
「初めに挑戦してみるのは悪い事じゃない。向いてないと分かれば違う分野にすればいいからな。」
「団長は彼を勧誘したいんですか、したくないんですか・・・」
「私は有望な若者の将来を考えているだけだ。ここで伸びてもらうのが一番嬉しいがな。」
「そもそも我が国はどの国とも争っていない。敵になることは無いから問題ないだろう?」
「ではソーマさんは今後この街で仕事を探しながら魔法を学ぶ予定ですか?」
「仕事を探す予定だったんですが報酬でまとまったお金が入ったので魔法に専念しようかと。」
「どうするのが魔法を勉強するのに一番良いでしょうか?」
その答えにはテイトではなくエレノアが答える。
「この街にも学校はあるが、セビリアの王立学校がこの国では一番レベルが高いな。」
「本当に一番レベルの高いところで学びたいならイングランドの王立学校だな。」
「イングランドは戦士や魔剣士適性の者も魔法を学ばせて魔術師数は他国の数倍いるからな。」
「イングランドの王立学校って特に貴族クラスは入学時点でかなりのレベルの魔術師揃いらしいですよね。」
「たしか授業料もかなり高くありませんでした?年間1億とかだった気がしますけど。」
「イングランドの王立学校・・・・」
悠樹は学ぶとすれば一番効率の良いところで学びたいと思うが、
イングランドの学校は魔法が既にかなり使える者だらけのようだ。
果たしてそのなかで覚えたての自分がついていけるか疑問だ。
それ以前に一番レベルの高いクラスは貴族限定らしいから無理だろう。
ならばセビリアの学校をと思うが入学条件等まず確認しなければならない。
「学校に行きたいのであれば紹介状を出してもいい。」
「エレノア様!?」
「簡単に出さないでください!そもそも実力が無いものを紹介したら紹介者も恥をかくんですよ!」
「ではチルダースに出させてもいいな。ソーマはあいつに貸しがあるだろう?」
「だがテイトが言っているのも事実だ。お前がもし紹介状まで使って学校に行くとしよう。
周囲はお前を特別な目で見るだろう。その中で期待外れだった場合は紹介者にまで影響する。」
「チルダースも言えば紹介状は出すだろう。それで貸し借りなしだ。
だがそれで万一お前がチルダースの名を貶めたなら、チルダースはお前を決して許さないだろう。」
「それでも魔法学校へ行きたいか?」
「紹介状など関係なく学校へ行く方法は無いんですか?」
「市民で適性高いものが入れる学校はあるが貴族が通うところと比べると質は落ちるな。」
(リスクとコストが効率に見合うかか・・・)
「できればより良い環境で学びたいと思います。」
「学費は今回の報酬で賄えると思うのでチルダース団長にお願いしてみます。」
「ほう。ここまで言われて貴族の行く王立学校を希望するとはな。自信があるのか?」
「自信があるわけでは無いですが魔法自体は使えるので少しでも良い所で伸ばしたいと思います。」
魔法だけなら烈や紫苑より威力が低かっただけに、悠樹は自信があるとは言えなかった。
だが特化していないだけで複数の属性が使えたからそう悪くは無いと考えていた。
「魔法が使える?ソーマさんは魔法が使えるんですか?模擬戦では使ってなかったですよね?」
「使ってましたよ。移動や防御に。攻撃は剣の方が威力があるので使いませんでしたが。」
「使っていた?移動や防御?にエレノア様は気づきましたか?」
「いや、私にも分からなかったな。」
「風魔法だから目視は難しかったかもしれませんね。」
「風魔法?また使う人間が少ない魔法を・・・・」
「いいだろう。チルダースに頼むまでもない。私が紹介状を用意しよう。」
「・・・いいんですか?エレノア様にメリットが無いように思いますが。」
「そのかわり仕事を頼みたい。」
「異邦人探索が最優先となったせいで定期巡回で間引く予定だった魔物討伐に人手が足りない。」
「正規の報酬も勿論支払おう。」
「ありがたい話ですが、私のメリットが大きくないですか?」
「君は異邦人ではないが、有望な若者だ。投資と考えてくれ。」
「別に恩を返せと後で言うことも無い。こういう支援も貴族としての務めのひとつだ。」
「そうだ。忘れずに先に済ませておこう。持ってきてくれ。」
エレノアが声をかけると使用人が指輪を2つ銀のトレイに載せて持ってくる。
「シオンとソーマのPRだ。二人の魔力パターンを登録するからリングを着けてくれ。」
エレノアに促され二人は指輪を付けて言われるがまま登録作業を行う。
「これで二人はバルセロナで市民登録ができた。」
「シオンは当面我が家で生活することになる。」
「ソーマはハンターギルドや銀行にもこちらで明日には登録させよう。」
「性能の良いリングは武器の収納とかもできると聞いたんですが。」
「ああ、勿論できる物を用意させたぞ。」
「使い込んだ装備だったらできるが、武器を鞘に収めるイメージでリングを使う。」
「まぁ馴染んだ装備が出来たらやってみるといい。」
「装備品じゃなくて例えば水や食料なんかは収納できないんですか?」
「食料とか腐るものはできない。」
「馴染んだ装備っていうのもよく分からないんですが・・・。」
「取り出すときにそのもののイメージができるかどうかだな。」
「リングに収納すると見えなくなるだろう?取り出すときにそのものの正確な形がイメージできないといけない。」
(状態が変化するから有機物がダメということか?形状が完璧に把握できていたら何でも入れられるのか?)
悠樹はPRの仕様を考え便利に使う方法は無いか検証の必要性を感じる。
「紹介状もPRに入れておいたからな。魔力を通して色々試してみると良い。」
「そんなこともできるんですね。」
悠樹は指輪に集中しイメージする。すると紋章?がホログラムのように浮かぶ。
「なっ!エレノア様!ただの学校への紹介状だけじゃなく侯爵家が保証人となるものじゃないですか!」
「この国は勿論、他国でもイスパニア同盟国だと通用しますよ?悪用されたらどうするんですか!」
「ソーマ、悪用するのか?」
「いえ、、、これで何ができるか分かりませんが迷惑がかかることは無いようにします。」
「だそうだ。テイト。」
「知りませんからね?当主様が知ったらどうなるか・・・」
「ソーマさん、貴方が思っている以上にそれが持つ影響力は強いですからね。」
「くれぐれもお願いしますよ?」
「まだよくわかっていませんが、支援を受けたのなら結果が出た時はなんらかの成果でお返しすることをお約束します。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます