第15話 晩餐と報酬

「突然の招待によく来てくれた。」

「料理が出来るまでは酒でも楽しもう。」


悠樹と紫苑は大きなテーブルに座りエレノアの話を聞くが落ち着かない。


「あの、ここってお城ですよね?エレノア団長はどういうお立場なんでしょうか?」


そう。よくわからないまま馬車に乗せられ着いたのが城で、

そのまま控室に二人は別れて通された後、使用人が持ってきた服を着せられ、

この食卓に着いているのだった。


「第一騎士団団長というのは分かっていると思うが、ここではエレノア・バルセロナと名乗った方がいいかな?」


「バルセロナの領主様ですか・・・?」


「いや、父は王都にいるから私は父が不在時の代官のようなものだ。」

「不在時とは言うが基本父はほぼ王都にいるがな。」

「で、このテイトは副長で私のお目付け役というわけだ。」


「エレノア様、当主様よりたしかによろしくとは言われておりますが別にお目付け役というわけでは・・・」


テイトが抗議しようとするがエレノアが手で遮る。


「今回は改めて部下の命を助けて貰って感謝する。」

「また、騎士団の汚点でもある盗賊団の壊滅、異邦人の保護と報告。

すべて我が領内において多大な恩恵をもたらしてくれた。」

「異常発生の魔物討伐及び報告で1000万G、盗賊団の壊滅に5000万G、

異邦人の報告3名分で1500万G、異邦人の保護と引き渡しで2500万G。」

「合計1億Gを今回の報酬として支払わせてもらおう。」


(1億?そこそこの宿で一泊1万だっけ?20~30十年は暮らせる金額なんじゃ・・・)


「どうした?思ったよりも少ないか?」

「異邦人の報酬分は実は明日以降大幅に報酬が下がる見込みだ。」

「王都からの連絡でかなりの数の異邦人が領内で確認されている。」

「明日からは十分の一以下になるからこれでもかなり融通しているんだぞ。」


「ええっと、盗賊の討伐に関してはシオンの働きが大きかったので、

シオンと分けたいと思うのですが・・・」


「ううむ。異邦人の扱いについてはこれからとなるため報酬を今のところ渡せないのだ。」


「そうですか・・・ところで私が会った異邦人は4人ですが、他にもたくさん発見されているんですか?」

「何十年か前に百人程度と聞いたことがあるんですが。」


「細かい人数は分からないが王国各地で数日前から少なくとも数百人は確認されている。」

「他の国の状況も調査中だが、国益に関係するので詳しくは教えられない。」


「そうですか・・・。」


(数日前、おそらく同時期に最低数百人。これから見つかる人数考えると千人以上はいるのか?)


悠樹が同郷の者について考える間もなくエレノアが話を続けた。


「ところで、ソーマは非市民で間違いないのか?」

「今日の戦いを見てあれだけ戦えて非市民の者など珍しいのでな。」


「はい。私のいた開拓村が魔物によって無くなりましたので大きな街に仕事を探しに来ました。」

「たまたまその途中で、ダーレーさんや異邦人達と出会いました。」


「そうか。ところで、剣技は見事だったし強化も若さにしては悪くなかった。」

「だがなぜ武器に魔力をまったく通さなかったのだ?」

「技を磨くための訓練だと魔力を抑えることはあるが、魔力を通さないと普通は勝負にならない。」

「それでもあれだけ戦えた剣技を褒めるべきかもしれんが、相手は侮辱されたと思うぞ?」


「武器に魔力を・・・ですか?すみません。身体能力を強化することも数日前に覚えたので、、、」

「魔力を武器に流す・・・体と同じように強化できる・・・?」


悠樹はつぶやくと目の前に用意されているフォークを手に取る。

身体全身をまず意識して強化し、手に持ったフォークまでを身体の一部として考える。

そう思うとフォークまで何かに覆われたような感覚が掴めた。


(成程・・・・強弱も調整できる気がする。今晩寝る前でもやってみるか・・・)


「あの時は本当にできなかったんだな・・・」


エレノアのつぶやきに悠樹はハッとする。

武器の強化について集中しすぎて周りが見えていなかった。


「失礼しました・・・でも理解できました。まだまだですが今は少しできるようになったと思います。」


「そのようだな。」


「魔力は体の中に流して身体能力を高める。武器や鎧を覆う形で纏い強化する。

魔法として火や氷として放つ。これが基本的な使い方だが。」

「知らなかったのか?実際使えるものは1割もいないが知識としてならこれくらいはほとんどのものが知っていると思ったが。」


「すみません。人もほとんどいない開拓村育ちなもので・・・」


「ふむ。前線の開拓村だからこそ魔物と戦えるものはいるはずだが・・・まぁいい。」


「シオン。異邦人のことについて教えて欲しいのだが話せるか?」


「はい。私たちは元々いた世界から理由はわかりませんが突然この世界に来ました。」

「私たちは特別な人間ではなく普通の学生。学生は分かりますか?」

「将来のために勉強中・・・のものです。こっちに来て最初は言葉も通じませんでした。」

「ですが突然、翻訳魔法というものが使えるようになりました。」

「四人のうち私ともう一人が使え、残りの二人は使えないままでした。」


「ソーマさんに魔法の事を聞いて少し練習したら使えるようになって・・・」

「ダーレーさんたちとも話して、国で保護してもらえるだろうって聞いて、

まず大きな街に行ってみようってことでここまで来ました。」


「あの、、、それで私、、、私達、異邦人達とされる人はどうなるんでしょうか。」


「ああ・・・・前回ヴェネツィアに来た異邦人達は大きな影響を国内外に与えた。」


「それ以来どの国でもこちらにない技術や知識を得ようと保護の対象になっている。」


「保護とはどのようなレベルですか?建物に閉じ込められ自由が無いのですか?」


「他国に行かれると自国の損失になるから完全な自由は無いかもしれないな・・・」

「とはいえ前回と今回とで状況が違う。一番大きいのが人数だな。」

「本来は王室預かりだったが、今回は人数が多すぎて王都だけでは管理できないらしい。」

「伯爵以上なら国に届けさえ出せば領主が異邦人の処遇を決められることになった。」


「そこでシオンに相談だが、騎士団に入らないか?私の副長扱いとさせてもらう。」


「副長って、テイトさんと同格ですか?いきなりそんな役職で他の人の不満は大丈夫なんですか?」


「覚えて数日であの威力の魔法を使えるということはすぐに実力が追いつく。」

「既に大隊長に近い力があると思う。異邦人ということを考えると副長でも何の問題も無い。」


「騎士団の仕事を教えてもらってもいいですか?」


「領地の魔物討伐が中心だな。盗賊など犯罪者を相手にすることもある。あとは街の治安維持か。」


「戦争とかは無いんですか?」


「・・・イスパニアは現在どの国とも交戦していない。」

「だが万一戦争が起きればその時は国のために戦わなければならない。」


「基本的には人の為に働いているんですよね?」


「勿論だ。」


「騎士団以外の選択肢はありますか?」


「それはシオンに何ができるかによるな。」

「特別な技術や知識があるならそれを活かせる場所を考えさせてもらう。」

「ただ、騎士団は嫌で他にもやりたくないと言われると正直困る。」

「あの魔法を見た以上、自由にさせてやることはできない。」


「実質、騎士団に入るのが一番自由があると言えるんですね・・・」

「分かりました。それではお世話になりたいと思います。」


「おお!即断してもらえるとは思わなかった!よろしく頼むぞ!」

「テイト、明日早速手続きを進めてくれ。」


「それと、シオンと一緒に他に3人いたのだったな。」


「はい。一人は途中盗賊との戦いで亡くなりましたが、あと2人は村に滞在しています。」


紫苑は烈のことに触れる時に暗い表情になるが村に滞在する二人について話す。


「村にいるものは今のところ魔法は使えないし言葉も通じないか・・・・」

「他にも言葉の通じない者も多くいるかもしれないな。」

「テイト、翻訳魔法使える者はどれいくらいいる?」


「共通語になってから使う機会無いですがそう難しい魔法じゃないので必要なら身につけさせますよ。」

「第一だけでも何人かは数日あれば確保できるかと。」


「よし。領内の異邦人はバルセロナに集めよう。忙しくなるぞ。」


「忙しくなるのは主に私ですけどね・・・・」


「そう言うなテイト。ほら旨いワインでも飲め。」


「このワインも私が買ったやつなんですけどね・・・」



悠樹は第一も第二も副長は苦労しているなぁと他人事ながらに聞き流す。



「ところでソーマも仕事を探していると言っていたが騎士団に興味は無いか?」

「希望するなら入団を認めるが。」


「ありがたい話ですが辞退させていただきます。」


紫苑とは逆に断るという形で即答されたのが意外だったのかエレノアは少し驚く。


「断られるとは思わなかったな・・・まず中隊長をと思っているのだが。」


「いえ、お申し出はありがたいですが・・・」


「ソーマさん。普通だったら入団試験があって入りたくても入れない人も多くいる。」

「そんな中でいきなり中隊長抜擢というのはかなり異例の厚遇だよ?」


それでも騎士団に入ると言わないソーマにエレノアが続ける。


「ふむ。大隊長ならどうだ?」


「エレノア様!中隊長でさえ反発があると思われるのに大隊長は流石に納得できない者が多いかと!」


「・・・・・」


悠樹はエレノアと視線を合わせてわずかな沈黙の後、やはり拒絶を示す。


「力量を超えた過分な待遇を受けるわけにはいきません。」

「テイトさんも落ち着いてください。エレノア様も本気じゃないですよね?」

「たぶん私を試しただけだと思うので。」


「・・・・・」


エレノアの表情からは笑顔が消え悠樹を問いただす。


「ソーマ。君は何者だ。開拓村出身と言っていたが違うな?」

「開拓村で育ち他の村を知らなければ知識が偏るのはわかる。」

「だが君はチグハグ過ぎるな。」

「丁寧過ぎる言葉使い、剣技と魔力の使い方のアンバランスさ。」

「今の食事にしてもおかしい。来る前にマナーを気にしていたな。」

「その割には迷わず食事をとっていたな。」


「・・・食事は二人のやり方を見て真似しました。」


「真似ていきなりこれほど綺麗に食べられるか?」

「今日の料理は普通の庶民が食べたことのないものばかりだと思うが?」


「そう言われましても非市民の私には証明のしようがありません。」


悠樹はそう言ってエレノアの眼を正面から見つめる。

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