第14話 模擬戦終結

「なぜ正々堂々と戦わない!」


「私たちは正々堂々戦いましたが。開始の合図の後、なんの声もかかっていないですよね?」

「戦いの中で隙を見せてしまった者が悪いと思いますが。」


チルダースの怒りの問いかけに悠樹は淡々と自らの主張をする。


「よくそんなことが言えたものだ!ではまだ戦いは続いているということでいいな!」

「バルセロナ第二騎士団団長チルダース。参る!」


本来は中隊長格の盗賊を倒せる実力があるかどうか見極めるという話であった。

中隊長を戦闘不能にした時点で目的は達せられたはず。

その後、大隊長が出てきたことにも抗議したいところだった。

さらに文句を付けて団長まで出てくるとは想定外すぎた。

団長として、騎士としての矜持なのか、名乗りを上げたことで悠樹には構える時間が出来たはずだった。


「!」

「シオン!・・・」


シオンに魔法で援護を頼もうとしたのか、逃げろと言おうとしたのか、悠樹は最後まで言葉にすることはできなかった。

気づいたら間合いに入られ、抜刀から横薙ぎが迫る。

ゴドル大隊長とは技でカバーできていた基本的な身体能力の差が、

チルダース相手では埋められないほどの差になっていた。

剣をなんとか間に入れるも何も無かったかのように悠樹の持つ剣が切断されていく。

風魔法で自分をなんとか後ろに全力で飛ばして回避しようとするも完全には避けられず横一文字に腹の表面を斬られ出血する。


「痛ッ!クソッ!刃引きの剣相手に真剣で全力で斬りかかるのが正々堂々か!」


悠樹はなんとか戦いを終わらせようと相手を非難する。

言葉で止められるとは思っていないが言って少しでも剣が鈍れば儲けものという考えだ。

だがやはり頭に血が上っているのかその避難を苦々しげに受けつつもチルダースは止まらなかった。


「止まって!」


紫苑が魔法を放ち直撃するが、わずかに勢いが削がれただけで悠樹に向かっていく。

その剣が振り下ろされようとしていた時、二人の間に槍が突き刺さった。


「そこまでだ!チルダース団長少々やりすぎではないか?」


「エレノア団長・・・・」


「武器の無い相手に騎士団の団長ともあろう者が剣を振るうのか?」

「少し前から見ていたが大隊長の相手をさせたこと自体に疑問があるが。」

「チルダース殿は、適切な行為だったと自信を持って言えるか?」


「・・・・・・」


チルダースは言葉に詰まり苦々しげにエレノアを睨む。

わずかな沈黙を破ったのは悠樹であった。


「訓練ありがとうございました。」

「私がチルダース団長にお願いして稽古をつけてもらいました。」

「大隊長にも団長にも私では手も足も出ませんでした。」


「何?」

「事情は知らないがお前は自分から今回の戦いを申し出たと言うのか?」


エレノアが悠樹に問う。



「はい。盗賊団の討伐を報告したのですが、実力を見てもらえると聞き、

このような機会滅多にないと思いお願いしました。」


「なるほど。やり過ぎだったと私は思うが両者同意ならこれ以上は何も言うまい。」

「チルダース殿、訓練で熱くなり過ぎないように頼むぞ。」


「・・・・ああ。」

「借りとは思わんぞ・・・」


チルダースはエレノアに答えた後、悠樹に近づき耳元でつぶやく。

悠樹はただ今回のことが原因で騎士団長から目を付けられたり、

嫌がらせをされたりという事は避けたく、遺恨が残らないようにという考えからの発言であった。

特別な貸し借りというものを期待したわけでは無かったが、約束については別だったので、

第一騎士団長もいる場ではっきりさせておきたかった。


「本当に勉強させてもらいました。自分に足りないものが実感できてよかったです。」

「ところで、彼女の魔法があったとはいえ中隊長と大隊長は退けました。」

「チルダース様の出来ることであれば何でも聞いていただけるということでしたが、、、」


「たしかに私もその言葉は聞いていた。テイト。お前も聞いたな。」

「はい。間違いなく聞いておりました。」


「・・・・希望はあるか?」


「いえ、今は思いつきませんので今後何かあればお願いします。」



「いやぁなかなか面白いものを見せてもらった。」

「私は第一騎士団の団長のエレノアと言う者だ。」


「私はソーマと申します。」

「シオンと申します。」


「ソーマにシオンか。」

「ヒーラー!傷の治療を頼む。」


エレノアは楽しそうに悠樹へ近づくとヒーラーをすぐに呼ぶ。


「良いワインが手に入ることになったんだが今晩招待させてもらえないか?」


悠樹がヒールを受けているとエレノアが食事に誘ってきた。


「エレノア様、良いワインって、、、、」


「お前の奢りのに決まってるじゃないか。」


「でも最後はエレノア様が止めましたよね?勝負無しだと思いますけど・・・」


「そもそも中隊長相手でも無理だと言ってたじゃないか。往生際が悪いぞ。」

「別に稼ぎが悪いわけでもないのに酒の一杯や二杯、みみっちいこと言うな。」


「いや、普通の酒の一杯や二杯だったらこんなに言わないですよ。」

「エレノア様が言うワインって、うちの隊全員に奢るより高いじゃないですか!」


「そりゃ奢ってもらえるならいい酒頼むだろ!」

「それに私だって遠慮してるんだぞ!1億はしないの選んでやってるんだぞ!」

「それ以上うるさく言うなら私も本気で奢らせるからな!」


「勘弁してください、、、この前くらいの酒でお願いします・・・」


何やら奢ってもらえる酒についてもめているらしい。


「あの、、、お取込み中すみませんがダーレー隊長から報告書を団長へ渡すように預かっています。」

「それで、第二騎士団の団長が先にご覧になってなぜか模擬戦をさせられたんですが・・・」


「何?ダーレーの報告書をなぜ私じゃなくチルダースが見るんだ?」


「厳密にいえばどちらの団長か指定が無かったみたいですが・・・」


「そんなものなくても分かり切ったことだろうに!」

「テイト!内規を見直して改訂しておけ!」


「そんな細かいとこまで改訂してたらキリが無いですよ。口頭抗議が妥当かと。」


「任せる。どうせマッチ副長あたりが規則上問題無いとか言ったんだろうがな。」


「内規はともかく報告書を見ようか。」


「・・・・・・・・」


「魔物の異常発生と異邦人・・・・」


「村に二人の残って、こちらにシオンともう一人向かっていたんですが途中盗賊に襲われて・・・」

「盗賊は私とシオンでなんとか倒せました。」

「先ほど、第二騎士団の方は盗賊が元騎士団のクラックという人だったようなことを言っていましたが・・・」


「クラックを?なるほど。たしかにさっきの戦いを見ていなかったらチルダースが疑うのも無理ないかもしれないな。」

「クラックは元第二騎士団の中隊長で大隊長に迫る実力の持ち主だったからな。簡単な相手じゃない。」

「だがシオンのあの魔法があれば勝ったのも頷ける。」

「報告書にあった魔物討伐の件、盗賊討伐と異邦人報告も合わせて報酬を約束しよう。」

「今回第二が失礼をしたようだから最大限融通するから期待してくれ。」

「でだ、さっきも誘ったが実際の話しも聞きたいし今晩の食事に招待させてほしい。」



「ありがとうございます。テーブルマナーも分からないのでできれば辞退したいのですが・・・」


「我々だけだからマナーなんて気にする必要は無いぞ。なぁ、テイト。」


「貴方は気にしてください・・・ですが本当に我々だけなのでソーマさんは気にしなくて大丈夫ですよ。」


「ええっと、シオンも一緒ですけ?異邦人だと処遇が何かありますか?」


紫苑が自分だけ違うのかと、「えっ」と不安そうに息を飲む。


「まだどうするかは決まってないから少なくとも今日は一緒に食事をして泊まるといい。」

「シオンの処遇は勿論、二人にはこちらから提案させてもらいたいと思っている。」


「提案ですか・・・?」


「ああ、ソーマも仕事を探してバルセロナに来たんだろう?まぁその話は食事後でいいだろう。」


「・・・分かりました。ご一緒させていただきたいと思います。」


悠樹はチルダース殿ギャップはあったが、

エレノアの人柄に良い印象を受けたので悪い事にはならないだろうと食事を受けることにした。

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