第13話 騎士団との模擬戦
「では決まりだな」
「総員傾聴!」
チルダースが声を上げると演習場で訓練中の団員は一斉に手を止め視線を団長へと向ける。
「これから外部の者と模擬戦を行う!」
「なんとこの者達はクラックを含めた盗賊団を壊滅させるたそうだ。」
騎士団たちがざわめく。
「我々も身内の恥である盗賊団を追っていたが先をこされた。」
「勿論、我々の中隊でも一党を余裕で殲滅だきたことだろう!」
「騎士団の力を存分に見てもらえ。」
「ヘロド!小隊長と6名で戦え!」
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「私にできることはなんでも聞いてやろう」
チルダースがそう宣言したとき、建物の出入り口では二人の人物がその言葉を聞いていた。
「テイト、何だかよくわからんが面白そうなことをやっているぞ?」
「エレノア様、当事者たちは面白くなさそうですよ。止めますか?」
「こんなに面白そうなこと私が止めると思うか?」
「でも危なくなったら止めますからね。騎士団がリンチしたなんて悪評広まったら嫌ですよ。」
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「はっ!はっ?二人を相手に6名でしょうか?」
「この二人は盗賊団を壊滅させたのだからもっと多い人数差だったのだ。問題無かろう。」
「承知しました!全力で戦います!」
(ヘロドと呼ばれた人が中隊長・・・盗賊のリーダーと同格くらいなのか?)
(他の小隊長はダーレー隊長くらいか。)
「二人はここの演習用の武器好きなのを選んでください。」
マッチが悠樹と紫苑に武器を選ぶように促す。
「シオンは剣を使うことはたぶん無い。魔法メインだから適当に軽い武器がいいと思う。」
悠樹がそう言うと紫苑はショートソードを手に取る。
「俺はこれで」
悠樹が武器を選ぶと周囲から失笑が漏れる。
「槍と剣ってどんな組み合わせだよ?盗賊を倒したって本当か?」
団員の声にマッチは冷静に様子を見る。
「チルダース様どう思いますか?」
「ふん。どうもこうも早くも馬脚を現したな。とても戦えるとは思えん。」
団員たちは観覧席に上がり、戦う悠樹と紫苑にヘロド達が演習場の中に残る。
20mほど離れて対峙し始まりを待つ。
(紫苑、魔法の準備お願い。)
悠樹が紫苑に促すとマッチが開始を告げる。
「準備はできましたか?それでは、、、、始め!」
開始の声がかかった瞬間、悠樹は槍をヘロドめがけて投擲していた。
距離もあったしヘロドは余裕をもって槍を弾ける。
そう判断して持っている大剣を振るおうとしていた。
「シオン!槍を目標に撃て!」
「チェインライトニング!」
紫苑が放った魔法はこれまでのように放射線状に拡散することなく、
収束して槍に吸い込まれていく。
槍が届く前に雷魔法が槍からヘロドや周囲の団員に拡がっていく。
痺れで動きが止まった瞬間、槍本体がヘロドの胸に直撃する。
鎧の上からで刺さることは無かったが衝撃が伝わり後ろに飛ばされる。
ヘロド以外は魔法の一撃で剣を落とし全員膝を付いていた。
流石は中隊長か、後ろに飛ばされ、倒れたもののヘロドは魔法と槍を受けても剣を落とさずすぐに起き上がろうとする。
だが魔法の影響による痺れが残っているのか完全な動きでは無かった。
起き上がったときその首筋には悠樹の剣が当てられていた。
「こちらの勝ちでいいですか?」
演習場全体が沈黙する中、悠樹は何事も無かったように勝利宣言をする。
「馬鹿な・・・雷魔法だと?」
「だからいいんですかって言ったじゃないですか・・・」
「いや、女の方の魔法が強力だったのは認めよう。だがお前の実力は認めていない。」
「私自身が強いなんていいましたか?最初から三人で戦って、二人が魔法を使ったことも話しました。」
「今二人で中隊の人たち相手に勝利しました。盗賊に勝てるということは証明できたと思いますが。」
「チルダース様、流石に認めるしかないですって。」
「・・・・チルダースは中隊長だったが大隊長に近い実力があった。」
「ゴドル!出ろ。」
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「ヘロド中隊長に小隊長5人か。どう思う?」
「あの若者二人相手にやりすぎでしょう。」
「やりすぎとは?ヘロド達が圧勝するってことか?」
「二人の手を見てください。PR付けてない非市民ですよ?勝負にすらなりませんよ。」
「そうか、じゃあ賭けるか?私は二人組が勝つ方でいい。負けた方はワインの奢りだからな。」
「秘蔵のワインいただいていいんですか?」
悠樹達の知らないところでは賭けが行われていた。
勝負は圧勝だった。悠樹達の勝ちという結果で。
「ふふふ。私の勝ちだな。悪いな旨い酒がタダで飲めるなんていい日だ。」
「・・・・知ってたんですか?」
「ん、何がだ?髪色と気配から雷魔法使いそうだなとは思ったな。」
「・・・・・はぁ、、、、ワインですけど常識的な値段で頼みますよ?」
「私が常識が無いみたいに言うな。だが賭けは賭けだからな。」
戦いが終わったようだったので二人は勝者に声をかけようと動き出したとき、
チルダースの声が響くのだった。
「ゴドル!出ろ。」
「大隊長を出すなんて!」
「この間合いじゃ雷魔法は使えないみたいだな。」
「あ、でも賭けはまだ終わって無ければ私の勝ちですね。」
「でも、流石にまずいか・・・」
「すぐに止めましょう!大隊長レベルで獲物がハルバートですよ?」
「当たったら訓練用でもただじゃ済みませんよ!」
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「はっ!」
チルダースとマッチの隣にいて、ゴドルと呼ばれた男が観覧席から演習場へ跳躍する。
2階くらいの高さはあったが重装備に身を包み巨大なハルバートを手に綺麗に着地する。
悠樹はその光景に驚きわずかだが思考が止まる。
その一瞬の間に30m以上の距離をその巨体にはあるまじき速度で悠樹に迫る。
「速い!」
悠樹は驚いて声をあげるも、ハルバートの振り下ろしの初撃を回避する。
大振りの武器にもかかわらずすぐさま横薙ぎが襲う。
それもバックステップで最小限に躱し剣の間合いに入り一撃を入れようとするも、
横薙ぎで回転させていた身体から片手を武器から離し、裏拳で剣を弾かれた。
(手甲があっても剣を殴るか?この速さといい身体能力上がってるだけでなく身体そのものが強化されている!?)
(これだけ近いと紫苑の魔法には期待できないか・・・)
一瞬紫苑を見るもフルフルと首を横に振られる。
クラックという盗賊にも全力の剣で斬っても、傷を付けただけで致命傷まではいかなかった。
ならば刃を潰した剣でいくら当てても無駄なのかもしれない。
クラックよりもゴドルは速いし強いのかもしれない。
だが獲物がハルバートなだけクラックの剣よりも余裕を持って躱すことができていた。
悠樹の身体能力強化もその時の戦いよりも強くなっていることもこの結果に繋がっていた。
今回は一対一だが守る者もなければ、戦う場所も開けていて精神的にも余裕があった。
悠樹よりも数段ゴドルの方が攻撃力も速度も優れているのに捉えられないことにゴドルはイラつき始めていた。
「クソッ!団員だけでなく団長や副長が見てるのに醜態を晒すとは!」
「いい加減に当たれ!」
怒りに任せ武器を振るうも、威力や速度だけいくら上がってもかえって単調な攻撃になるのだった。
悠樹は相手の攻撃に慣れ、間に攻撃を挟む余裕が出てきたいた。
効かないとは思いつつも手や腕を斬りつける。
しかし予想通り鎧越しということもあり表面に薄く傷を付ける程度であった。
だがゴドルにとってそれは技術で圧倒する者が上から訓練で隙を指摘されているかの如く感じた。
ゴドルが動きを止め叫ぶ。
「貴様!舐めているのか!」
「舐めるも何も私の攻撃では貴方にダメージを与えることが出来るものは無いので・・・」
「それだけの技量があるのにか!?」
「そう言われましても・・・・」
「どちらも決定打に欠けるのであれば引き分けでしょうか・・・」
「ええっと、チルダース団長?実力を見るってことでしたよね?十分じゃないでしょうか?」
「・・・・・・いや、クラックを倒せる実力かどうかだ。そんな攻撃ではクラックには通じない。」
「だから魔法でダメージを与えた後の剣での攻撃だったんですって。」
「ゴドル。なぜ全力を出さない?」
「相手に舐めるなと言ったが、舐めてるのはお前だろうが!」
(いや、実力が無いって舐めてたのは団長さんだと思いますけど・・・)
声に出すと面倒そうなので思うだけに留める。
「チルダース様、、、、第二騎士団の名誉を傷つけ申し訳ございません!」
「このゴドル、これより全力をもって勝利します!」
「あ、シオン。今全力でやっちゃって。」
「あ、はい。」
気づくとゴドルが観覧席のチルダースに近づき何やら熱いやり取りをしていたが、
悠樹と十分な距離が出来ていた。
「ガアアッ!卑怯だぞ・・・・」
「シオン、流石大隊長だ。倒れるまで撃って。」
「いいんでしょうか・・・・」
そう言いながらも魔法を連発する。
結果、10発くらい紫苑のライトニングを受けてゴドルはようやく意識を失った。
(これだけ撃たないと倒せないのか・・・俺の今の火力じゃどうしようもないな。)
「貴様ら!」
チルダースは眼前で行われた卑怯な行動に激高し演習場へ飛び降り叫ぶ。
悠樹はマッチの方を見るが明後日の方向を見て目を合わせようとはしなかった。
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