第12話 バルセロナの街

森を抜け馬車を少し走らせると街道もしっかり整備されたものになってくる。

街の前まで来ると、ファンタジー世界のイメージする高い城壁では無かったが、

それでも魔物の侵入を阻むためか10m、二階建て住宅くらいの高さの壁に囲まれていた。

門は無いが入り口には門番だろうか、出入りする者をチェックしているようだった。


しばらくして悠樹たちの順番となり、商人がPRを出し声をかける。


「お願いします。」


「巡回商人か。荷台の二人もリングを出してくれ。」


門番からそう促され、持ってないことを悠樹が言い出す前に商人が口を挟んだ。


「途中盗賊にあったんですが、この二人が全員倒してくれたんですよ。」

「それで騎士団本部に報告に行きたいんですがいいですよね?」


「あの、非市民でリングは無いんですが、騎士団のダーレー隊長から団長への報告書を届けるよう預かってます。」


「ダーレー小隊長から?」


書類を出し確認してもらう。


「たしかに。だが小隊長はどうしたんだ?」


「ええっと、巡回討伐中に負傷されて現地で調査と療養中です。」

「普段の魔物の発生より大規模だったようで。」

「その際たまたま俺が通りかかって討伐を手伝う形になったので報告書を預かりました。」


「そうか。分かった。通っていいぞ。」


許可が出たので馬車ごと街に入っていく。


「まず騎士団に行って先に報告するか。」


「お願いします。」


商人は何度もバルセロナの街に詳しいのか、誰かに道を尋ねるでもなく馬車を進めていく。


「着いたぞ。」


学校くらいの大きさだろうか。三階建ての建物の前に馬車が止まる。

商人が入り口にいた男達に話しかけ、馬車を預けて三人で建物の中に入っていく。

入ってすぐに受付のような場所があったので悠樹が前に出て要件を伝える。


「こんにちは。商人さんですか?護衛などご依頼でしょうか?」


どうやら騎士団では護衛などの請負か斡旋もしているらしい。


「騎士団のダーレー小隊長から団長宛の報告書を預かっています。団長に取り次いでもりえないでしょうか。」


「お預かりしてよろしいですか?たしかに小隊長が書いたものみたいですね。」

「封がしてあるなんて珍しい・・・内容はご存知ですか?」


(異邦人がらみだから秘密にした方がいいのか・・・?)


「内容については詳細はわかりませんが、巡回討伐中に想定以上の魔物が出たようですが、

たまたま居合わせた私が手伝いました。魔物の異常発生について書かれてると思います。」


「そうですか。ハンターですか?随分丁寧な言葉を使いますね。」


悠樹は言葉使いが丁寧と言われ、考えてみると日本で学んだのは主に教科書英語だから、

ガチガチの英国英語だから丁寧なのかもしれない。

洋ゲーで覚えた単語やスラングは考えてみたらここでは通じないかもしれない。

翻訳魔法も意識すれば使えるかもしれないが、まだ自分を異邦人と思われたくないし、

「翻訳」の精度、例えば皮肉やことわざみたいなものが直訳されるのかどうかもわからない。

分かる範囲で自分の英語を使って、現地の流儀に合わせて単語を覚えていくのがいい気がする。


「丁寧ですか?開拓村から出てきたばかりであまりよく分かりませんが、

自分より年上が多かったので自然とこういう言葉使いになったのかもしれませんね。」


「ハンター、特に下位の方は粗野の方が多い印象なので・・・」

「書類はエレノア団長宛で間違いないですか?」


「? 団長に届けるよう預かったのですが・・・?」


「あ、騎士団は第一と第二がありますので念のため。」

「ダーレー小隊長は第一所属ですのでエレノア様で大丈夫だと思います。」

「ただ、エレノア様は現在外出しておりまして、戻るまでもう少しかかると思います。」


「時間かかるなら明日以降改めるか?俺は宿とって売り物整理して明日の商売に備えたいんだが。」


「特に指定無いなら今訓練場にいるチルダース団長に取り次いだら?」


受付にいるもう一人の職員が口を出す。


「でもたぶん普通は所属団長宛だろうし勝手に第二に取り次ぐのは、、、」


「魔物の異常発生に関することだったら急ぎじゃないの?」

「それに開けるか判断するのはチルダース様なんだから気にしなくていいって。」

「それでは私に付いてきてください。案内するんで。」


最初に話していた受付が心配そうにこちらを見てくる中、断るわけにもいかず付いていく。

建物から出て案内された場所は陸上競技場くらいの広さの場所であった。

その中で100人くらいの人が剣や槍、弓を使い素振りや模擬戦など行っていた。


「こちらです」


建物の横の階段を上がり、全体が見える観覧席のような場所には3人の男がいた。


「チルダース様、こちらの方がダーレー小隊長から報告書を預かったとのことで持参しております。」


受付が話しかけると男たちの視線がこちらに集まる。


「ダーレー小隊長?マッチ、うちの小隊長にそんな者いたか?」


「いえ、第一の方の小隊長です。」


「お前第一の小隊長まで覚えてるのか?」


「大中小の隊長格全員でも100人程度ですから。流石に全員の実力までは覚えてないですよ。」


「それで、なぜ第一の小隊長の報告書がこっちにくる?」


第二騎士団団長は身長は悠樹より少し高く185cmほどだろうか。

金髪碧眼に整った容姿に、装飾され見るからに高そうな剣と鎧を身に着けていた。

マッチと呼ばれた男は、170cmないくらいと少し小柄で鎧は身に着けず剣だけを腰に身に着けていた。


「失礼しました!エレノア様がご不在でしたので念のためお声がけさせていただきました。」

「なんでも巡回討伐中に魔物が異常発生した件ということで急いだほうがいいと思いまして・・・」


「まぁいい。マッチ、これを俺が開けて問題あるか?」


「そうですねー。普通は所属団長宛でしょうけど、持ってきたこの者も団長としか聞いてないのであれば、

開封しても問題は無いですね。文句は言われそうですけど小隊長のミスですからね。」


「そうか。じゃあ開けるか。お前たちは読み終えるまで少し待っていろ。」


高圧的に悠樹達に告げるとチルダースは開封し読み始める。


(騎士団の団長ってやっぱり身分的にかなり高いのか?貴族とかだったらどんな態度取ればいいんだ?)


悠樹は日本では既に働いていたし、役所の人間や取引先の社長などとも話す機会はあった。

その中には横柄な人もいたし謙虚な人もいたが、悠樹も仕事なので相手の気分を害さないよう対応して。

しかし、貴族という特権階級と同席したことは無かった。

この世界には貴族や王族という存在がいるということをまだイメージできていなかった。


「ふん・・・異邦人か。マッチ、お前も読んでみろ。」


「私が読んでもいいんですか?」


読んでいいかと言いながら既に読み始めていた。


「この女が異邦人だそうだ。」


「これを読むとそうみたいですね。流石に第一で見つけた異邦人をこちらがどうこうできませんよ。」


「チッ、分かっている。」


「ええっと、あなたがソーマさんですか?巡回討伐の手助けと異邦人をここまで護衛してくれた報酬ですが、

異邦人についての規定が色々あって計算に時間がかかります。第一騎士団から連絡がいくようにしましょう。

滞在先を教えてもらってもいいですか?」


「初めてバルセロナに来たのでまだ宿泊先は決まってなくて、、、」

「それと、途中で盗賊に襲われたんですが、なんとか全員撃退しました。」

「盗賊たちの持ってたPRがこれです。拾得品は貰っていいんですよね?」


「チルダース様、このリングは、、、」


マッチはチルダースにPRを渡す。


「どうしたマッチ。この装飾のリングは・・・」


「間違いないでしょう。クラックの物かと。」

「盗賊を全員?失礼ですが二人で倒したんですか?」


「もう一人異邦人がいて三人で戦いましたが、戦闘で亡くなりました・・・」


「この盗賊は騎士団で5000万Gの懸賞金をかけていてリーダーはクラック。

元騎士団の中隊長だった者で実力者でした。あなた達だけで倒せる相手では無いと思いますが、、、」


「ソーマの言ってることは事実です。異邦人二人が魔法を使って、ソーマが最後に剣で倒したのを確かに見ました。」


商人が証人となって団長らに伝える。


「異邦人は過去の例だと言葉も通じず、いきなり魔法が使えた者などいない。」

「ソーマと言ったな。お前は異邦人の報奨金を騙し取ろうとしているのではないか?」

「身元を確認したい。PRを出してくれ。」


チルダースは疑惑の目を悠樹に向ける。


「リングはまだ持っていません。市民権の申請をしたいと思っています。」


「何?非市民か!?非市民がクラックを倒しただと?」


(市民、非市民はただ登記的な意味以外にも差別対象になるのか・・・?)


「チルダース様、その発言だと差別と思われてしまうのでは・・・」


マッチが団長の発言に対して立場的にまずいと思い口を挟む。


「クラックを倒せるのならハンターで最低でもC級以上だぞ?」

「C級が市民登録してないなんてありえるか?犯罪者か訴えに偽りがあるかだろうが。」


「私は犯罪者でも無ければ先ほどの説明に嘘もありません。」

「開拓村が魔物にやられて出てきたばかりなのです。」

「自分の実力はわかりませんが、ハンターとしてやっていこうとバルセロナに今日来たんです。」

「市民登録もさせてください。」


「おまえが犯罪者かどうかは詳しく調べないと分からないが、クラックを倒せるくらいの犯罪者にお前のような者の登録は無かった気がする。」

「だが、盗賊達をすべて倒したかどうか偽ってないかすぐに確認する方法ならある。」


「クラックは中隊長でも上位の実力があった。うちの中隊とお前たち二人で模擬戦をしてもらう。」

「実力を証明出来たら事実だと認めよう。」



「・・・・・・」

「え、嫌です。証言と状況から判断してください。馬で数時間なので現地確認すればある程度わかると思います。」

「そもそも、第一騎士団の団長宛の報告だと思うのでそちらで処理してもらいたいと思います。」


「ふん!やはり何か後ろめたい事があるからだろう!」


「そんなものはありません。気になることがあればお調べください。」


「・・・第一と何か繋がりがあるのか?何か隠しているな?」


「私たちが第一騎士団と繋がってたらここには来ていないでしょう・・・」

「ええっと、マッチさん何か言ってくれませんか?」


「たぶんこうなったら理屈は通用しませんよ。口を挟んでも私が面倒なだけなので黙ってます。」


「ええ・・・・」


「・・・模擬戦をして実力が証明されれば何か私に得はありますか?」

「もともと嘘偽りのないことを疑われて、する必要のない模擬戦なんてしたくないんですが。」


「お前たちのような非市民の若者が盗賊を倒せるわけがない。お前は嘘を付いている!」


「だから、嘘を付いていなかったらどう責任を取ってくれるんですか?」


「もしお前たちに相応の実力があったら私にできることは何でも聞いてやろう。」

「これで断る理由は無いな!」


「あ~、もう滅茶苦茶ですよ。そんなこと言っちゃっていいんですか?」


「あの者達にうちの中隊が負けるわけないから問題無い。」


(相馬さん受ける流れになってますけど大丈夫なんですか?)

(紫苑の魔法があの時より強力になってるから魔法でいけると思う。模擬戦だし大丈夫じゃない?)

(えっ、私当てにされてます?私に何か得あります?)


小声で話していると紫苑がニヤニヤして悠樹の言葉を使ってくる。


(騎士団長ってかなり身分高いと思うし何かと便宜図ってもらえたらいいんじゃないか?)

(それはあの団長との約束です。相馬さんは勝手に私を当てにして何をくれるんですか?)

(え、俺・・・・?)

(まぁいいです。貸しにしといてあげます。)

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