第11話 卒業(1/2)
それから時は経ち、卒業式の日となった。大学の制服を着るのも今日で最後だ。
私は最後の試験を乗り切って法学部で首席を取ることができた。ちなみにルオンスは2位でシオンは経営学部首席だった。彼もワイマールが行っている事業のIT関連の授業を理工学部で多く履修していたからね。
卒業式の日の卒業生はテンションが高めだ。少しでも知っている仲の人に会えばつい盛り上がって話して、一緒に写真撮影してしまう。
「マクレガーさん、卒業おめでとう。」
医学部主席のマティアス・ウィリアムズバーグ君が声をかけてきた。同じく医学部のリナの話では10年に一度の逸材と言われているらしい。
ウィリアムズバーグ君は隣国パリシナ国の貴族らしい。あまり目立つのは好きじゃないみたいだが知的さの漂うイケメンで女子にとても人気があるみたいだ。
何を考えているか分からないところがあって私はこの人がちょっと苦手だ。
「おはよう。ウィリアムズバーグさん。卒業おめでとうございます。医学部のみなさんはあと2年通うんだから卒業式も通過点ね。」
「そうだね。マクレガーさんはパリシナの法科大学院に在籍しながら帝国の法科大学院で勉強するんでしょう?」
(ん?)
違和感を覚えた。
サルニア帝国の貴族でもないのに、なぜそんなことを知っているのだろうか。別に秘密にしているわけでもないが、大々的に私が殿下の庇護におかれることは公表していない。
「・・・そうなの。2年間、レオンハルト殿下の秘書として薬事の法案成立のお手伝いを宮内庁勤務としてやりながら・・・ね。」
一応、対外的に用意している理由を答えた。
「皇城で暮らすっていう噂だけど。」
「高位貴族は皇城に泊まれるように部屋をもらっているでしょう。大学院が皇城のすぐ近くだし、執務もあるから余っている部屋を期間限定でマクレガー家に貸してもらったの。」
マクレガー家に部屋を貸してもらったのは本当だが、リリーシアはその部屋ではなく皇太子が住まうアークトゥルス宮で暮らすことになる。
殿下の護衛をそのまま使えるからという理由らしい。
「そうなんだ。皇太子殿下と婚約するから居を移す?」
そう勘ぐられてもおかしくないわよね。
「まさか。子爵家じゃ家格があわないよ。」
「そっか。ところで、今日は皇帝陛下じゃなくて皇太子殿下が卒業式にいらっしゃるみたいだよ。」
「そうなの?!ベルンハルト陛下から杯を頂くのが夢だったのに!」
何を隠そう、私はベルンハルト皇帝陛下のファンでチャンスがあったらブロマイドにサインをもらおうと思って今日は持ってきたの!
ベルンハルト陛下はサルニア帝国が誇るイケオジで世の女性の憧れなのよね。ソフィー皇后様との恋物語は小説にもなっていて今の30代40代女性の憧れのカップルなのよ。
「シア!やっと見つけた。」
シオンが声をかけてきた。私はウィリアムズバーグ君に挨拶をしてシオンのほうに駆け出す。ウィリアムズバーグ君といるとなんだか息苦しい。シオンの方へ駆けていく私をウィリアムズバーグ君が怨嗟を孕んで見つめていることをこのときは誰も知らなかった。
他の友人たちとも合流して大学内での色々な場所で学生生活最後の写真を撮っていると、キャーキャーという歓喜の声と人だかりが見えた。
新聞社の人たち、副学長、事務長と護衛を引き連れたレオンハルト殿下だ。今日も輝く金髪と瑠璃色の瞳の宗教画から出てきたような美丈夫だわ。
というか・・・軍服姿がかっこよすぎる。眼福とはまさにこのことね。
そんな風に考えているとシオンに体の向きを180度変えられた。シオンは持っていたカメラで自撮りするために並んで手を上に伸ばして、もう片方の手で私の頭をシオンに寄せた。シオンも顔を寄せてきてめちゃくちゃ顔が近い。
「笑って」
撮影向けの笑顔を作って何枚か自撮りする。
「背景が賑やかだね。」
「あなたの不敬っぷりに私は驚いてるよ。」
シオンは何も答えずに今度はこめかみにキスしながら写真を撮る。こんなに人がいるところで恥ずかしすぎる。
「おはよう。卒業おめでとう。」
いつのまにか後ろにいたレオンハルト殿下が先に声をかけてきた。笑顔だけど目には怒りの色が見える。やっぱり不敬で間違いなかった。
「帝国の若き光にご挨拶申し上げます。殿下に杯をいただけること恐悦至極でございます。」
シオンは動じることなく流れるように挨拶した。周りにいた友人たちも私も合わせてお辞儀する。
「皇帝陛下が風邪を召されてしまい代役となった。主席の生徒たちは陛下から杯をいただけると期待していただろう。後日、陛下がお祝いの言葉を伝える機会を設けるそうだ。」
慇懃に陛下が来ないことに不平を言われたのに対してレオンハルト殿下は大人な対応をした。卒業生は陛下にお会いできることを楽しみにしていたので、みんなを代表して不満を口にしてくれたシオンと丁寧に答えてくれたレオンハルト殿下にとても好感を持ち溜飲を下げたようだ。
記者はレオンハルト殿下とシオンが話ししているところをパシャパシャと写真を撮っていた。新聞の3面にでも”帝大で卒業生に寿ぐレオンハルト殿下”という表題がついて小さく記事に載るのだろう。
「リリ!せっかくだからレオンハルト殿下と写真撮ってもらいなよ。軍服姿の殿下とアカデミックガウンで撮影できるのは今日だけだよ。」
ライラが突然提案してきた。シオンとリナは冷ややかな目でライラを見ていて、ルオンスはとても居心地が悪そうな顔をしていた。ライラに引っ張られてレオンハルト殿下の隣に行く。
「覚悟はしてたけど、やっぱり皇帝陛下が来ないとみんな落胆してるよな・・・。」
大人な対応はしてたけどみんなの反応は気になるみたいだ。
「”皇帝陛下”にお祝いされたかったからいらっしゃらないことは残念ですが、レオンハルト殿下が来たことにがっかりしている生徒はいません。それに軍服姿の皇太子殿下にお目にかかれるのも稀だから、喜んでいる生徒もたくさん居ると思いますよ。」
皇太子殿下が軍服を着て参席する式典は少なく、皇室ファンからすると垂涎ものの絵面だもの。
「君は?」
「?」
(私がどう思ったか聞きたいのかしら?)
正直な話、ベルンハルト陛下から言祝ぎをいただきたかった。でも、殿下が祝ってくれるのも嬉しい。私はレオンハルト殿下のことを尊敬しているのだ。
「殿下から祝っていただいて光栄です。それに・・・今日の姿がとても精悍で生涯忘れることはないでしょう。」
にっこり笑うと殿下も嬉しそうに笑った。褒められた子供みたいで少しかわいい。
ライラに「こっち向いて〜」と言われたので思わず友達と写真をとるときのようにポーズを取ってしまった。
「ところで、さっきの男・・・」
「シオンですか?」
「違う、ソリが合わなくてもさすがに公子のことは”さっきの男”呼ばわりはしない。俺が来たときに話していた男だ。」
(みんなと合流する前・・・)
「マティアス・ウィリアムズバーグ君ですかね?医学部の学生でパリシナ国の貴族令息です。」
「パリシナの・・・」
レオンハルト殿下は顎に拳を当てて何かを考えていた。軍服姿だとこうやって考え込む姿も麗しいわ。
写真を取ってもらえるとわかって他の生徒が押し寄せてきてそれ以上話すことはできなかった。
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