110、星の英雄

 一瞬で俺はアインの近くへ転移てんいする。エリカの異能、テレポーテーションによりアインの近くまで最短ルートで跳躍ちょうやくしたのである。だが、その光景こうけいにアインは全く動じた様子はい。

 いや、どころかアインは未だに余裕よゆうそうな笑みを浮かべている。

 それでも、俺は太刀たちを振るう。この状況で躊躇ためらえば、そのまま死に直結するだろうと理解出来ているからだ。

 だが、しかし……

「何だ、やはりその程度ていどか……」

「っ!?」

 確かに、俺は刀をりぬいた筈だ。しかし、事実じじつをありのまま言えば、振りぬいた刀は肩に食い込む事すらなく白い竜鱗りゅうりんに阻まれている。いや、断じてそれだけではないだろう。

 この刀を振りぬいた時の感触。その感触に俺は思わず顔をしかめた。

「この感触、無限大の質量しつりょうか?」

「ああ、それで正解せいかいだ」

 俺の言葉セリフに、アインは笑みを浮かべたままこたえた。だが、

「だけど、どういう事だ?それほどの質量しつりょうがあれば、無限大の質量によりブラックホール級の極大重力が発生はっせいする筈だ。何故、重力場じゅうりょくばが発生しない?」

「俺は宇宙の創造主そうぞうしゅだぞ?その程度の理など、自由にき換えられるさ」

「っ‼」

 つまり、そういう事らしい。今のアインは無限大の質量を保有ほゆうしている。しかしそれが原因げんいんで極大の重力場が発生する事はない。何故なぜなら、アインこそが法則であり理の中心だからだ。

 アインこそが、すべて。全ての法則も、理屈も、道理も、概念がいねんも、世界の全てはアインを中心にしている。それ等がアインをしばる事は、絶対にありえない。即ち、法則がアインを縛るのではなく、アインに法則がしたがうのだろう。

 まるで、アインを縛ろうとする法則の方こそが愚鈍ぐどんであるとでも言わんばかりの恐ろしい事実だった。

 全てのほうは、アインに従属じゅうぞくしている。アインこそが絶対の法なのだろう。

 故に、

「故に、こんな事だって可能かのうだ」

「っ、な!?」

 一つ一つが宇宙規模の極大サイズの巨人きょじんの群れが突然出現した。

 いや、これは……

神話しんわの再現。っ、まさか‼」

「そう、お前だって知っている筈だろう?あのむすめが、白川ユキが得意とくいとしていたものもまさしくこれだからな」

 そう、アインは神話の巨神きょしんをこの根源世界に召喚しょうかんしたのだ。それも、ユキの得意とした召喚法を真似まねるようにして。

 恐らくは、ギリシャ神話のギガースの再現なのだろう。一体一体が、神々かみがみに等しいかそれ以上の力を有している。しかも、これはただユキの召喚法しょうかんほうを真似るだけでは無いのだろう。

 アインはただ神話の世界からギガースの群れを召喚するだけではない。自己流に神話をアレンジして改竄かいざんする事で、その力を底上げしている。

 その一体一体が、まさしく宇宙規模の力を保有ほゆうする。まさしく規格外の怪物モンスターの群れが其処にはあった。

 さしずめ、宇宙巨神うちゅうきょしんとでも呼ぶべき怪物のれだろう。

「くっ」

 巨神の群れが、俺に向かってこぶしを振るってくる。その拳が、根源こんげんの世界を大きく揺るがし今にも砕けかねない衝撃しょうげきを生んでいる。

 だが、それでも俺はただやられるばかりでは断じてない。流石さすがにこのままではいけないので俺も切り札をそろそろらせて貰う。

 巨神の群れへ、俺はおもむろにさけんだ。

「巨神達よ、神話に息吹いぶく巨神の群れよ、俺に力をしてくれ‼」

「何だと?」

 巨神の群れは、おもむろに振り上げる拳を止め、そのまま頷きアインへ反旗はんきをひるがえした。それは、まさしく暴政を敷くおうに対する反逆はんぎゃくのようだった。

 そして、巨神達は俺をまもるように立ち、そのままアインへ拳を振り下ろした。

 巨神達による拳の大嵐たいらん。それはまさしく、極大の災禍さいかだった。

 だが、それでもアインにはとどかない……

 アインはおもむろに、指をつうっと横にすべらせる。すると、巨神達の全てが上半身と下半身に分断されて切断せつだんされた。アインにとって、恐らく巨神がたばになったところで大した労力ろうりょくにもならないのだろう。

 だが、

「今のは、どうやら精神支配じゃないな?一体どうやったんだ?」

「さてな、だが俺の方もどうやら異能を上手くあつかえるようになってきたようだ。そろそろ本気ほんきで行くぞ?」

「何だって?」

 そう、俺は今まで自身の異能を上手く扱えていなかった。というのも、今まで自分の異能というものを完全かんぜんに把握出来ていた訳ではないからだ。

 だが、それでもこの戦いで完全に把握する事が出来た。

 そして、それにより俺は100%上手く異能を扱えるようになった。

 そうだ、俺の異能は他者とのきずなの証だ。それ故に、他者とのつながりこそが総じて俺の力になる。皆と繋がり、皆を束ねて、皆に力をあたえ、皆から力をりる。そしてそれこそが俺自身の力となる。

 故に、

「行こう、俺達……」

 俺の言葉とともに、根源の世界に無数の少年少女があらわれる。それは、俺と全く同一でありながら俺とは違う可能性かのうせいを辿った別個体たちだ。

 科学者としてのみちを辿った俺が居る。自衛隊として活躍かつやくした俺が居る。警察官となった俺も居る。ただ只管武術をきわめた俺も居る。オカルトを研究した結果、その再現をしてしまった俺も居た。

 中には、そもそも性別せいべつすら違う俺だって居た。文字通り、多種多様な可能性の俺が其処には存在していた。

 そんな俺達を見て、アインは流石に頬をきつらせた。

「自身の可能性すら仲間なかまに引き入れるか。面白おもしろ……っ!?」

すきあり、だよ!」

 忍装束を身にまとった、少女の姿をした俺。彼女がまるでアインの隙をい潜るように懐に潜り込んだ。そして、そのままアインのむねをクナイで切り掛かる。

 それは、深々とアインの胸にクナイの傷をきざんだ。

 それは、本来ありえない光景こうけいだった。アインの身体からだは無限大の質量を僅か人間大のサイズに内包ないほうしている。そして、アインの身体は一つの純粋概念そのものだ。それ故にアインの身体に傷を付けるなど、文字通り不可能ふかのうに近い。

 だが、その身体を忍姿の少女はきずを付けて見せた。つまり、それはその攻撃が並大抵の攻撃でない何よりの証明だろう。

 そして、異常なのは彼女だけではない。他の俺達も十分に異常と呼べるだけの破格の才能を有しているのだから。

「なるほど?アインの身体を守っているのはの概念だな?奴自身が無の概念そのものであり、そして全てのはじまりでもある。云わば、全てが自己完結じこかんけつしている究極生命体とでも呼ぶべき存在そんざいなのだろう」

 そう、解析結果をつらつらとかたっているのは白衣をた科学者姿の俺だ。彼は俺の可能性の中でも、最も解析能力にひいでている。

 文字通り、ほんの一瞬でアインを保護ほごする概念の正体を理解りかいするのは造作もない事なのだろう。

 そして、もちろんそれだけではない。

「なら、今度は俺のばんだな」

 そう言って、前へ進み出たのは黒いローブを身に纏った魔術師風の俺だ。懐から一つの宝石を取り出して、何やら不可思議な言葉じゅもんを呟いている。

 その宝石には、何か魔法陣のような紋様もんようが刻まれていた。

 瞬間、天から飛来するひかりの群れにアインは一瞬でつらぬかれる。それは、まさしく現代ではすたれてしまったオカルト技術そのものだろう。

 そして、そのオカルト技術が。つまりは魔術まじゅつがアインを見事貫いて見せている。

 アインの身体をまもる純粋概念を、その魔術が貫通かんつうした証拠だろう。

 魔術まじゅつとは、即ち古代こだいにおける科学技術や天文学、医学や薬学などの技術学問の代替品だったという。それを研究けんきゅうしていた彼は、魔術などのオカルトを最先端の技術で再現する事に成功せいこうしていた。

 彼は、云わば魔術師まじゅつしという名の最先端学問のなのだ。

「ぐっ、なるほど?面白おもしろい。だが、少し調子ちょうしに乗り過ぎていないか?」

 言って、アインは人差し指を俺達に向けてした。その瞬間、アインの指先に光が収束していき、やがてその光が臨界りんかいに達した。

 直後、巻き起こる暴虐ぼうぎゃく。それは恐らく、ゲオルギウスのゆうするドラゴンブレスのようなものだったのだろう。だが、その威力いりょくは間違いなくゲオルギウスのそれを遥かに上回うわまわっている。

 文字通り、桁違けたちがいだ。

 光が終息しゅうそくした後、根源こんげんの空間には所々罅割れのようなものが見えている。それは空間次元そのものの亀裂きれつだった。

 そして、その場にのこっていたのはアインと俺の二人のみだった。俺一人を守って他の可能性達は消えたようだ。

「……ようやく、俺とお前の一対一だな」

「ああ、そうだな。だが、俺にはみんなが付いている。俺は決して一人じゃないぞ?」

「……ああ、そうだろうな」

 そう言って、アインと俺の最終ラウンドは開幕かいまくした。

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