6,明日を担う若者たち

 しばらくはなし込んだ俺達(ほとんど話していたのはヤスミチさんだが)。気付けば時刻は既に昼の13:00近くだった。ヤスミチさんはまだしゃべっている。

 というか、ユキへの説教が延々えんえんと続いている。そろそろヤスミチさんに声を掛ける事にしよう。

「えっと?ヤスミチさん、そろそろ13:00なんですけど?」

「ん?おお、もうそんな時間じかんか!」

 はははとわらうヤスミチさん。しかし、俺達からすれば笑いごとではない。特にユキにとっては以前の単独行動に対する説教がのこっていたらしい。しっかりときつめの説教を受けてしまった。

 ぐったりするユキをかかえ、俺は彼女に肩を貸しながら起こす。うん、かなり精神的にキているらしくその瞳はうつろで生気が感じられない。あの説教、かなりキツかったからなあ……

 しみじみとそう思う俺。だが、当の本人であるユキはそれどころではないらしい。

 虚ろな瞳で、何事かぶつぶつとつぶいていた。そろそろ精神的にヤバイかな?

 少しだけ、こわい。

 仕方がない。少し力づくだけど現実に引きもどすとしよう。ユキの額に片手の指を構えて力をめ……

「えいや♪」

「がふっ⁉な、何をするのっ‼」

「ん?勿論もちろんデコピンだけど?」

 それが何か?とでも言わんばかりの表情で返す。じとっとした瞳で俺をにらんでくるユキに、俺はニコリと笑顔えがおを向ける。そんな目で睨んでも別段怖くなんかないぞ?と意思表示をしめす。

 そんな俺に、ユキはあきれた視線を向けてきた。どうやら諦めたらしい。

「はぁっ……まあ良いや。もう説教も終わったみたいだしね……説教、コワイ」

「まあいじゃないか?それより、俺を案内あんないしてくれないか?流石に昔とは色々と地形とかも変わってるだろうし、まよわない自信がないから」

「うん、そうだね。それもそうか……」

 そう言って、ユキはようやく笑った。その笑顔は花がほころぶようなはかない笑みだ。

 けど、その笑みは俺を何より勇気ゆうきづけてくれる素敵な笑顔だった。気付けば、俺の顔にも自然と笑みが浮かんでいる。きっと、これがユキの魅力みりょくなんだろうと。俺はそう感じた。

「……ふむ、なるほど?」

 そんな俺達をヤスミチさんは意味深な目で見ていた。その視線が少しだけ気になったけど、今は気にしない事にした。

 そうして俺は外へ出てきた。外はやはり廃墟はいきょが広がっている。廃墟の中にちらほらとプレハブ式の建物がち並んでいるのが見えた。俺達が出てきたのもその一つだ。

 ピッケルやシャベルを使い、地面をり起こす者。畑をたがやす者。古びた遺物を虫眼鏡で観察する者。何か、機械きかいを組み上げている者。様々な人達が居る。

 地面を掘り起こしているのは恐らく、前文明の遺物いぶつを掘り起こす作業だろう。機械を組み上げている人は、もしかしなくても技術者ぎじゅつしゃかな。色んな人達が働いている。

 きっと、皆生きるのに必死なのだろう。生きる為、必死に働いている。

 俺達が出てきたプレハブ小屋のすぐそば、其処に一人の少年が俺達を見ている。少しだけむすっとした中学生くらいの少年だ。

 くたびれたよれよれの白衣はくいを着た、学者のような雰囲気の少年。彼の隣には人形のような人間離れした美貌びぼうの少女が控えている。いや……

 本当に彼女は人間じゃないのだろう。所々、肌にぎ目のようなモノが見える。

「よお、ようやく目がめたか?ニーサン」

「はあ、そういう君は誰だ?」

「この子は神薙かんなぎツルギ君。天才技術者だよ。そしてこっちがマキナ、ツルギ君の作った有機アンドロイドでクロノ君を診察しんさつしたのは彼女だね。CTスキャンとかエコーとかその辺の技術だって」

 代わりにユキが二人を紹介した。少年はむすっとした表情で頭をげる。マキナも優雅ゆうがに一礼をしてきた。どうやら彼女はロボットらしい。そして、少年がその開発者との事だ。

 俺はじっとマキナを見る。その視線に、わずかにマキナはたじろいだ。妙に人間臭い素振りだった。

「……何だよ?俺のマキナがどうした?」

「いや、本当によく出来できているなと……」

 俺は素直に感想を述べた。うん、本当によく出来ている。確かにこれだけ出来れば天才てんさいだろう。

 文明が崩壊ほうかいした世界でよくこれだけレベルの高い有機アンドロイドを作る事が出来たなと、そう俺は割と本気ほんきで感心した。それに気付いたのか、ツルギは少しだけほこらしげになる。

 僅かに苦笑したユキは俺に補足説明を入れた。

「この時代でも、遺跡などから文明の残骸ざんがいとかの発掘をしたりしてるんだ。それを組み上げてツルギ君はマキナを開発かいはつしたらしいよ」

「へえ?でも、それ程の高性能アンドロイドを開発出来るだけすごいと思うけど?」

「そうだね。確かに私もそう思うよ」

「はっはっはっ!何だ何だ、お前ら分かっているじゃないか!そうだよ、俺はかなり凄いんだ‼」

「はい、マスターは凄いです。素晴らしいです。マスター最高さいこう

 何処どこから取り出したのか、マキナは小さなおもちゃのラッパを取り出して主を褒めちぎる。口を付けない手でにぎる風船状のアレ、サイクルワーラーのラッパか。

 褒められて鼻高々はなたかだかなツルギとそれを褒め立てるマキナ。うん、少しだけこの二人の関係性が見えてきたような気がする。俺は少しだけ笑みをこぼした。

 中々この二人は面白おもしろい。そう俺は感じたから。何だかんだ言って、俺はこの二人とは仲良く出来そうな気がした。うん、やはり面白い。

 と、その時……ツルギとマキナの背後はいごからいきなり一組の少年少女が現れた。

 其処にいきなり出現しゅつげんした感じだ。それに、俺は思わず目を見開みひらいた。

「「ばぁっ‼」」

「うおっ、お前等⁉」

「……またですか?お二方とも相変あいかわらずですね」

 それぞれ異なる反応をするツルギとマキナ。マキナの方はれているようでその反応は薄い。

 少年と少女は双子ふたごかと思うくらいにそっくりな顔立ちをしていた。しかし、体格から男女を見分ける事は割と簡単に出来る。どうやら二人は姉弟きょうだいらしい。

 それと、姉の方は白髪で弟は黒髪だ。恐らく、歳の頃は俺と大してわらないだろうと思われる。

 そんな二人を、苦笑しながら紹介しょうかいするユキ。

「この二人は神野エリカさんと神野アキト君。二人は少しだけ悪戯好いたずらずきだから気を付けてね?」

「いやはや、相変わらずユキさんは美しいね。まあ、姉さんの足元にもおよばないけどな」

「いやいや、アキト君もかなりのイケメンだよ?私、今夜も一緒にたいんだけどどうかな?」

「今夜も寝かさないぜ?」

「いやん♪アキト君かっこいい~」

「「ははははは‼」」

「……それと、二人とも少し。いや、かなり度のぎたブラコンとシスコンだから気を付けてね?」

 ……なるほどね?俺は苦笑しながらそれを見ていた。まあ、恐らく実害じつがいが無ければ面白くはあるんだろうとおもう事にする。そう、思う事にしたんだが。

 うん、けど流石に人前でき締め合い愛をささやき合うのは勘弁してほしい。どうもこればかりは目にどくだと思う。ツルギ君なんか目に見えてイライラしているぞ?

 ほら、ツルギ君の眉間にしわがどんどんと……

「お二方?そろそろ人前でいちゃつくのはめて貰えないか?」

「何だ?嫉妬しっとか?妬いているのか?可愛かわいい奴め」

「何?嫉妬しているの?面白おもしろい人」

 ビキィ、とツルギの額に青筋が走った。うん、今のは流石に擁護ようご出来ない。

 この二人、絶対分かった上であおっているだろう?重度のブラコンとシスコン。それでいてかなりの悪戯好きでもあるという。うん、なるほど納得した。納得させられたとも。

 そして、二人の興味きょうみは俺の方へ向いたらしい。にやりと笑いながら、二人の視線が俺の方に向いてじりじりとにじりってくる。うん、少しばかり嫌な予感がするのは気のせいだろうか?僅かに後ずさる。

 だが、まわり込まれてしまったらしい。気付きづけば背後に二人は居た。がしっと、両脇を抱え込まれる。

「よお、初めましてだな。甲殻バジリスクの件は素直にれいを言うぜ。礼として姉さんの素敵な魅力みりょくについてこれから明日の朝まで語り明かしたいんだが?」

「初めまして。甲殻バジリスクの件はありがとうね?礼としてアキト君の素敵な魅力をこれから明日の朝まで語り尽くしたいんだけどどうかな?」

「……いえ、結構です。というかもう勘弁かんべんしてくださいお願いします」

 俺は、自分の口の端が引きるのを感じた。流石にこれはおもい。重すぎる。

 胃がもたれるようなそんな重ったるい気分を、俺は味わった。何だこれは?嫌がらせか何かか?

 しかし、そんな俺の気も知らず。いや、知っていてなお悪戯好きな二人は俺の両腕を抱え上げて引きっていった。

「「はははっ!遠慮えんりょするな、一緒に一晩語り明かそうぜ‼」」

「………………………………」

 引き摺られ、そのまま連行れんこうされていく俺。そんな無様な俺を合掌がっしょうしながら見送るツルギとマキナとユキ。

 俺の心の中でドナドナがながれた。俺の目が、死んでゆくのが理解出来た。

 ……その後、延々と二人のノロケ話をエンドレスで聞く羽目はめになった。

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