第6話
爽やかに笑う生徒会長を見て、俺は目を見開く。
神屋敷先輩にも驚いたが、まさか生徒会長までも現れるとは思っていなかった。
「さて、立ち話もなんだ。そこに座ってくれ」
「は、はぁ……」
促されるままに革張りのソファに座ると、俺の横にマモンが不遜な態度で座ったまま浮かぶ。
生徒会長はその態度に驚くも、すぐに微笑みながら俺たちと対面する形で座った。やっぱり生徒会長にもマモンは見えてるのか……。
「あ、あの……ここは何なんですか? そもそもどうして俺はここに……」
「そう慌てないで。ちゃんと説明してあげるからさ。麗華、お茶を」
「分かりました」
神屋敷先輩はお茶を用意すると、俺とマモン、そして生徒会長の前に並べた。
お茶を口にし、一息ついたところで改めて生徒会長が口を開く。
「知ってると思うけど、一応自己紹介からしようか。私は炎ノ宮雅。君も通う【幻朧学園】の生徒会長をしている。そしてここまで案内してくれたのは、生徒会副会長の神屋敷麗華だ」
「……」
生徒会長の後ろに控えていた神屋敷先輩は、静かに頭を下げた。
「それでこの場所だが……ここは幻想対策部の第五支部だ」
「げ、幻想対策部?」
初耳の言葉に首を捻ると、生徒会長は教えてくれる。
「まあ普通に生活していれば、まず耳にする機会はないだろうね。なんせ私たちは、悪魔や神といった幻想種に対しての活動が主だ。幻想種と交渉や契約、または封印や討伐などを行っている。当然世間には秘密裏にね」
「はぁ……」
いわゆる秘密組織ってヤツなんだろうか?
幻想種の存在にも驚いたが、今までそんな存在を見たことがなかったのは、その幻想対策部とやらが何かしていたからなのだろう。
「君を襲った相手は、幻想種とその契約者だったわけだ。我々も君をマークしていたが、まさか他にも狙う勢力がいるとは思わなくてね。結界を張られた時は焦ったよ」
「ま、待ってください! マークしてたってどういうことですか?」
聞き捨てならない言葉に驚く中、生徒会長は真剣な表情を浮かべる。
「不本意かもしれないが、君が封印された強欲の魔王を所持していることが分かったからね。監視とまではいかないが、流石に野放しにはできないんだよ」
「俺が強欲の魔王を持っていることを知っていた……? 俺でさえ今日初めて知ったのに……」
「魔王の動向は幻想対策部の中でも最重要事項として取り扱っているからね。一時はその行方を見失ったが、数年前に見つかったんだ」
驚きの連続で早くも脳みそがパンクしそうだったが、あることに気づく。
「それじゃあ……どうして今頃接触してきたんですか? 俺が封印されていたコイツを持ってるって知ってたなら、早い段階で接触すればよかったんじゃ……」
そうすれば、マモンと契約する必要もなかったし、何よりこんな目に遭わなかったはずだ。当然対価は貰うが、回収しに来ていたのなら、大人しくコインを渡していただろう。
だが、生徒会長は静かに首を振った。
「まず最初に、君が知らないだけで、すでに強欲の魔王との契約は済んでいたんだ。ただ、覚醒するキッカケがなかっただけだよ」
「え!?」
「それと、魔王の存在が再度検知されただけで、正確な所在は分からなかったんだ。その際、魔王の所有者の候補に君が挙がったが……他にも候補はいたんだよ。今だから分かるが、君の持っていたコインには強力な認識阻害の魔法がかけられていた。とはいえ、その魔法も時間経過とともに弱まり、ようやく魔王の正確な位置を感知することができたわけだ。まあその魔法のせいで、君が所有者だと絞り込むのに時間がかかったわけだが」
「……」
まさかあの古びたコインに、そんな仕掛けまでされているとは思いもしなかった。
「でも、魔王の所有者であることを我々より先に敵に見つかってしまった。それが、今回の事件だ」
「敵って……何なんですか?」
「――――【暴食の魔王】ベルゼブブが率いる、【饗宴】だよ」
『あやつか……』
今まで黙って話を聞いていたマモンは、生徒会長の言葉を聞いて眉をひそめた。
「暴食の魔王……」
「そうだ。君を襲った男は【饗宴】のメンバーであり、豚男の契約者さ」
『なるほどな。言われてみれば、あの豚男は蠅野郎の眷属だったな』
「蠅野郎?」
「ベルゼブブのことだろうね。ともかく、マモンの気配を感知した【饗宴】に目を付けられ、君は襲われたわけだ。すぐに救助しようとしたが、結界が強力で中々突破できなかった。すると、いきなり結界が消し飛んで、中から満身創痍の君が出てきたってわけさ。一体結界内で何があったんだい?」
「消し飛んだ? そう言えば、気を失う前にマモンが何かしてたような……?」
マモンに視線を向けると、マモンは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
『フン。アレのせいで我輩は肉体を維持できなくなったのだ!』
「何をしたか、教えてくれるつもりは?」
生徒会長がそう訊くと、マモンは見下すように笑った。
『あるわけなかろう。何故我輩がそんなことをせねばならん? 自身の手札をおいそれと明かすほど馬鹿ではない』
確かに、今のところ友好的な態度で接してくれているが、まだ生徒会長たちが味方かどうかも分からないのだ。
運悪く【饗宴】とやらに先に見つかって襲われたわけだが、もしかしたらこの幻想対策部が先に俺とマモンの関係を見つけても襲い掛かって来たかもしれない。
すると、生徒会長も本気で訊いたわけではないようで、軽く肩をすくめた。
「ともかく、結界から出てきた君たちを回収して、ここまで連れてきたというわけさ。どうだい? 簡単にだけど、納得したかな?」
「た、多少は……」
謎の男はどうなったのかとか、まだ色々気になることはあるが、どうして俺がこの場所にいるのかは理解した。
「それはよかった! それで、こうして君を呼び寄せたわけだが……」
生徒会長はそう言いながら、真っすぐ俺を見つめると――――。
「――――幻想対策部に入る気はないかい?」
――――そう、告げた。
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