シイナの気持ち

 いつもより、静かな帰り道。

 普段と変わらないはずなのに、私たちは何も話さなかった。


 何だか息苦しくて、防波堤に手を突いて、ため息を吐く。


 すると、気を遣ったシイナが声をかけてきた。


「ユズキちゃんは、モテるね」

「そう、なのかなぁ」

「男子から、続けて告白されるなんて」

「……私、恋愛とか、疎いから」


 一緒に並んで、海を眺める。


「ずっと、このままいれたらいいのに」

「……そうね」

「ずっと。ずっと、高校生のまま、二人で過ごしたい」


 無理な願いだけど。

 気持ちはわかる。


 私はずっと子供でいたいんだと思う。

 たぶん、シイナもそうなんじゃないか、って勝手に思ってる。


「あちひ、ユズキちゃんが、……いい」


 言葉の意味が分からず、振り向く。

 シイナは恥ずかしそうに俯いていた。

 でも、頑張って顔を上げ、真っ直ぐに見つめてくる。


「ゆ、ユズキちゃんと、一緒にいたい」

「シイナ?」


 ――シイナが突然抱き着いてきた。


 誰かがくるかもしれないのに。

 通学路の途中で、口を重ねる。


 一瞬だった。


 離れたシイナは、「さ、先に行く」と言って、その場を去ってしまった。


 残された私は、ただでさえキスで悶々としているのに、さらに頭が混乱していく。


 きっと、この感情は誰でも味わえないものだ。

 シイナの後姿を見て、そんな事を思った。

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