第13話 いつのまにか「お兄ちゃん」なっていた(1)

運命は当てられない。

人々は永遠に一つ一つの運命と出会い続けるしかないが、次に迎えるのが厄なのか幸せなのかは分からない。

例えば、目の前に現れたこの少女……。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

少女は俺が見守る中、足早に歩いてきた。驚愕して彼女をにらんで、無意識に何歩か退いた。

その結果、足は路面の穴の中に足を踏み入れて、何度も地面に落ちた。

街の近くの人はみんなこっちを見てきた。

「大丈夫か、お兄ちゃん?」

少女は足を速め、黒いポニーテールも動きに合わせて躍動した。彼女は俺が反応するのを待っていないうちに、そばにしゃがんでいた。


「いたい……」

ぶつかられて痛い頭を揉みながら、目を開けて、この少女を見つめ始めた。

俺と大差ない服装をしていた。長い間家を出ていなかったせいか、さっき彼女の足取りが少し不安定だと分かった。驚いたことに、少女の顔には、まだいくつかの涙の跡がかかっているようだった。彼女の額には細かい汗がびっしり詰まっている。俺という「お兄ちゃん」を見つけるために、こんなに疲れてしまったのかもしれまてある。

その時、彼女は顔をじっと見つめていて、大きな目に心配と思いやりが含まれていた。


——輪郭全体が夕日に映えて、ますます美しく見えた。

ゆっくりと立ち上がったが、彼女から目が離せなかった。

「すみません、妹がいた……覚えはありません」

ためらって言った。彼女のそばから離れたい。

事は予想外だった。彼女は驚いて目を見開いたが、涙がまた目にあふれた。彼女は何も言わず、一歩横になって、俺に飛びかかった。

その瞬間、腹部に非常に柔らかい感覚を感じたようで、それは頭の中に彼女を抱きしめたい衝動を急速に生じさせた。

しかし、理性に抑えられて、この衝動はまた消えてしまった。

「もう……もうお兄ちゃんをそばから離さない!」

少女は俺をもっときつく抱いてくれた。胸に何か温かいものがあり、服に浸かっているのを感じた。


——少女の涙だ。


手は思わず彼女の頭を撫でた。心の奥底には、温かいものがめくるめくようなものがある。ひょんなことから現れた少女に、妙な親近感を覚えた。

少女は、俺になでられて、次第に泣き止んだ。彼女は顔を上げて俺を見ていたが、目にはまだ涙が光っていた。

「記憶を失ったのかもしれない」と彼女の肩に両手をかけ、慰めようとした。

「でも、私があなたの兄である、ことを証明する方法はありますか」


「ある!」

少女は両手で涙を拭いていたが、体は俺にこんなに近くにいた。それを聞いて、すぐに手の動きを止め、腰に結んだ小さなバッグの中で、何かを探していた。

「どうぞ」

彼女はかばんの中のものを渡した。

「うん……」

銀色の金属光沢、よく知られた刻み、これは私の生命石とほぼ同じ石だ。

その人の口から吐き出された冷たい言葉をふと思い出した。

「あなたはウィブラス家の出身である……」

「ウィブラス家……。」

心の中でこの言葉の意味をよく推測して、思わず口の中でつぶやいた。

少女はこの言葉を聞いて、急に興奮した。俺から生命石を回収し、そして大きな目をぱちぱちさせ、細い手で俺の手を握った。

「私たちの家族の名前を覚えているね、お兄さん!」

彼女はまた俺の胸に顔を優しく貼り付けた。

「よかった……私のことを覚えているか?お兄ちゃんの妹、ユトニ・ウィブラスだよ。覚えているか?」

「そうか……」

口ごもって、どう答えたらいいか分かりない。

しかし少女の涙を思い出した。その涙の背後には、何時間も走り回って探していたのかもしれないし、一人で生まれた痛みや悲しみかもしれないし、家族に会った後の意外さや驚きかもしれないし、認められない悲しみやしようがないかもしれない……。


俺は決心した——

「もちろん覚えているよ」

妹をしっかり抱いて、微笑んで彼女に言いた。

「俺はいくら記憶が悪くても、ユトニを忘れないよ!」


「お兄ちゃん……」

――二度と俺を大切にしてくれる人に、涙は流させない!

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