第10話 妖怪運動会。

 私は、体育祭の後片付けをして、みんなは、優勝祝いにカラオケに行くというけど、私は、用事があるといって断りました。まさか、この後、妖怪運動会に出るからとはいえません。

 優勝の熱も冷めやらないウチに、私は、急いで横丁に帰りました。

私にとっては、次も本番なのです。

「あっ、帰ってきたニャン」

「ロク美様、お待ちしておりました」

 横丁の鳥居の前で、バケニャンとウィスバーが待っていました。

私は、それ以外にも、ビックリして鳥居を見上げていました。

「これ、なに?」 

私は、赤い鳥居を見上げて、指を上に刺しました。

 そこには、大壇幕で『祝・復活、妖怪運動会。ロク美、優勝おめでとう記念』と、書いてありました。

さらに、ピカピカ光るライトが光っています。

「ロク美ちゃん、カッコよかったニャン」

「そうじゃなくて……」

「まぁまぁ、いいからいいから。みんな待っているので、会場の方へどうぞ」

「ちょっと待ってよ。着替えてからにして」

 私は、二人を振り切って、アパートに走りました。

「冗談じゃないわよ。恥ずかしいじゃない。まったく、もう……」

 そう言いながらアパートに着いて、部屋に入りました。

「ただいま」

「お帰り、ロク美ちゃん」

「ロク美、早く支度しろ」

 部屋に入って、私は、唖然としました。

お母さんとお父さんは、ジャージ姿で、準備運動していました。

いったい、何してるの?

「早く着替えてらっしゃい」

「いや、あのさ……」

「みんなロク美が来るのを待ってるんだから、早く着替えてきなさい」

 お父さんに急かされて、私は、部屋に行って、制服から体操服に着替えました。ちょっと休憩したかったのに、それも出来ないらしい。

 着替えろといわれても、さっきの体育祭のときと同じで、紺の短パンに白い上着の胸に2-B鷹野と、書いてあります。

私が着替えると、私たちは、アパートを出て、会場に向かいました。

 会場は、森の奥にある広場です。木や草を掻き分けて会場に行くと、そこには、すでに数え切れないほどの妖怪たちが集まっていました。

火が灯って、夜なのに昼間みたいに明るい。

 私たちは、会場に歩いて行くと、あちこちに夜店のようなものがあって、とても賑やかです。しかも、いいニオイがしてきます。

見ると、イタチ男がとうもろこしを焼いていました。

「いらっしゃい、いらっしゃい。おいしいとうもろこしだよ。おっ、ロク美、一本どうよ。安くしとくぜ」

 いきなり声をかけられました。おいしそうだけど、イタチ男からは買いたくない。他にも、小豆あらいのおじさんの大福のお店があったり、とうふ小僧の湯豆腐の露店、他にもいろいろあってまるで、お祭りです。

運動会とは思えない盛り上がりでした。

 でも、やっぱり、妖怪だけに、見たことない食べ物のお店もありました。

トカゲの丸焼きや怪しげなニオイのするおでんみたいなもの、ふわふわ浮いてる魂みたいな綿菓子、それをおいしそうに食べている妖怪たちをみると、私は、微妙についていけません。

 そんな賑わいを見ながら、横丁のみんなの元に着きました。

「待ってたぞ」

「みんな、ロク美が来たぞ」

「ロク美ちゃん、がんばってよ」

 みんなから声をかけられました。そんなに期待されても、私は、昼間に運動会してきたしもう走れないんだけど……

 そんなことを思いながら席に座って、回りを見てみると、西洋妖怪の団体と南方妖怪チームが見えました。

それも、見たことない妖怪ばかりで、いったい、ここにどれだけの妖怪が集まっているんだろうと思いました。

 みんな、それぞれやる気満々の様子で、始まるのを今か今かと待っています。

そこに、大天狗様がやってきました。

「それでは、これより、妖怪運動会を開始する。参加妖怪たちは、整列しろ」

 ものすごく大きな天狗の妖怪で、この世界では、もっとも権威がある妖怪です。真っ赤な顔に、大きな鼻。山伏のような姿で、背中に羽があり、手には団扇のような葉っぱを持っていました。

 号令に従って、私たちは、それぞれ整列します。

その中から、前回優勝チームの南方妖怪の代表として、アカマタさんが前に出ると選手宣誓をしました。

「我々妖怪は、正々堂々、勝負することを誓います」

 それを聞くと、妖怪たちは、大きな拍手が起きました。

「よいか、妖怪ども。150年ぶりの妖怪運動会は、ただ、勝ち負けだけではない。互いに友情を確かめ合い、思い出になるような、楽しい大会にすることを忘れるでないぞ」

「おおぉ!」

 妖怪たちから一斉に声が上がりました。

なんだか、楽しくなってきた。ワクワクしてきました。

なんか、体育祭より楽しそうじゃないか。

 私たちは、一度、自分たちの席に戻ります。すると、砂かけのおばあちゃんが話しかけてきました。

「ほれ、今夜のプログラムじゃ。お前さんが出るのは、印が付いてるから、しっかり頼むぞ」

 渡されたものを見ると、ほとんど赤い丸が付いている。こんなに出るの??

「ロク美は、若いんだから、まだまだ元気があるじゃろ。今回は、絶対に、わしらが勝ちたいんでな。頼りにしてるぞ」

 そんなこと言われても…… 私は、力が抜けていくようでした。

「どうした、ロク美。早速、出番だぞ」

 お父さんに肩を叩かれました。いきなり、綱引きでした。

これなら、団体競技だし、少しは楽が出来そうだ。

しかも、ウチには、ぬりかべさんという、強い力持ちがいるので、勝てそうです。

 ところが、相手チームには、フランケンくんのお父さんがいました。

これは、いい勝負です。それどころか、もしかしたら、負けるかもしれません。私も手が抜けません。

 私たちは、綱の中央を境に向かい合いました。その前に、この綱、太過ぎないか??

両手で握っても握れない。ものすごく太くて、こんなのどうやって握るの?

握れないんじゃ、力が出ないじゃん。それに、長すぎる。

いったい、何人で引き合うんだろう……

 そんなことを考えていたら、大天狗様の合図で、綱引きが始まりました。

いきなり、引っ張られて、私は、引きずられました。

「ちょっと、待って、待って……」

 私が大声を上げても、前と後ろからはさまれて、どうすることも出来ません。

「押さないでよ!」

「ロク美、大丈夫か?」

 お父さんの声が聞こえました。でも、返事が出来ません。

何がなんだかわからないうちに、勝負が決まりました。

「やったぞぉ!」

 どうやら、西洋妖怪チームが勝ったらしいです。

悔しがる、横丁チームたちでした。でも、私は、息も絶え絶えです。

もう、死ぬかと思った…… これが、感想でした。

 ハァハァ言いながら引き上げてくると、花子さんに言われました。

「何してんの? 今度は、南方妖怪チームとやるのよ。戻って、戻って」

「えーっ、また、やるの?」

「ロク美、この程度でへばってたら、最後まで、付いていけないわよ」

 そうなの…… そんなにきついの? 妖怪の運動会って、人間の運動会より大変じゃない。結局、次の綱引きにも参加しました。今度は、はさまれないように、一番前にいきました。

目の前には、腰に布を巻いただけの全身青い妖怪がこっちを見て笑っていました。

 なんか、すごく嫌な予感がします。大天狗様の合図で、二回戦が始まりました。

「引け、引けぇ」

「負けるな、もっと引くんだ」

「ガンバレーっ!!」

「負けるな!」

 声援が飛び交いました。ぬりかべさんのおかげて、横丁チームが優勢でした。

私も、弱いながらもがんばりました。ところが、もう少しで勝てると思ったときでした。目の前の南方妖怪チームの一番前にいる、青い妖怪が歯を食いしばって、お腹に力を入れた瞬間でした。腰に巻いて布がハラっと落ちました。

「イヤァーっ!」

 私は、思わず両手で目を覆って、しゃがみこみました。

私の目の前には、決して、見てはいけない、男性の下半身のアレが、目に飛び込んできたのです。

 それでも、横丁チームが、綱を引くと、南方妖怪チームが前に引きずられて、しゃがんだ私に迫ってきました。

「ロク美、逃げろ!」

 ウサちゃんの声に、ハッとして、顔を上げると、青い妖怪の丸出しの下半身が顔面に当たりました。

「イヤァ~……」

 私は、そのまま気絶しました。もう、ダメかも。もう、お嫁に行けない……

「ロク美ちゃん、しっかりして」

「ロク美、目を開けなさい」

 私は、肩を揺さぶられて目を開けると、お母さんとお父さんがいました。

「お母さ~ん」

 私は、思わずお母さんに抱きつきました。

「ハイハイ、もう、大丈夫よ。もう、泣かないの」

「だって、なんか、ヘンなものが……」

「ほらほら、しっかりしなさい」

 お母さんは、優しく頭を撫でて、肩を抱いてくれました。

何とか泣き止んで、涙を拭って、落ち着きました。

それでも、まだ、心臓がドキドキしています。

 結局、綱引きは、横丁チームが勝ったけど、私は、素直に喜べませんでした。

そこに、アカマタがやってきました。

「ロク美、すまなかった。あいつには、ガツンと言ったから。悪かったな」

 そういわれると、私も何も言えず、頭を下げました。

それにしても、まったく、妖怪って言うのは、ホントに何を考えているのかわからない。私も言える立場じゃないけど、男と女は、違うってことくらい、わかって欲しい。

 その後も、競技は続きました。気を取り直して、次に私が参加したのは、玉入れです。それぞれのチームが出場して、カゴの中に玉を入れるという競技で、昼間の体育祭でもやりました。でも、やはり、妖怪のやることは違いました。

 玉入れは玉入れでも、肝心の玉が、生きているのです。

丸毛と呼ばれる、小さな毛玉のような妖怪が、足元にワラワラ動き回っているのです。それを掴んで、かごに投げ入れるわけです。要するに、まずは、動き回っている、丸毛を捕まえないといけません。

 私は、アチコチ動き回る丸毛を追いかけながら、カゴに投げ入れました。

でも、ちょこまか動くので、なかなか掴まりません。

「もう、動かないでよ」

 思わず文句が出ます。なのに、私をバカにするかのように、丸毛は動き回ります。

「ちょっと待ちなさい」

 私は、丸毛を追い掛け回しました。結局、なかなか捕まえることができず、横丁チームは負けてしまいました。なんだか、疲れるだけの競技でした。


 その後も競技は続き、お母さんは、パン食い競走に出ました。

高くぶら下がった、パンを口だけで齧って、ゴールするという競技です。

でも、ぶら下がるパンが高すぎて、ジャンプしても届きません。

「がんばれぇ、お母さん」

 私も声援を飛ばします。すると、お母さんは、パンの下に来ると、首を長く伸ばして、楽々パンを一口齧ってそのままパンを咥えて、ゴールしました。

「やったーっ!」

 私は、飛び上がって喜びました。お母さんも、喜んでいます。

「ろくろ首、反則により、負け」

 大天狗様が言いました。

「えーっ、なんでよ」

「首を伸ばすのは、反則だ。ろくろ首にしかできないことだろ」

 そんなわけで、お母さんは、負けてしまいました。

席に戻ってくると、長く伸びた首をガックリと膝まで落としてガッカリしています。

「ごめんなさい。つい、伸びちゃったの」

「大丈夫だよ、ロク子さん。キミの分まで、ぼくががんばるから」

 お父さんが優しく抱きしめて慰めていました。

こんなたくさん妖怪が見ている前で、娘として、ちょっと恥ずかしい。

 そんなわけで、今度は、お父さんの借り物競争です。

「がんばって、お父さん」

 今度は、私がお父さんを応援します。首を伸ばしたままのお母さんもお父さんに声をかけていました。

私も、お母さんみたいに、首を伸ばして声を上げました。でも、お母さんの半分も伸びませんでした。

 

 いよいよ今度は、お父さんの出番です。横町のみんなも、応援しています。

お父さんも張り切っていました。

「位置について、よーい、スタート」

 合図と共に走り出しました。

「お父さん、がんばれぇ~」

 私も声を大きく出しで声援しました。

お父さんは、走ると、すぐに机の上にある、封筒を開けました。

少しそれを見ると、私たちのところに走ってきました。

そして、メモを広げて私たちに見せながら、言いました。

「誰か、傘。傘を貸してください」

「えっ? 傘……」

 私は、思わず口にしました。今は、天気もいいし、雨も降ってないので、傘は持ってません。

どうしよう…… 早くしないと、お父さんが負けちゃう。

私も横丁のみんなも、アチコチ探しています。そのときでした。

「おいらは、どうだい?」

 そう言って、前に出てきたのは、傘バケくんでした。

「そうだ、傘バケくんは、傘の妖怪だ」

 私は、傘バケくんを両手で抱き上げて、お父さんに差し出しました。

「お父さん、傘よ」

「ありがとう、ロク美。傘バケくん、頼むよ」

「おぅ、任せとけ」

 お父さんは、大事そうに傘バケくんを抱えて、ゴールに走りました。

他の妖怪たちは、まだ、なにかを探しているので、このまま行けば、お父さんが一着です。

「がんぱって、お父さん」

 私は、大きな声を出して応援します。

「ゴール! 横丁チームの勝ち」

「やったー!」

 横丁のみんなは、大喜びです。お父さんと傘バケくんも、バンザイしていました。

そこに、大天狗様がやってきました。お父さんになにか言っていました。

もしかして、また、反則負け? だって、傘バケくんは、傘でしょ。

 お父さんと傘バケくんが戻ってきました。

「お父さん、どうだったの?」

 私が心配そうに聞くと、笑顔で言いました。

「勝ったぞ。傘バケくんのおかげだ」

「よっしゃー!」

 横丁のみんなが、お父さんと傘バケくんを囲んで、大喜びでした。

「傘バケくん、ありがとう」

「これくらい、どうってことないぜ」

 傘バケくんが照れていました。よし、この調子なら、優勝できるかも。

私は、そう思いました。次の競技は、玉転がしでした。私の出番です。

横丁チームは、下駄履きのお兄ちゃんとウサちゃんと私です。

 スタート地点に行くと、見上げるような大きな玉をみて、やっぱりこれを転がすなんて無理かもと思います。呆然と見上げていると、お兄ちゃんが言いました。

「ちょっと大きいけど、大丈夫だよ。ロク美ちゃん、がんばろう」

「そうよ。それより、玉の下敷きにならないように、気をつけてよ」

 ウサちゃんが元気付けるように言いました。

「うん。がんばる。絶対、勝とうね」

 私は、二人に行って、気合を入れました。

隣を見ると、西洋妖怪チームは、フランケンさんがいました。

「やっぱり、ぬりかべさんのがよかったかな……」

「心配ないよ」

 お兄ちゃんが笑って言いました。

「それでは、これより、大玉転がしを開始します。選手は、位置について」

 私たちは、大玉の後ろにつきます。

「ヨーイ、スタート」

 合図と共に、両手で力一杯、玉を押しました。でも、ビクともしません。

大きな玉は、まったく動きませんでした。

「う~ん……」

 私たちは、両手に力をこめて、押しました。すると、少しずつ、動きました。

「もう少し、がんばって。セ~ノ」

 私たちは、声を合わせて大玉を押します。横丁のみんなからの声援を聞きながら、力をこめました。大きな玉は、少しずつ動き出しました。でも、西洋妖怪チームは、フランケンさんが、軽く玉を動かしています。

南方妖怪チームは、早くも諦めた感じで、玉を押そうともしません。

 でも、私たちは、諦めませんでした。

「もう一度、セ~ノ」

 お兄ちゃんの掛け声に合わせて、大きな玉を押すと、勢いがついて、一気に転がり始めました。

「やった、動いた」

 私は、喜びのあまり、声を出しました。しかし、今度は、玉が勝手に転がりだしました。

「そっちじゃないわよ。待って、待って……」

 私は、大きな玉を追いかけました。このまま行ったら、コースから外れて、観客席に飛び込みます。私は、玉を追いかけて、やっと追いつくと、前にまわって止めようとしました。

「ダメよ、ロク美、危ない」

 ウサちゃんの声を聞いたときは、手遅れでした。

「止まってぇ~」

 次の瞬間、私は、見事に大玉の下敷きになってしまいました。

「ロク美ちゃん!」

 大玉は、私を下敷きにしたことで、止まりました。

「た、助けてぇ~」

 私は、大きな玉の下から、呻き声を上げて、右手を玉と地面の隙間から助けを求めます。

「ロク美!」

 ウサちゃんが、私の手を掴んで引きずり出そうとします。

お兄ちゃんが、大玉を逆に転がして、何とか助かりました。

ウサチゃんに助け出された私の体は、見事にペッチャンコになっていました。

「あらまぁ…… だから、気をつけなさいって言ったのに」

「ごめんなさい」

 ウサちゃんは、紙のようにペラペラになった私の体をヒラヒラさせて言いました。

「それより、私、どうなるの?」

 紙のように薄くなった自分の体を揺らしながら言うと、お兄ちゃんが言いました。

「息を大きく吸い込んで」

 私は、言われるままに、息を吸い込みました。

「もっと、たくさん」

 私は、空気を胸一杯、吸い込みます。すると、一反もめんのように、ペラペラになった体が少しずつ膨らんできました。

「もう少し、がんばって」

 私は、さらに空気を吸い込むと、体が元に戻りました。

「ハァ~、やっと、戻った」

 私は、自分の体を触って、元に戻ったことを感じました。

でも、その頃は、すでに西洋妖怪チームがゴールしていました。

「負けちゃった…… 私のせいで、ごめんなさい」

「大丈夫だよ。ほら、見てごらん」

 お兄ちゃんに言われて、客席を見ると、敵味方関係なく、みんなが大笑いして、手を叩いて喜んでいました。

「いいぞぉ、ロク美」

「ロク美、よくやった」

「ロク美ちゃん、おもしろかったよ」

 負けたのに、みんなに拍手で迎えられました。

それにしても、私の体って…… まさか、のしイカみたいになるとは思いませんでした。その体が、空気を吸うと、元に戻るなんて、やっぱり、私は、妖怪なんだなと実感しました。

 客席に戻ってくると、みんなが暖かく迎えてくれました。

「ロク美、大丈夫か?」

「ロク美ちゃん、無理しちゃダメよ」

 お父さんとお母さんが、心配しながらも、顔は笑っていました。

「えへへ、やっちゃった」

 私は、笑いながら、頭をかきました。それでも、すごく楽しかった。

その後も、競技は続きました。反則あり、笑いあり、敵同士でも、お互いを応援しあって、運動会は、おもしろくて、楽しい雰囲気に包まれました。


 休憩時間には、私たちは、お父さんとお母さんと、露店に向かいました。

そういえば、お腹も空いている。といっても、私が食べられそうなものが余りなさそうです。

 トカゲの丸焼きとか、何が入ってるのかわからないおでんとか、カエルの目玉のスープとか、コウモリのから揚げなんて、とても食べられません。

でも、他の妖怪たちは、おいしそうに食べたり飲んだりしていました。

 結局、無難な小豆あらいのおじさんの大福ととうふ小僧くんの味噌田楽を食べました。

おいしそうだったけど、イタチ男のとうもろこしは、食べませんでした。

 夜店を見ながら歩いていると、知らない妖怪たちから、たくさん話しかけられました。

「ロク美って、お前か? なかなかやるじゃないか」

「アンタが、妖怪人間なの? まぁまぁ、可愛いわね」

「ロク美、俺のとこで、魔法を習う気はないか?」

「おい、待て。お前、いい顔してるな」

 ナンパなのか、スカウトなのか、褒めているのか、よくわからないけど、とにかく、歩いているだけでいろんな妖怪たちから、声をかけられました。

 とにかく賑やかで、ワイワイ言ってて、すれ違う妖怪たちは、見たことないので、つい目がいってしまいます。

特に、私たち家族は、有名らしいので、歩くのも大変でした。

 お母さんは、妖怪の世界では有名人だし、お父さんは、この世界で唯一の人間なので、声をかけられるので、ちっとも前に進みません。その中でも、妖怪と人間のハーフの私は、話しかけられるだけでなく、握手されたり、サインを書いたり、中にはいっしょに写真を撮ったりもします。

「なんか、私たち、すごく有名みたいね」

「そうみたいだね」

 お父さんも少し困った顔をしていました。

お母さんは、アチコチで挨拶してばかりで、大変そうです。

 そんなことをしていると、あっという間に休憩時間も終わり、運動会が再開しました。

第二部ということらしいけど、これはこれで、大盛り上がりです。

 私たちが出場したのは、ムカデ競争です。しかも、家族三人での出場です。

長い下駄に鼻緒が三つ付いていて、それに指を通して、声を合わせて進みます。

一番前が私で、お父さん、お母さんが、肩に腕を乗せてスタートです。

「イチ、ニ、イチ、二……」

 声を合わせて足を前に出します。

「がんばれぇ、ロク美」

「負けるな~」

 回りからの声援を受けて、私たちは、足を踏み出します。

でも、後ろから、南方妖怪チームが迫ってきます。

「どけ、どけぇ」

 振り向くと、顔が体より大きい原色ハデハデの妖怪が見えました。

あんな妖怪に迫られたら、気持ち悪い。私は、大きく足を踏み出します。

「ロク美、しっかりぃ……」

 後ろからどんどん迫ってきます。このままじゃ、抜かれちゃう。

「お父さん、お母さん、スピードアップよ」

 私は、そう言うと、必死に足を出しました。

「おいおい、ロク美、ちょっと早いよ」

「お父さん、がんばって」

 私は、両手を大きく振って、足を出します。

南方妖怪チームがどんどん迫ってきました。もう少し、がんばれ、私。

「ゴール!」

 大天狗様が、声を上げました。

私たちと西洋妖怪チームの接戦でした。

「勝ったの?」

 私が聞くと、お父さんはその場にしゃがみこんでいます。

お母さんも、首をだらしなく足元に落として息が切れていました。

「写真判定を行う」

 大天狗様がそう言うと、文句を言ってる南方妖怪チームに言いました。

少し騒然としていたけど、ひでリン先生と大天狗様が話し合っています。

「首の差で、横丁チームの勝ち」

 大天狗様が言いました。

「やったー」

 私は、大喜びで、ピョンピョン飛び上がります。

横丁のみんなもバンザイしていました。

「くっそぉ、次は、負けないからな」

 南方妖怪チームの顔の大きな妖怪が言いました。

顔は、気持ち悪いけど、いい妖怪みたいで安心しました。

 その後もフォークダンスとは思えない、まるで、盆踊りのように、全員で踊り始めました。

なんだかよくわからないけど、楽しくなった私は、もちろん参加しました。

 騎馬戦では、妖怪ならではみたいな、大乱闘になって、収拾が付きませんでした。大騒ぎのウチに、何とか終わったけど、結局、どのチームが勝ったのか、まったくわかりませんでした。

 そして、いよいよ最後の競技です。チーム対抗混合リレーです。

横丁チームは、第一走者が下駄履きのお兄ちゃん。第二走者は、ウサちゃん。

第三走者は、呼子くん。そして、アンカーが、事もあろうか、私なのでした。

最後が、私で大丈夫なのか?

広場を一周、だいたい50メートルくらいです。なので、四人で走るので、200メートルリレーでした。

 それにしても、相手チームが強そうです。西洋妖怪チームは、ドラキュラ伯爵や魔女っ子ちゃん、狼男にコウモリ魔人です。見るからに強そうです。

私が、少しビビッていると、ウサちゃんが言いました。

「あのチームは、相手にしなくていいから」

「何で?」

「弱いから」

「でも、強そうよ」

「あの狼男は、オカマだから、足が信じられないくらい遅いのよ」

「ハイィィィ……?」

 狼男が、オカマって…… 妖怪の世界にも、オカマちゃんがいるんだ。知らなかった。確かに、よく見れば、男なのに、ナヨナヨしててお化粧してるし、口紅つけてる。なんだか、気持ち悪い。見ちゃいけないものを見た気がします。

「それより、向こうのチームだよ。特に、アカマタは、要注意だ」

 下駄履きのお兄ちゃんが言いました。ヘビの妖怪なので、足の代わりに、長い体をくねらせて走ります。

「ぼくが引き離すから、後は、頼むよ」

「ハイ」

 やっぱり、こんな時に頼りになるのは、お兄ちゃんです。

「あの、ぼく、やっぱり、やめようかな……」

 呼子くんが下を向いて言いました。

「なにを言ってるの。大丈夫よ。呼子くんは、足が速いじゃん」

「でも、ぼくは、足は、一本しかないし……」

 自身なさそうに言います。確かに、呼子くんは、カカシの妖怪なので、足は一本しかありません。

それでも、足の速さは、横丁イチです。

「大丈夫。自信を持って」

「そうだよ。呼子なら、やれるから。みんなを見返してやるんだ」

「そうかな……」

「そうだよ」

「よし、それじゃ、ぼく、がんばる」

 下駄履きのお兄ちゃんに言われて、呼子くんも元気を取り戻しました。

ウサちゃんは、ウサギの妖怪だから、足の速さは誰にも負けない。

お兄ちゃんもいるし、呼子くんも元気になった。後は、私次第です。

アンカー勝負になったらどうしよう…… それで、負けちゃったら、責任重大だよ。ちなみに、今の点数は、南方妖怪チームが一位で、私たち横丁チームが二位。三位が、西洋妖怪チームです。

このリレーの勝負で、私たちが逆転できます。でも、負けたら、三位になってしまうかもしれません。

 だんだん緊張してきて、足が震えてきました。

一方、優勝候補の南方妖怪チームは、アカマタさん、ポー、ヤシの実男、ヤッホー、性別すらわかりません。こんなチームに負けたら、恥です。

 私は、鉢巻を締めなおして、気合を入れます。

そして、いよいよ、最後の種目の時間がやってきました。




 

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