第5話 妖怪は、死なない?

 翌日、私は、学校の帰りに、駅前のショッピングセンターの文房具売り場に行って一つ目くん用に、ペンやノートを買ってこようと思ったのです。

勉強をするには、やはり、ペンとノートは必要だし、一応、先生として、なにかしてあげたいと思ったのです。

「さて、何を買ってあげようかな」

 一つ目くんは、男の子だから、可愛い系のよりも、カッコよさそうなのがいいかなと思います。

勉強もやる気になれるような物にしよう。私は、そう思いながら、駅まで歩きました。

 駅前広場に着くと、久しぶりに来た駅ビルを見上げます。

「ここに来るのも、久しぶりだわ」

 滅多にこないのは、余り欲しい物がないからです。

高校生だから、お小遣いも少ないし、見ると欲しくなるので、行かないようにしてました。

 ショッピングセンターの入り口に向かって歩いていると、後ろから声をかけられました。

「お嬢さん」

 それでも、私じゃないと思って、そのまま歩いていると、さらに声をかけてきます。

「そこの可愛いお嬢さん」

 私のこと? まさか…… そう思いながらも、足を止めて振り向くと、大学生風の若い男の人が三人いました。そして、私をグルッと囲むようにして、ゆっくり近づいてきました。

「どこに行くの?」

「俺たちと、お茶しない?」

 なにこれ? もしかして、ナンパ? この私が? そんなわけない。私は、妖怪人間なのよ。

無視して、ショッピングセンターに行こうとすると、前を塞ぐようにして言いました。

「向こうに、おいしい喫茶店があるから、話くらい付き合ってよ」

「その気は、ありませんから」

 私は、そう言って、行こうとしても、すぐに前を塞がれます。

しつこいなぁ…… 回りには、人が大勢歩いていても、誰も私のことなど、気にする人はいません。

男の人の三人くらい、相手にするのは、簡単なことだけど、人目があるので、そういうわけにもいきません。

「ねぇ、ちょっと付き合ってよ」

「わかったわ。それじゃ、私についてきて。駅の向こうにおいしいケーキ屋さんがあるから」

「いいねぇ」

「話がわかる、お嬢さんだね」

 そう言うと、彼らは、歩く私の後についてきました。

私は、この三人を思い知らせてやろうと思って、人気がないところに誘い出しました。

 丁度、駅の反対側に行かれる、自由通路という、短いトンネルがあります。

そこなら、人も少ないので、見られる心配はありません。

ほとんどの人は、この自由通路を使わずに、駅ビルに直結できる、歩道橋から改札口を行き来しているのです。

 思った通り、まったく人が歩いていません。

「いいのかな、こんなところに誘って」

「丁度いいから、ちょっと、遊んでいかない」

 そう言うと、私の前を塞ぎました。私も足を止めます。

私は、念の為、回りを見て、人がいないのを確かめてから、かばんを足元に置きました。

「なに? やる気なのかな……」

「男三人にかなうと思ってる?」

「思ってるわ。あなたたち、今まで、そうやって、何人の女の子を襲ってきたの?」

「襲うなんて怖いなぁ。ただのナンパだよ、ナンパ」

 そう言うと、いきなり後ろから羽交い絞めされました。

「どうよ、もう、逃げられないよ」

 男の息が首元にかかって、気持ち悪い。力で締め付けてきたようだけど、この程度は、どうってことはない。

事実、それほど力を入れてもいないのに、簡単に腕が解けました。

 体が自由になれば、こっちのものです。後ろの男に向けて、スカートを翻して、お腹にキックをぶち込みました。

「うぐぇっ……」

「まず、一人目」

 男は、お腹を抑えて蹲ります。すぐに、前から男が腕を掴みました。

でも、逆に腕を掴んで捻りあげながら、片手で男のあごにパンチを入れました。

「あがぁっ!」

「二人目」

 男は、勢い余って、壁に背中を激しく打ち付けました。

私は、三人目の男に向き直りました。

「強気じゃん」

 男は、ボクシングのステップみたいにしながら、パンチを打ち出します。

こんなの私の目には、止まって見えます。軽く避けると、男の後ろに回りました。

そして、首を伸ばして男の体に巻きつけました。そのまま、伸ばした首で、男を上から見下ろしました。

「な、な、なんだ、お前」

「なんだと思う?」

「バ、バケモノ……」

「失礼ね。妖怪よ、妖怪」

「よ、よ、妖怪……」

 私の首で体を締め付けられた男は、苦しそうに顔を真っ赤になりました。

「このままだと、死んじゃうわよ」

「わ、わかった、許してくれ」

 私は、首を元に戻すと、男のお腹にパンチを三発打ち込みました。

苦しそうにお腹を抱えて膝から崩れ落ちます。

「まぁ、こんなもんね。女の子を甘く見ると、こうなるのよ」

 私は、その男を見下ろしていると、それがちょっとした油断でした。

「この、バケモノ!」

 一人目の男が息を吹き返したのです。そして、私を背後から襲いました。

背中にチクッという、蚊に刺されたような感じがして、右手で背中を触ると

わき腹の辺りにナイフが深々と突き刺さっていたのです。

「ちょっと、痛いわね。なにすんのよ」

 私は、そのまま振り向いて、男を睨みつけました。

「な、なんで、死なねぇんだ…… お前、人間か」

「だから、言ったでしょ。私は、妖怪。妖怪人間なのよ」

「えっ! う、うわぁ~……」

 男は、腰を抜かしたまま地面を這いずるよう逃げていきます。

もちろん、このまま逃がすような私ではありません。

すばやく首を伸ばして、男の足に絡みつくと、そのまま引きずって戻しました。

「た、助けてくれぇ~」

「人を刺しておいて、なにが、助けてくれよ」

 私は、首を元に戻すと、男の胸倉を掴んで、往復ビンタを食らわしました。

そして、足元のかばんを拾うと、男の襟首を掴んで、引きずって、自由通路を歩いて行きました。

「ま、待って、どこに行くんだ?」

「うるさい、黙って、付いてきなさい」

 私は、男を掴んで引きずっていきます。向かうのは、駅の反対側にある交番です。

すれ違う人たちは、制服姿の女子高生が、大の男を引きずっているのをビックリしながら見ていました。

赤いランプが回る交番が見えてきました。私は、勢いよくドアを開けました。

「どうしました?」

 机の前に座っていたお巡りさんが顔を上げて聞いてきました。

「えーと、殺人未遂と、暴行傷害と、未成年に対する…… なんだっけ? とにかく、犯人を連れてきました」

 座っていたおまわりさんは、なにを言ってるのか、わからない感じで見ていました。

「これが、証拠です。そして、こいつが犯人です」

 そう言って、男を前に突き出して、クルッと背中を向けました。

そこには、ナイフが柄の部分まで深く突き刺さって、制服のブレザーが血で黒く染まっています。

「キ、キミ……」

 驚くお巡りさんの前で、右手で背中に突き刺さるナイフを引き抜いて、

机の上に大袈裟に置きました。男は、すっかり観念したようで、おとなしくしています。

「それじゃ、よろしく」

 私は、そう言って、何事もなかったように、交番を出て行きました。

「ちょ、ちょっと、待ちなさい。ケガをしてるじゃないか。救急車を呼ぶから、待ってなさい」

「大丈夫です。私、このくらいで死んだりしないから」

 私は、振り返ると、ニッコリ笑って手を振ると、いつものように歩きました。

「あぁ~あ、一つ目くんにノートとペンを買えなかったなぁ……」

 背中を触ると、血でべっとりと濡れていました。このままじゃ、買い物どころじゃありません。

私は、少しガッカリしながら、妖怪横丁に帰りました。


「ただいま」

「お帰り、ロク美」

 アパートに着くと、縁側でお茶を飲んでいる、砂かけのおばあちゃんがいました。

「おばあちゃん、私、ちょっと、ケガしちゃったんだけど、なんか薬とかありますか?」

 そう言って、背中を見せました。

「ちょ、ロク美、どうしたんじゃ?」

 砂かけのおばあちゃんは、ビックリして、お茶を吹き出しました。

「ちょっと、待ってろ。とにかく中に入れ。ろくろ首、鷹野、ロク美が大変じゃ」

「どうしたの、おばば?」

「大家さん、ロク美がどうかしたんですか?」

 お母さんとお父さんが部屋から出てきました。

「大変じゃ、ロク美がケガをしたんじゃ」

「なんですって!」

「ロク美、どうしたんだ?」

「ちょっと、刺されちゃった」

 私は、笑いながら背中を見せました。

それを見た、両親は驚いて、私を部屋に入れました。

「ロク美ちゃん、それを脱いで、よく見せなさい」

「ロク美、痛くないか?」

「ちょっと、チクッてするだけだから、そんなに心配しないで」

 私は、言いながら制服を脱ぎました。

「こんなに血が……」

 お母さんは、慌てて真っ赤に染まった、白いシャツを見てビックリしてました。

「いいから、それも脱いで、お母さん、救急箱持ってきなさい」

「ハ、ハイ」

 お父さんに言われたお母さんは、急いで棚の奥にしまった、薬箱を持ってきます。

お父さんは、私の血で濡れたシャツを脱がせました。

「ロク美、ごめん」

「別に気にしないで」

 私が下着姿になるのを気にしているお父さんでした。

「そこに寝て。ロク子さん、早く消毒」

 お父さんも慌てています。お母さんは、薬箱の中から、消毒液を出して、ガーゼに塗って私の傷口を拭ってくれました。

「ちょっと痛いけど、我慢するのよ」

「平気よ。これくらい、ケガのウチに入らないわ」

 実際、私は、なんともありません。

そこに、砂かけのおばあちゃんが怪しげな小さな壷を持ってやってきました。

「ろくろ首、わしに任せろ。そんな人間の薬をつけても、治りゃせんわい」

 そう言うと、壷の蓋を開けると、緑色の塗り薬を指で掬って、私の傷に塗ってくれました。

「これは、わし特製の傷によく効く薬じゃ。これを塗っておけば、明日には、きれいになってるじゃろ」

「ありがとうございます。大家さん」

 オロオロしているお父さんは、ホッとした顔で言いました。

そこに、騒ぎを聞きつけて、アパートの住人の妖怪たちもやってきました。

「どうした、どうした」

「ロク美が死んだって?」

「ホントか!」

 勝手なことを言っている妖怪たちです。私、死んでないし……

「勝手に殺さないでよ。私は、これでも妖怪なんだから」

 そう言って、顔を上げて抗議をしました。

「こらっ、少しじっとしてろ。お前たちも、見せもんじゃない。さっさと、部屋に戻れ」

 おばあちゃんに怒られて、帰って行く妖怪さんたちで、困ったもんです。

「ろくろ首、傷口が開かないように、布を貼ってやれ」

 言われたお母さんは、私の傷にバンソーコーで布を貼ってくれました。

「これで、もう大丈夫じゃ。鷹野、心配ない。明日になれば、きれいになってるはずじゃ」

「ありがとうございます。よかったな、ロク美。お前からも、お礼を言いなさい」

 私は、起き上がって、ちゃんと膝を揃えて、お礼を言いました。

「おばあちゃん、ありがとうございました」

 そう言って、きちんとお辞儀をしました。

「まぁ、よいわ。それで、誰にやられた? どうして、そんなことになったのか、話してみろ」

 おばあちゃんが言うので、事のいきさつを話しました。

その間に、お父さんは、上着を私にかけてくれました。

 話を聞き終えると、おばあちゃんもお母さんも、お父さんも、呆れていました。

そして、大きなため息をつくと、お母さんが言いました。

「だから、いつも言ってるでしょ。余り、人間に関わらないようにって。人間にはね、お父さんみたいないい人ばかりじゃないのよ。わかった」

「わかってるわよ」

「それに、ロク美ちゃんは、妖怪だからいいけど、普通の人間だったら、死んでるかもしれないのよ」

「それも、わかってます」

「ホントに、この子ったら、親に心配ばかりかけて……」

 お母さんが本気で怒りそうなので、素直に謝りました。

「心配かけて、ごめんなさい」

 私は、そう言って、頭を下げました。

「ロク子さん、もういいじゃないか。ロク美も反省してるようだし、大したケガじゃなかったし、正体を見せたのはどうかと思うけど、それを言ったところで、誰も信用しないだろうから、大丈夫だろう」

「あなたは、ロク美ちゃんには、甘いんだから」

 お母さんは、ちょっとむくれていました。

「それより、制服をダメにしちゃったわね。明日、どうしようかな……」

「制服どころじゃないでしょ」

 また、お母さんの雷が落ちました。

「まぁまぁ、ろくろ首も、そのくらいにしておけ。ロク美、これからは、余り無茶はするなよ」

「は~い、おばあちゃんも、ごめんなさい」

「それじゃ、わしは、これで失礼するから、今夜は、ゆっくりするんじゃよ」

 そう言って、おばあちゃんは、部屋を出て行きました。

「ほらほら、いつまでもしょげてないで、お腹も空いただろ。ロク子さん、ご飯の用意だ」

「そうそう、今夜は、ロク美ちゃんの好きな、ハンバーグよ」

「やった!」

「やったじゃないでしょ。せっかく、お母さんがハンバーグを作って待ってたのに、ケガして帰ってくる娘がありますか」

「えへへ……」

 私は、笑って誤魔化すしかありませんでした。

その後、私は、お母さんの作った、おいしいハンバーグをもりもり食べました。

お母さんのハンバーグは、世界一おいしいんです。

「慌てないで、ゆっくり食べなさい」

 お父さんが、私の食べっぷりを見て、笑いながら言いました。

すると、突然、部屋のドアが勢いよく開いて、たくさんの妖怪たちが現れました。

私は、思わず、ハンバーグが喉に詰まりそうになって、慌てて飲み込みました。

「ロク美がケガしたんだって!」

「どこのどいつがそんなことをしたんじゃ」

「わしらが、かたきを取ってやる」

 見ると、子泣きのおじいちゃんを先頭に、カワウソくん、アマビエちゃん、お歯黒のおばさん、ウサちゃん、花子さん、から傘くん、一つ目くんにカッパくんまでいました。

特に、子泣きのおじいちゃんは、ツルツルしたハゲ頭に鉢巻まで締めて、鼻息も荒く、今にも飛び出して行きそうです。

「えーと、あの、その、私は、このとおり大丈夫だから、心配しないで」

 私は、お茶碗と箸を持ったまま言いました。

「ロク美ちゃん、なんともないの?」

「さっき、砂かけのおばあちゃんに薬を塗ってもらったから、大丈夫」

 ウサちゃんが心配そうな顔で言いました。

「ロク美、お前のかたきは、おいらが取ってやるからな」

 カワウソくんまで、やる気満々の様子で、ちょっと困ってしまいます。

「あの、皆さん、この通り、娘は、大丈夫なので、もう、お引き取り下さい」

 お母さんとお父さんが、妖怪さんたちに申し訳なさそうに言いました。

「しかし、横丁の仲間がケガをしたとなっては、我らは、そのかたきを取らねばならんぞ」

 強気な子泣きのおじいちゃんに、お父さんが慌てて止めに入ります。

「相手は、ただの人間だし、もう、警察に逮捕されたというから、大丈夫ですよ」

「なに! 人間が、ロク美に怪我をさせたのか。それは、許せん」

 子泣きのおじいちゃんは、顔を真っ赤にしています。

「人間ごときが、妖怪に手を出すなんて、許せないよ」

 アマビエちゃんも怒っています。なんか、大事になってきて、食事どころじゃありません。

「ロク美センセ~、痛くない、怖くなかった?」

 一つ目くんが、大きな目玉から、涙を大量に流しながら、私に抱きついてきました。

「ごめんね、一つ目くん、心配かけて。先生は、大丈夫だから、泣かないで。また、明日、お勉強するんでしょ」

「うん。ロク美センセ~」

 私は、ツルツル頭を撫でてあげると、一つ目くんは、涙が止まらないようでした。

私の可愛い生徒まで、心配かけて、悪いことしたような気になって、私は、反省しました。

 そこに、騒ぎを聞きつけて、砂かけのおばあちゃんがやってきました。

「こらっ、お前たち、何しにきたんじゃ。勝手に、人のウチに入るんじゃない」

 おばあちゃんに、一括されて、妖怪たちは、黙ってしまいました。

「いいから、お前らは、さっさと帰れ」

「しかし……」

「こら、じじい。お前がいながら、こんな騒ぎを起こして、また、酔っ払ってるのか」

 そう言って、頭のハチマキをはがすと、ピカピカの頭をパチンと叩きました。

「アイタ…… なにするんじゃ、このクソばばあ」

「やかましい、もう、手当てはしたんじゃ。いいから帰れ」

 砂かけのおばあちゃんは、みんなを部屋から追い出しました。

「すまんな、騒がせて。まったく、あいつらときたら……」

 おばあちゃんが、笑いながら言いました。

「いえいえ、みんな、ロク美のことが心配で、来てくれたんですから、怒らないであげてください」

「ロク美、お前さんは、みんなから愛されているじゃから、これからは、余り無茶はするでないぞ」

「ハイ、わかりました」

 私は、みんなの気持ちがわかって、心から反省しました。

「さぁ、ご飯の続きだ。冷めないうちに、食べようか」

 お父さんが話の区切りをつけるように言いました。

こんな空気が読めるお父さんが、私は、大好きでした。

 それはともかく、まだ、ご飯の途中だったから、食事再開です。


 翌日、目が覚めて、ふとんから起きると、ケガをしていた背中は、もう、なんともありませんでした。

「おはよう」

「おはよう、ロク美ちゃん。今、ご飯できるからね。その前に、背中を見せて」

 お母さんに言われて、私は、パジャマの後ろを捲って見せました。

バンソーコーをはがして、布を取りました。

「痛くない?」

「もう、全然、痛くないわよ」

「そう、よかったわ。自分で見て見なさい。きれいになってるから」

 私は、鏡の前で、後ろを向いて、パジャマを捲ってみてました。

すると、ウソのようにきれいに治っていました。傷一つありません。

「おはよう、ロク子さん」

「おはようございます。あなた」

 お父さんが起きてきて、私の姿を見て、驚いていました。

「こら、女の子が、朝からなんて格好をしてるんだ」

「あっ、お父さん、おはよう」

「おはようじゃない。早く、着替えてきなさい。学校に遅れるぞ」

「それより、見てよ、お父さん」

 私は、お父さんに背中を見せました。

「どう、きれいになってるでしょ」

 それを見たお父さんは、ビックリしていました。

「ちょっと、触っていいか?」

「いいわよ」

 お父さんは、指で私の傷があった部分を優しく撫でました。

「すごい、跡形もなく傷が消えている」

「でしょ、でしょ。おばあちゃんの薬って、すごいのね」

 私とお父さんとで、感心していると、お母さんがご飯をちゃぶ台に並べます。

「ほらほら、そんなことしてないで、着替えてらっしゃい」

 私は、急いでに部屋に戻ると、学校の制服に着替えました。

でも、白いシャツの代えはあっても、上着のブレザーの代えはありません。

 私は、スカートに白いシャツのままで、食卓に戻ると、お母さんが言いました。

「ハイ、これ。直したから、着て行きなさい」

 そう言って、私のブレザーを差し出しました。

「でも、これ……」

「直したのよ」

「お母さんが?」

「当たり前でしょ。他に誰がやるのよ」

 そう言いながら、ご飯をよそってくれました。

私は、ブレザーを着ると、それを鏡で見てました。破れた跡も、血の痕もありませんでした。

「お母さん、ありがとう。大好き!」

 私は、そう言って、お母さんに抱きつきました。

「なにしてるの、お茶がこぼれるでしょ」

 お母さんもお父さんも笑っていました。こんな素敵な両親に生まれて、私は、幸せな娘です。

もう、心配かけないようにしなきゃ……

    



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