第4話 妖怪学校の仲間たち

 翌朝は、いつものように学校に行きました。

「おはよう」

 私は、教室に入ると、友だちに挨拶して、自分の席に座りました。

すぐに仲良しの友だちが集まって、昨日の騒ぎのことを話してきました。

「久美ちゃん、聞いた、昨日のこと」

「さぁ、私は、今、来たとこだから……」

 悪いけど、トボけるしかありません。何しろ、張本人は、私だから。

「オカルト研究会のメンバーが、夜に教室に忍び込んで、先生に見つかって、怒られたんだって」

「そんなことがあったの」

「妖怪を見たとか何とか言ってるけど、そんなのいるわけないじゃんね」

「アハハ……」

 私は、微妙に引きつって笑いました。

そこに、オカルト同好会の一人の内藤くんが、教室に入ってきました。

すぐに男子たちが集まって、昨日の話を聞いています。

私は、興味がない振りをして、話を聞かないようにしました。

 なのに、内藤くんは、男子たちの輪から出てくると、私に近づいてきました。

なんかまずい予感がする。どうしよう……

「鷹野、昨日の夜、教室にいなかった?」

「この前は、みんないっしょだったでしょ」

「その時じゃなくて、昨日だよ」

「昨日は、いないわよ。ウチでテレビを見てたもん」

 背中に冷や汗をかきながら言い訳しました。

「おかしいなぁ、誰かいたような気がしたんだけどな」

「なんか、見たの?」

「イヤ、見てないけど、そんな気がしたんだ」

 私は、内心、ホッとしました。私と一つ目くんは、見られていない。

よかった……

「それより、先生に見つかったんだって」

「まいったよ。まさか、宿直の先生が来るとは思わなかったから」

「どうして、また、夜に学校に来たの?」

「妖怪がいると思ったんだよ」

「でも、いなかったんでしょ」

「それは、そうなんだけど……」

「私の予感じゃ、もう、妖怪とか幽霊とか、オバケとかでないと思うわよ」

「なんで、わかるんだよ」

「だから、予感よ、予感。私の予感て、当たるのよ」

 そう言って、私は、席を立って、行きたくないけど、トイレに行きました。

これ以上、詮索されたくなかったので、話を打ち切ることにしただけです。

 一つ目くんも反省したから、もう、夜中に学校に入ってくることはありません。だけど、一つ目くんの気持ちもわかります。何とかならないかな……

 この日は、一日中、そんなことばかり考えていました。


 学校が終わって、横丁に戻りました。

「ロク美ちゃん、今、帰り?」

「うん、ただいま」

 横丁の入り口で、番をしている、幽霊の鈴木さんが声をかけてきました。

鈴木さんは、妖怪横丁の入り口で、入ってくる妖怪たちに挨拶をするだけの幽霊です。

「ロク美、鮎、食うか?」

「えーと、今は、いらない」

「うまいのになぁ……」

「それじゃ、夕飯に食べるから、後でウチに持ってきてよ」

「おぅ、生きのいいのを持っててやる」

 そう言って、川の中から声をかけてきたのは、カワウソくんです。

横丁の川に、鮎なんていたかしら? 私は、不思議に思いながら、川を覗いてみたけど、鮎どころか、魚一匹泳いでいるのを見ることはできませんでした。

その鮎って、どこから取ってくるのかしら? 妖怪横丁は、不思議だらけです。

「きたきた、ロク美ちゃん、待ってたんだよ」

 そう言って、妖怪アパートの前にいた、から傘くんがピョンピョン飛びながらやってきました。

から傘くんは、傘の妖怪です。古い傘が妖怪になったらしいです。

閉じた番傘からニョキッと出ている一本足で、軽快に歩くというより、飛んでいる感じです。

茶色の傘には、大きな一つ目があって、大きく赤い舌をペロッと出してます。

一応、両手は傘から出ています。

「どうしたの。なんか用?」

 から傘くんは、同じアパートに住んでいるので、顔馴染みです。

「ロク美ちゃんに用があるって言う妖怪が待ってるんだよ」

「ふぅ~ん、誰かしら?」

「こっち、こっち」

 私は、から傘くんの後を追って、歩きました。

アパートを過ぎて、森の方に行くのを右に曲がりました。そこは、おじゃが沼といって、さら小僧くんとか河童くんが住んでいる沼でした。

 しかし、から傘くんは、その沼を通り過ぎました。

どこに行くんだろうと、不思議に思いながら後についていきました。

「お~い、連れてきたぞ」

 沼を通り過ぎて、湿地帯の近くまで行くと、から傘くんが言いました。

すると、その湿地帯の中から、何かがのっそり顔を出しました。

そして、ゆっくりとこちらに近づいてきて、沼のほとりから出てきました。

 それは、私を見下ろすくらい大きなサメでした。

「えっ! サメ……」

 私は、驚いて見上げました。

「おい、ロク美、お前、一つ目小僧に何をしたんだ?」

 いきなり聞かれて、言葉が出てきませんでした。何しろ、巨大なサメです。

手足はあるけど、どこからどう見ても、巨大なサメなのです。

もしかしたら、私、食べられちゃうのかな…… そう思っていると、そのサメが言いました。

「俺は、サメ入道。覚えておけ」

「ハ、ハイ」

 私は、その迫力に声を震わせながら返事をしました。

「それで、一つ目小僧に何をしたのか聞いてるんだ」

「なにって、別に何もしてないけど……」

「ウソをつけ! お前、一つ目小僧になにを言ったんだ」

「だから、何も言ってないわよ。ただ、無断で学校に入ってくるから、注意しただけよ」

「それじゃ、なんで、あいつは、元気がないんだ」

「そんなの知らないわよ」

「ウソをつくと、食うぞ」

 その大きな口から、覗くキバを見ると、ホントに食べられる気がして、怖くなりました。

「から傘くん、助けてよ。なんか言ってよ」

 私は、から傘くんに助けを求めました。しかし、から傘くんは、とっくに空を飛んで逃げちゃっていました。

「もう、逃げ足だけは、速いんだから」

 私は、独り言のように呟くしかありません。この場から逃げ出しても、きっと捕まる。そして、食べられちゃう。サメに食べられるなんて、まるで、映画のジョーズじゃない。この前、お父さんとみた昔の映画を見たのを思い出しました。

 どうしていいかわからず、震えていると、遠くから聞いたことがある声が聞こえてきました。

「待ってよぉ~、ロク美ちゃん、サメ入道……」

 それは、一つ目くんでした。急いで走ってきたのか、息を切らして、真っ赤な舌で大きく息をしていました。

「丁度いい。一つ目小僧、ロク美に言ってやれ」

「違うんだよ、サメ入道」

 一つ目くんは、やっと息を整えて、話をしました。

「ロク美ちゃんは、ぼくを助けてくれたんだよ。悪いのは、ぼくなんだ」

 一つ目くんは、夜中に学校に忍び込んで、宿直の先生に見つかりそうになったところを私に助けてもらったこと、その後、砂かけのおばあちゃんに怒られたことを話してくれました。

「バカヤロ! 妖怪のくせに、なにが学校だ、なにが勉強だ。人間みたいなことするな。そんなことをするとロクな妖怪になれないぞ」

 サメ入道が、一つ目くんを怒鳴りつけました。

「ちょっと、それ、どういう意味かしら?」

「お前も妖怪の癖に、人間の学校なんかに行きやがって、妖怪なら、妖怪らしくしたらどうだ」

 私は、カチンときて、言い返しました。でも、サメ入道も黙っていませんでした。

「学校をバカにして、人間だって、いい人もいるのよ。謝ってよ」

「うるさい、誰が謝るか」

 私とサメ入道は、お互いに黙って、睨み合いが続きました。

一つ目くんは、私たちを心配そうに、ハラハラしているだけでした。

「妖怪が勉強して、なにが悪いのよ」

「そんな暇があったら、妖術を習えって言ってんだよ」

「この、わからず屋のバカサメ」

「言ったな、この首なしのおたんころくろ首」

「なんですって」

「なんだよ」

 一触触発のそのときでした。

「待て待て、このバカモノども!」

 声がするほうを振り向くと、沼の中から音もなく顔を出したのは、ぬっぺりした魚でした。その魚がゆっくりと岸に上がってきました。

「イワナ坊主様」

 その魚を見て、さっきまで殺気立っていたサメ入道が、急に静かになりました。

「サメ入道、いい加減にしないか。それに、ロク美も、そんな顔していると、お前のお母さんが悲しむぞ」

 えっと、この妖怪は、いったい誰なの? 私のことも知ってるみたいだし、お母さんのことも知っている。

ついでに言えば、あのサメ入道が、この小さな魚の妖怪の前では、直立不動だ。

「わしの名は、イワナ坊主。この辺一帯を仕切っている妖怪じゃ」

 見ると、私よりも小さい、お魚です。といっても、両手両足もちゃんと生えていて、お坊さんのような服装をしています。

「こやつは、わしの弟子でな。小さいころは、暴れん坊で手がつけられんかった。その頃の友だちは、この一つ目小僧だけでな。だから、心配していたんじゃろ。ロク美、わしに免じて、許してくれ」

「イヤイヤ、そんな、全然大丈夫です」

 私は、必死に顔を左右に振りました。

「こら、お前もちゃんと謝らんか」

 イワナ坊主に叱られたサメ入道は、大きな頭をゆっくり下げたのです。

「すまなかった」

「別に、気にしてないから、頭を上げて」

 あの凶暴なサメ入道が、こんな小さなイワナ坊主の前では、まるで子供のようにおとなしい。

もしかして、イワナ坊主って、すごい妖怪なのかもしれません。

「話は、聞いた。どうかな、一つ目小僧の先生になって、勉強とやらを教えてくれんか、ロク美」

「えっ! 私が?」

「そうじゃ。お前さんは、人間の学校に通っているんじゃろ。それなら、一つ目小僧に読み書きくらい、教えられるじゃろ」

「イヤ、でも、私が先生なんて……」

 私は、両手を忙しく振って、無理だということを言いました。

「お前、イワナ坊主様の申し出を断るのか!」

「こら、お前は、静かしにしておれ」

「ハイ、すみません」

 見た目も怖いし、大きな迫力のサメ入道を、一声で黙らせるイワナ坊主さんて、ホントにすごい妖怪かもしれない。

「一つ目小僧、お前は、勉強してみたいか?」

「うん、したい」

「ロク美に勉強を教わりたいか?」

「うん、ロク美先生、お願いします」

 ロ、ロ、ロク美先生…… 私のこと、今、先生って言った?

待て待て、そんなわけがない。

私は、学校でも、成績は中の中で、いたって普通のレベルだし、悪くはないけど、よくもない。

100点なんてテストで取ったことは、一度もない。そんな私を先生って……

「どうかの、ロク美、一つ目小僧の先生になってもらえんか」

「俺からも頼む。俺は、バカだから、勉強なんて教えられないから、お前しかいないんだ、さっきのことは、謝る。だから、一つ目小僧に勉強を教えてやってくれ」

 サメ入道が、何度も頭を下げてきた。そうまでされると、もう、断れない雰囲気。

だけど、この私が、先生なんてなれるのだろうか? でも、先生と呼ばれるのも悪くはない。むしろ、いい気分だ。

「わかりました。私でよければ、教えてあげます。でも、一つ目くんて、どの程度の勉強してるの?」

「う~ん、わかんないけど、ひらがなは読めるよ」

 なるほど、そのレベルか。てことは、小学校の一年生か二年生くらいね。

だったら、私でもできるかも。

私は、一応、高校二年生だから、小学生の勉強なら、教えることが出来る。

もしものときは、お父さんに助けてもらえばいいしね。

だって、私のお父さんは、ホントの小学校の先生だから。

「でも、私の学校が終わってからだから、夕方くらいから、一時間とか二時間くらいだけど、それでもいいの?」

「うん、ロク美先生、お願いします」

「こら、一つ目小僧。そう言うときは、ハイと言わなければいかんぞ」

「ハイ、ロク美先生、お願いします」

「こちらこそ、よろしくね。明日から、いっしょに、お勉強しましょうね」

「ハイ、楽しみにしてます」

 そう言って、一つ目くんは、うれしそうに大きな一つの目で笑いました。

「これで、よかったんじゃな。どうだ、ついでに、サメ入道も、ロク美に勉強を教わったらどうだ」

「そればかりは、ご勘弁を……」

 そう言うと、サメ入道は、沼の中に飛び込んでしまいました。

「まったく、あやつは、図体ばかりでかくて、全然成長しとらん、困ったやつじゃ」

 そう言いながら、イワナ坊主さんは、うれしそうでした。


 そんなわけで、私は、明日から、一つ目くんの家庭教師ということになりました。

そのことを夕飯のときに話すと、お父さんは、すごくビックリしてました。

「ロク美が、先生だって!」

「そうよ、私は、ロク美先生よ」

「ロク美にできるのか?」

「できるわよ。だって、小学生一年生レベルだもん」

「先生ってのは、そんなに簡単なことじゃないんだぞ」

 本物の先生をしているお父さんは、心配そうでした。

「ロク美ちゃん、責任重大よ。わかってるの?」

「わかってるわよ。一つ目くんだって、勉強したいって言ってるし」

 お母さんも、かなり心配そうです。だけど、一番心配なのは、実は私だったりします。

一年生レベルとはいえ、人に教えるというのは、難しいのです。

なんだか不安になってきました。ホントに、私にできるかな……

 翌日、私は、学校から急いで戻ると、一つ目くんは、妖怪アパートの前で待っていました。

「遅くなって、ごめんなさい」

「ロク美先生、こんにちは」

 一つ目くんは、私の前できちんとお辞儀をしました。

「こ、こんにちは」

 私も慌てて挨拶を返します。

一つ目くんのお家は、どこだかわからないので、勉強は、私のウチですることにしました。

 とりあえず、部屋に上がってもらってから、私は、制服から普段着に着替えます。

お父さんが使っている一年生用の教科書を貸してもらって、まずは、それからやってみることにしました。

 確かに、一つ目くんは、ひらがなは読めました。でも、字は書けませんでした。

まずは、自分の名前を書けるようにしようと思いました。

 もちろん、算数も出来ません。簡単な、足し算や引き算も出来ません。

これは、偉いことを引き受けたかもしれないと、このとき、初めて事の重大さを感じました。

お父さんは、こんな大変なことをお仕事としてしているのかと思うと、尊敬します。

 お母さんが用意してくれた、落書き帳をノート代わりにして、字を書く練習をして見ました。

といっても、ペンの持ち方から教えます。もしかして、鉛筆みたいな細いものよりも、筆のような太目の方が持ちやすいのかもしれません。

それでも、一つ目くんは、必死に字を書いています。

私の見本だって、決して上手な字とはいえませんが、一つ目くんは、一字一句をゆっくりと丁寧に書いていました。

 何事も一生懸命な一つ目くんが、私は、とても可愛く見えました。

なんか、可愛い弟が出来た感じです。熱心に字を書いている姿は、私も見習わないといけません。

「ちょっと、休憩しましょうか」

 私は、そう言って、冷蔵庫からジュースを出して、二人で飲みました。

「ロク美先生、ありがとう。すごくおいしいです」

「そう、よかった」

 おいしそうにオレンジジュースをゴクゴク飲んでいるのを見ると、抱きしめたくなります。

「それじゃ、もう少しやろうか」

「ハイ、ロク美先生」

 先生って言われると、私もうれしくなって、もっといろいろ教えてあげたくなります。

しばらくひらがなの勉強をしていると、お父さんとお母さんが帰ってきました。

「あら、もう、お勉強してるの?」

「ろくろ首さん、こんにちは」

 お母さんに一つ目くんは、丁寧に挨拶しました。

「早速、やってるんだな。一つ目くん、このロク美先生は、どうかな?」

「ハイ、とても優しいです」

 お父さんにもハッキリ言いました。

「どうかな…… ロク美先生も、テストで百点なんて取ったことないんだよ」

「えぇ! そうなんですか。ロク美先生は、頭がいいと思います」

「もう、いいから。お父さんたちは、向こうに行ってて」

 私は、からかわれている気がして、お父さんたちを向こうに押しやりました。

「一つ目くん、夕飯作るから、食べて行ってね」

 お母さんがエプロンをつけながら言いました。

「すみません。でも、大丈夫です。お寺の師匠が待ってるので、帰ります。今度、ご馳走になります」

「アラ、そうなの。残念ね。それじゃ、また、今度ね」

「ハイ」

 一つ目くんは、そう言って、また丁寧に頭を下げました。

そこで、不思議に思っていたことを聞いてみることにしました。

「一つ目くんて、どこに住んでるの?」

「横丁の少し先に、妖怪寺ってのがあって、そこです」

 そんなのあるんだ…… 全然知らなかった。てゆーか、妖怪横丁って、私の知らないことが、まだまだたくさんありそうで、果然興味が出てきました。

「そうなんだ。今度、私も行ってもいい?」

「いいけど、師匠って、見た目が怖いですよ」

「そうなの……」

 果たして、どんな妖怪なのか…… 見た目が怖いって、井戸仙人より怖いのかしら?

私のイメージだと、大きな一つ目の妖怪だと思うんだけど、違うのかな……

「ねぇ、お母さんは、一つ目くんの師匠って知ってる?」

「知ってるわよ。吹き上げ入道が、お師匠様よね」

「ハイ、そうです」

 吹き上げ入道って、どんな妖怪なのか、ちょっと見たくなりました。

「ぼくの他にも、三つ目小僧とかとうふ小僧とか、さら小僧とかもいますよ」

 小僧ばっかりのお寺なんだ。そんなの知らなかったわ。

「小僧さんばかりのお寺なのね」

「ハイ、ぼくたちは、ロク美先生みたいに、生まれたわけじゃないから、親がいません。そんなぼくたちを引き取って育ててくれるのが、お師匠様なんです」

「ふぅ~ん、偉い妖怪なのね」

 私は、思わず感心してしまいました。子供の妖怪ばかりを引き取るなんて、素敵な妖怪だわ。

なんとしても、会ってみたくなりました。すると、お母さんが言いました。

「ロク美ちゃんも知ってるでしょ。それとも、忘れちゃったのかしら」

 手を拭きながらお母さんが私に言います。

でも、私には、まったく、わかりません。

「まったく、この子ったら、ごめんなさいね、一つ目くん」

 お母さんは、一つ目くんにお茶を出しながら言いました。

「私、知ってるの?」

 私は、不思議に思って聞きました。

「ロク美ちゃんが小さかったころ、いろいろ教えてくれた、妖怪先生よ」

「えーっ! あの妖怪先生が、一つ目くんの師匠なの?」

「そうよ。もう、忘れちゃったの。困った子ね」

 そう言えば、妖怪学校で、いろいろ教わったときの先生は、怖い顔して、目は一つしかなかった。

だんだん思い出してきました。たくさん怒られたけど、優しい先生だった。

私が、人間の学校に行くようになって、妖怪学校は卒業しました。

アレから、妖怪学校は、どうなっているのだろうか……

 妖怪学校があった、洞窟はまだありました。てことは、まだ、学校はやっているのかもしれません。

「一つ目くん、妖怪学校って、まだあるの?」

 すると、一つ目くんは、お茶を一口飲んで、少し小さな声で言いました。

「もう、なくなっちゃったんだよ」

「そうなの…… 残念ね」

「だから、ぼく、学校に行きたくて……」

「そういうことなのね。また、学校が始まるといいわね」

「うん、でも、お師匠様は、忙しいから、先生をしている時間がないんだ」

 ガッカリしている一つ目くんを見て、私は、元気が出るように、言いました。

「だったら、私が先生になるから。ちゃんと、お勉強も教えてあげるわ。ここが、一つ目くんの学校よ」

 そう言うと、一つ目くんの大きな目を、きらきら輝かせながら顔を上げました。

「ありがとう、ロク美先生」

「どういたしまして」

 こうして、一つ目くんは、私たちに何度もお辞儀をしながら、帰っていきました。






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