第23話 2人の天才


 首の繋目に魔弾を喰らった1体のラパンは、よろめきながらポールが待ち受けている方に向かっていく。もう1体のラパンは魔弾の銃声に驚いて、スピードを加速して同じようにポールが待ち受ける場所に走って行く。


 オレリアンが再装填をしている間に2体のラパンは逃げ出したが、1体は魔核からの魔力を遮断されたので追いつくのは容易い。


 

 「1体はポールに任せて、よろめいているラパンに追い打ちをかけるぞ」



 オレリアンは片手でフラムを構えながら走り出す。



 「射程範囲だ!」



 オレリアンは走るスピードを少し落としてフラムのフロントサイトとラパンの首の繋目に合わせて発砲する。



 「バン」



 次は首の繋目に当たらずにラパンの後頭部に魔弾が直撃する。しかし、魔弾の威力によってラパンは前方に倒れ込む。



 「くそ!外したか」



 オレリアンは、あわよくば自分の手で仕留めたかったので、悔しさが込み上げる。


 


 「ポール!ラパンが迫っているわよ」



 レアが大声で叫ぶ。



 もう1体のラバンは躍動感ある跳躍力で移動して、オレリアンを引き離してポールのすぐ近くまで迫っていた。ラパンはレアの声に気付いて、敵意をむき出しにして声のする方角へ向かっていく。


 

 「注意をそらしてくれてありがとう」



 ポールは岩陰に隠れてラパンを射撃するつもりだったので、レアはあえて大声をだしてラパンのヘイトを買って出た。



 「距離は50m風はない。ラパンはオレリアンの魔弾が命中して倒れ込んでいる。今がチャンスだな」



 サミュエルは足場の悪い岩の上で、肩幅程度に足を開き少し中腰になり重心を低くする。そして、右手でブリップを持ち指をトリガーにかける。左手でハンドガードを優しく支え、ストック(銃底)を右手の頬の付け根に当てた。そして、再びスコープをのぞき込みオレリアンが追い詰めたラパンの魔核にエイム(照準)を合わせる。



 「オレリアンも気づいているな。後は俺に任せろ」



 サミュエルはトリガーを引く。



 「この距離で狙うのか?それなら俺は邪魔しないように射撃はしない方がよさそうだな」



 オレリアンはサミュエルの射線の妨害をしないためにラパンへの射撃をやめた。



 「ダダダダダダダダダダ・ダダダダダダダダダダ・ダダダダダダダダダダ」



 アヴァランチの魔弾が鳴り響く。



 サミュエルが射撃を開始すると同時にポールは、レアの方へ向かったラパンの首の繋目を狙ってフラムを発射する。


 サミュエルの放った魔弾は、全弾ラパンの額にある魔核に直撃して、魔核を破壊した。



 「この距離で全弾命中だと・・・」



 サミュエルの射撃をラパンの後方から見ていたオレリアンには、魔弾がラパンの魔核に直撃した事は見る事はできない。しかし、流星のように美しい魔弾の弾道を見れば、全弾直撃した事をすぐに理解できた。



 『凄すぎる・・・』



 オレリアン以上に驚いていたのは私である。私はサミュエルの真後ろに立って射撃を見学していた。ブロン(マシンガン)の射撃範囲ギリギリである50mも離れた場所、しかも足場は不安定、こんな悪条件の中、サミュエルは一発も外すことなく魔核に命中させた。これが練習場や学校の大会ならここまで驚きはしない。しかし、ここは魔獣が生息する世界、そして初めての実戦である。1㎜も緊張せず呼吸を乱すことなく、落ち着いて状況を把握して、暴れ牛のように制御が難しいアヴァランチを、借りて来た猫のように完璧にリコイル(反動)を抑え込んだ。


 私は天賦の才を持つサミュエルの実力に驚愕し呆然としていた。しかし、その間にもう1人の天才が腕を披露していた。


 ポールが放った魔弾は、ラパンの首の繋目に命中せずに、頭をかすめた程度に終わった。初めての実戦で緊張していたポールは、ラパンの素早い動きにエイムを上手く合わせる事ができなかったのである。しかし、それが当たり前であり恥じる事はない。


 頭部に攻撃を受けたラパンは大きな耳を動かして、すぐにポールの位置を確認した。たいしたダメージを受けなかったラパンは、レアの方に行くのをやめて、ポールの方へ方向を転換する。



 「敵に背後を見せたらダメよ」



 レアはラパンが方向転換するとすぐに駆け出して、ラパンとの距離を縮める。ラパンとの距離は5mそれはルージュの射程範囲である。


 レアは膝をバネのように使い1mほどジャンプして、フロントサイト(照星)と平行に顔を添えて、右手でグリップを握りながら指をトリガーにかけ、左手でフォアグリップ(先台)を持ちエイムを合わせてトリガーを引く。この動作に要した時間はわずか0,5秒。


 銃声と同時にラパンが倒れ込む。ソテー(ジャンプ)撃ちは通常の撃ち方よりも魔弾の威力は強くなる。これは魔力の性質の問題である。魔力は上から下に向かって流れ落ちる性質があるので、上から下への発射は威力が増すが、下から上の発射は威力が落ちる。特に近接武器であるルージュは如実にその効果を発揮する。


 レアは着地すると同時にすぐに走り出し、ラパンとの距離を0にした。



 「この距離なら確実ね」



 レアはフラムの銃口をラパンの魔核に当てて発砲した。


 

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