第24話 体力おばけ
レアの足元には魔核を破壊されたラパンが転がっていた。
「さすが・・・レアだね」
ポールはぎこちない笑顔でレアを褒める。
「ポール、肩の力が入り過ぎよ。リラックスしないとね」
「そうだね。次は頑張るよ」
ポールは素直にレアのアドバイスを聞き入れる。
「サミュエルの方も終わったみたいよ」
「え!もうラパンを退治したの」
「あの距離から全弾外さずに魔核を破壊したみたいよ」
レアはラパンと戦闘をしながら、サミュエルの放った魔弾の行方も確認していた。一方ポールは自身の戦闘に夢中で回りが見えていなかった。
「レアが1人で倒したのか?」
駆け付けたオレリアンは、唖然とした表情でレアに問いかける。
「そんなわけないでしょ。ポールと協力して倒したのよ」
レアは嫌味ではなく本心でそう思っている。しかし、ポールは苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「僕はラパンに射撃をしたけど繋目に当たらず頭をかすめただけだよ」
「でも、ヘイトを稼いでくれたわ」
「結果的にわね・・・」
「それで良いのよ。ラパンでも油断をすれば命を失うこともあるわ。だから、みんなで協力して戦う必要があるのよ」
「レアの言うとおりだよ。俺もオレリアンがラパンの動きを封じてくれたから安心して射撃に集中することができた。みんなで勝ち取った勝利だ!」
「そうよ」
「そうだな」
オレリアンは頬が緩んですこし笑ったように見えた。
『良いパーティーだわ。レアさんの活躍は見れなかったけど、みんなで協力して魔獣を倒す、まさに冒険者って感じだわ。私もいつか仲間に入れてくれたらいいのになぁ』
私は4人の姿を見て冒険者のすばらしさを感じていた。
「次は俺1人でラパンを倒すぞ!」
オレリアンはレアの活躍に刺激を受けて興奮している。
「バカ!今みんなで協力してなし得た勝利だと言ったばかりじゃないの」
「そうだったか???」
「ハハハハハ、いいじゃないか。オレリアンの好きにさせてやりなよ」
「でも、今日は射線を意識するための練習よ」
「今回のオレリアンの動きを見ていたけど問題はないよ。オレリアンは射線を通しながら自分1人で倒すと言いたいのだよ。そうだよねオレリアン」
「もちろんだ。さっきのラパンの戦闘で射線の大事さは理解したつもりだ。今回は気づかれることなくラパンの背後に回ることが出来たから上手くいったが、毎回成功するとは思えない。ラパンに気付かれた時に、上手にヘイトを稼ぐことも大事だが、自分で仕留めても問題ないだろ」
「そうね。いろいろ試すといいわね。でも、絶対に油断はしないでね」
「もちろんだ」
サミュエルとレアは拠点である大きな岩にもどり、ポールとオレリアンはラパンが来ないか岩場エリアの探索を再開する。
その日は昼過ぎまで探索を行い合計6体のラパンを退治したところで、サミュエル達は狩りを切り上げる事にした。オレリアンは後衛の射線を意識しながらラパンの魔核を攻撃して単独での退治を試みたが、素早い動きのラパンの魔核を正確に捉える事ができずに、レアと協力する形でラパンを退治した。
「今日はこれくらいにしておこう」
「そうね。初めてでラパン6体なんて上出来だわ」
「異論は・・・ない」
オレリアンは激しく動き回ったので息を切らしていた。
「僕・・・も・・・だよ」
ポールも同様に息を切らしている。
「まだまだ走り込みが足りないわね」
レアの言葉に2人は言い返す言葉がない。実際一番激しく動き回っていたのはレアである。1体目こそ、自分で仕留めたが、その後はサポートに徹し激しく動き回りながらヘイトを稼ぎ、3人に美味しい所を預ける形になっていた。
「レアは体力おばけだよ」
「同感だ」
オレリアンとポールはレアに気付かれないように小声で愚痴る。退治したラパンはサミュエルとレアのエスパスに閉まって人間の世界に通じる常夜の大樹に戻る。
「帰りは歩いて常夜の大樹まで行こうぜ」
「ダメよ!魔獣の世界を抜けるまでは気を抜かないで」
「そうだよ、オレリアン。Eランクの魔獣エリアだけど油断は禁物、できるだけ早く魔獣の世界を抜け出すべきだよ」
「わかった」
オレリアンは素直に返事をした。
『みんなすごいわ。岩の上からみんなの動きを見ていたけど、前衛は絶えず緊張感をもってラパンを探し、ラパンを見つけると素早く移動してラパンと戦う。息をつく暇なんて全くない。サミュエル君も岩の上で絶えず最良の姿勢を保ちつつ、ラパンを探し、ラパンを見つけると仲間に合図を出して、いつでも射撃できるように準備する。のんびりしている暇などない。やっぱり体力って重要だわ。私、帰りは体力作りのために走って帰ろうかしら・・・』
私はサミュエル達の戦いを見て、アドレナリンが込み上げてきて興奮値がマックスになっていた。常夜の大樹からパステックまでは10㎞、走って帰れない距離ではない。それに、私は今から1人で、ラパンと戦ってみようとも考えていたからでもある。
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