第22話 初めての狩り
「あの大きな岩を拠点にしよう」
高さ3mほどの巨大な岩を見つけたサミュエルが支持を出す。
「わかったわ。射撃の距離は40mでいいわね」
「そうだね。40mなら魔弾の威力も落ちる事はないしね」
ブロン(マシンガン)の射程距離は30m~50mである。ルージュに比べて機動力がなく、腰を据えて立ち止まって射撃するので、近距離だと魔獣の攻撃を避けることができない。なので、魔獣から30mは距離を保つことが必要である。しかし、距離が離れるにつれて魔弾の威力が下がるので50mまでが射程距離と言われている。しかし、ブロンをカスタムする事によって、射程距離を伸ばすことも可能である。
サミュエルは、岩場を軽快にジャンプしながら巨大な岩に辿り着く。巨大な岩の上の面積は6㎡の広さがある。しかし、凹凸が激しく足場の安定性は悪い。私もみんなの戦闘を見学するために岩場をよじ登り、なんとか、サミュエルと同じ岩場の上に辿り着いた。
『すごく見晴らしがいいわ。ここなら辺りを一望できるわね』
私が景色を見入っている間に、サミュエルは岩の凹凸を確認して、どの位置に足を置けば体の安定が保てるか念入りに調べている。
「サミュエル、ここは見晴らしがいいわね」
先ほどまで周りの岩場を探索していたレアが大きな岩に登って来た。
「そうだね。凹凸は激しいけど見晴らしが良いから射線を通し易いよ。これなら岩の隙間にラパンを追い詰めなくても、楽にエイム(照準)を合わせることが出来そうだよ」
「リコイル(反動)は制御できそうかしら」
「がんばるよ。リコイルを制御するには安定した姿勢を保つのが大事だから、この凹凸は厄介だよ。だから、初心者は岩場エリアに拠点を構えたりしない。でも、後衛の射線を意識した動きを練習するには、うってつけの場所だよ」
「ルージュにも、ブロンにも不向きな場所ね」
「そうそう。岩場エリアは足元が悪く障害物も多い。だから機動力が売りのルージュにも不利な場所だね。でも、レアなら問題ないかもね」
「私だって大変よ」
「そういうことにしておくよ。レア!川のある方角を見てラパンが2匹いるよ」
「本当だわ。オレリアン、ポール!川の方角にラパンが2匹いるわよ」
「わかった。すぐに向かう」
真っ先に動いたのはオレリアンである。足場の悪い岩場を草原を駆け抜けるように走り抜けていく。そして、少し遅れてポールもオレリアンの後を追いかけた。
「私もじっとしてられないわよ」
レアは大きな岩をジャンプして宙返りをしながら着地をしオレリアン達を追いかける。
「あいかわらずお転婆だなぁ~」
サミュエルは笑みを浮かべながら再び足場の確認を始めた。
『サミュエル君の邪魔にならないようにしないとね』
私はサミュエルの背後に回り邪魔にならないように気をつかう。
「ポール、俺は川側から射撃する。拠点への誘導は任せた」
「わかったよ」
オレリアンは川側から射撃して拠点の方へラパンを追い立てることにした。ポールは走る速度を落として、エスパスからフラムを取り出す。
「いつでも来い!」
ポールは自分自身に気合を入れる。
「俺が倒さなくてもいい。みんなで仕留めるんだ!」
オレリアンは自分に言い聞かせるように呟く。
「居た」
オレリアンは少し高めの岩に登り、ラパンの位置を特定した。
「ラパンは音に敏感だ。物音を立てずにラパンの背後に回ろう」
ラパンは岩場をピョンピョンと跳ねながら岩場エリアを移動している。ラパンの最大跳躍力は3mなので、サミュエルが拠点を構える大きな岩も安全エリアとは言えない。
「ラパンの首、手足、尻尾の繋目は皮膚が薄く魔核からの魔力供給を遮断できる。後ろから射撃するなら首か尻尾の繋目を狙うべきだな」
魔獣を自分の反対の位置に誘導したい時は、魔力供給を遮断できる薄い皮膚で出来ている繋目を狙う。魔獣にもよるのだが、弱点を射撃された魔獣は射撃者から逃げていく。そして、弱点でない部位を射撃すると怒りをかって逆に向かってくる。なので、自分の方向に誘導したいときはあえて弱点を外して射撃する。
オレリアンはラパンに気付かれることなく背後に回り込んだ。オレリアンは肩幅に足を開き両手でフラムを構えた。ラパンが気づいていないので、オレリアンは安定した姿勢で構えて射撃する。
『バン』
オレリアンの放った魔弾は寸分の狂いもなくラパンの首の繋目に命中した。
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