第7話 魔銃

 ギルドの解体場で勉強を始めて2週間が経過した。解体作業は毎日あるわけではない。


 パステックの町は人口は1万人、ブフ1体で1000人前、サングリエ1体で200人前、ラパン1体で30人前の食事量を確保できる。冒険者は命がけで魔獣の世界に侵入して魔獣を調達してくるので、毎日定期的に魔獣がギルドに届けられるわけではない。


 私は解体作業がない時は、別のデピュタンの依頼任務に同行している。今日は解体作業のない日だったので、食堂の調理補助の依頼に同行している。


 デピュタンの依頼は雑用業務がメインである。例えば、冒険者が乗る荷馬車の運転兼雑用業務。【デピュタンは魔獣の世界に入る資格はないが、手伝い業務の任務を受ける時は特例で魔獣の世界に入る事ができる】近隣の村や町への物資の輸送。引っ越しの手伝い・農業、家畜業の手伝い。食堂などの店舗の手伝いと様々な雑用業務の依頼がある。


 私は自給自足の生活を目指しているので、解体した魔獣の調理の仕方を学ぶために食堂の調理補助の依頼に同行することにした。今はクズ肉を火で焼いて食べるという簡単な方法でしか食していない。



 「アドンさんは、初めてだから配膳と皿洗いをお願いするね」


 「はい」


 「リュカさんは3度目だね。今日は調理の補助をお願いするね」


 「はい!」


 

  リュカさんは嬉しそうに返事をする。リュカさんも私と同じように料理を学ぶ事が目的であろう。



 「ラパンのモモ肉を火が通りやすいように骨に沿って切れ目を入れるのよ」


 「はい」


 「食べやすいように無駄な骨は取り除くのよ」


 「無駄な骨?」


 「モモ肉の横に付いている骨よ」


 「はい」


 「次はウデ肉ね。モモ肉と同様に骨に沿って切り込みを入れるのよ」


 「はい」


 「切り込みが終わったら、モモ肉、ウデ肉に塩胡椒をかけ、フライパンで中火で焼くのよ」


 「はい」


 「色が付いたら肉を裏返してフライパンに蓋をして、しっかり火を通すのよ」


 「はい」


 「こんがりと焼き上がればラパン焼きの出来上がりよ」



 ラパンの肉は手に入りやすいので、食堂では安価で提供される。料理の仕方も様々で、ラパンの肉を鍋に入れてお酒やトマトで煮込む調理方などもある。私はラパンの料理方法をメモりながら調理方法を勉強した。


 こうして、私は解体作業がない時は、食堂の調理補助の依頼に同行して、自給自足に向けて準備を整えていく。



 6か月後・・・



 デピュタンからノルマルに上がるには最低でも半年はかかる。それは、ギルドでノルマルに上がるための試験を受ける資格として、週に2回以上デピュタンの依頼を6か月間継続して受けなければいけないという規約があるからである。そして、ノルマルに上がる為の試験とは魔銃の取り扱いの試験である。


 魔銃とは魔力を銃弾に変化させることが出来る魔道具である。魔銃の弾丸は魔弾と呼ばれる。そして、魔銃には3種類あり、トリコロール【三色】に分類される。ルージュ【赤】はショットガンであり、撃った瞬間に数発の魔弾をばら撒く近距離銃(5m以内)。ブロン【白】はアサルトライフル(フルオート)であり、魔弾を連射して発射することができる中距離銃(20m~50m)。ブル【青】はスナイパーライフルであり、威力は絶大だが扱いが難しい長距離銃(100m~1000m)。


 ギルドの試験では、自分が得意とするトリコロールを選択して、魔銃の腕を試される。ルージュは近距離銃なので最前線で戦わないといけない。ルージュが、魔獣のヘイト(注意)を引き付けながら魔核や繋目にダメージを与えて動きを封じ、ブロンが魔核を破壊するのが魔獣退治のセオリーである。



 ※魔核とは魔獣の力の源であり弱点でもある。魔核から全身に魔力が流れており、この魔力が血液のように体に循環されることによって、魔獣の皮膚や筋力などが強化されている。魔力濃度が高いほど皮膚が堅く力が強い。そして、魔核を破壊すると魔獣は力の源を失い死んでしまう。また、魔獣の関節の繋目は皮膚が薄いので、繋目を攻撃すると魔力の供給を弱める事ができ魔獣の動きを鈍らせる事が出来る。


 冒険者パーティーではルージュが3人、ブロンが1人または2人、ブルが0人である。ルージュは一番危険だが、戦闘の醍醐味を味わうことが出来るので、戦闘好きな者には人気がある。


 ブロンは魔獣から距離を置いて戦うので基本安全である。しかし、間違って仲間を誤射してしまう危険があるので、集中力と技術が必要だ。腕に自信がある者はブロンを選ぶ。


 冒険者でブルを選ぶ者はほとんどいない。冒険者は基本3名から5名でパーティーを組む。1人だけ離れたところで魔獣を狙撃するのは効率が悪い。それにブルは最長1㎞先から魔獣を狙い撃ちするので、かなりの技術が必要だ。熟練した冒険者がブロンからブルになる者がたまにいるくらいである。


 これが王国騎士団に置き換えると話は変わってくる。


 王国騎士団では従騎士が絶対にルージュである。従騎士とは平民なので、最前線で戦うのは平民である。貴族である騎士はブロンとして、少し離れた安全な場所から射撃をする。そして、サンク・エトワル(5つ星)クラスになるとブルとして、より安全な場所から遠距離射撃を行い、自分の腕を試すのである。サンク・エトワルクラスになるには実績よりも、身分が優先される事が多いので、実力が伴わないブルの誤射により、命を失うルージュも少なくない。


 



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