第6話 解体見習い
解体作業が終了して、解体された素材が倉庫に運ばれた。サングリエからは食用の肉と素材としての皮・牙が買取されて、冒険者に報酬が渡される。報酬額には解体費用と食用にならない肉と骨、内臓などを処分する費用が引かれることになる。
今、私は冒険者ギルドのゴミ捨て場に居た。それは売り物にならないサングリエの肉を貰うためである。売り物にならない肉はクズ肉といって廃棄される。食べ物を買うお金がない私が飢えをしのぐには、クズ肉を持ち去る以外に生きる術はない。
私は誰も居なくなったゴミ捨て場に入り込み、ナイフを使って見よう見まねで覚えた方法で解体されたサングリエの肉を切り取る。
『味なんてどうでもいいわ。空腹を満たすことが出来れば問題ないはず』
私はクズ肉をエスパスに入れて孤児院に戻って着た。そして、クズ肉を焼くために孤児院の料理場に向かい誰もいない事を確認してから、魔道コンロを使ってクズ肉を焼いた。料理などしたことのない私は、クズ肉を真っ黒に焦がしてしまう。
『見た目も匂いも最悪だわ。でも・・・これしか食べる物はないわ』
私は目をつぶってクズ肉を口の中に放り込む。
『ぐぇっ!めっちゃ不味い・・・』
クズ肉は固くて臭くて美味しくなかった。しかし、空腹を満たすにはクズ肉を食べる以外に方法はない。水は孤児院で自由に飲むことができるので、水でクズ肉を流し込んで満腹感を得ることにした。空腹で過ごすよりも満腹感を得る方が睡眠もきちんととることが出来て健康的であると自分に言い聞かせて。
私はそれから、解体技術と知識を学ぶために1か月ほど解体場に毎日通うことにした。
次の日は、大物が捕獲されたみたいで解体場が活気で賑わっていた。パステックの町には2つの常夜の大樹が存在する。2つとも最低ランクのEランクの魔獣エリアに繋がる常夜の大樹である。1つ目は町から10㎞離れた小型の草食魔獣が生息する魔獣エリア。2つ目は町から20㎞離れた中型の草食魔獣が生息する魔獣エリアである。
今回の大物は、町から20㎞ほど離れた常夜の大樹から転移できる魔獣エリアに生息するブフという魔獣である。ブフは牛のような魔獣であり、体長は3mほどで体重は1500㎏と巨大である。普段は大人しいが攻撃すると興奮して暴れ出すのでノルマルのベテラン冒険者でも苦労する。しかし、今回は2組のノルマルの冒険者パーティーが手を組んで討伐した。
※冒険者は基本は3名から5名でパーティーを組む。人数が増えると魔獣を倒すのは簡単になるが、その代わり分け前が減ってしまう。
今回はブフという1パーティーでは倒すのが大変な魔獣だったので、2組の冒険者パーティーが手を組んで2体のブフを討伐してきた。
ブフは食べれる部位も多く肉質も最高である。食用としての価値は高いが素材としての価値は0である。
「ブフが2体かぁ。やりがいがあるぜ」
解体職人が嬉しそうにナイフを手に取った。
「ブフは無駄な所がほどんどなく舌も内臓も食べれることができるのだぞ」
「はい」
「どの部位も美味しく食べる事が出来る代わりに解体も繊細になるから気を付けろ」
「はい」
「ブフはデカいから足を縛って逆さ吊りにして解体した方が効率的だ」
「はい」
解体職人がブフの両足をロープで縛り、滑車を使い総出でブフを吊り上げる。私も一番後方のロープを握りお手伝いをする。私の手助けのかい?もあり、無事にブフが吊り上げられる。
「解体の仕方はほとんどの食用魔獣は同じだ。まず関節部分の繋目にナイフを差し込み皮膚を剥がしていく。ブフの繋目は目視で確認できるから簡単だ。そして、ブフの皮は素材として無価値だ」
「はい」
「次は洗浄だ!いったんブフの体に水をかけて付着している血を洗い流せ」
「はい」
「洗浄が終わったら頭を切り落とせ」
「はい」
「次は内臓を取り出せ。さっきも言ったがブフは内臓も食べる事ができるので、丁寧に斬り分けるのだぞ」
「はい」
解体職人は口は悪いが、きちんと説明して食用魔獣の価値を指導している。私もきちんとメモを取ってわすれないように努める。
「内臓は胃や腸を白物といって先に取り出す。次に心臓、肝臓・肺これは赤物と呼ぶ」
「はい」
解体職人は内臓の取り出し方を丁寧に説明をする。私は一字一句を忘れないようにメモに書き残す。
「内臓を全て切り取ったら、背中から真っ二つに切り裂く」
「はい」
「切り終わったら滑車から降ろして作業台へ運べ」
「はい」
作業台に運ばれたブフの肉はさらに細かく部位ごとに斬り分けられた。今日はブフ2体、サングリエ2体、ラパン4体の解体作業が行われた。
※ラパンとはウサギのような魔獣 体長は50㎝ほどで皮膚は黒。長い耳が特徴で音に敏感。
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