第13話 見えない敵
スナイパー・ジョーの放った弾丸は、的確に俺の左足を撃ち抜いていた。
「ちきしょ~、ジョーの野郎… どこから撃ってきやがった?…」
「大丈夫ですか先輩!痛くないですか?」
「痛くないワケないだろ!!足撃たれてんだぞ!血もこんなに出てんだ!くそ~…」
ジョーの姿を確認できない以上、反撃のしようもない。
「やい!スナイパー・ジョー!卑怯だぞ!隠れてないで出てこい!僕が相手だ!!」
怒りのスイッチが入った小田切は、見えない敵に対して言葉の反撃を続けた。
「そもそもお腹ペコペコなのに、こんなんじゃチャーシュー麺もチャーハンも食べられないじゃないか!それもこれも全てはマフィアの皆さんのせい!特にスナイパー・ジョー、あんたのせいだ!あとで焼肉おごってもらうからな!」
やはりどこかズレていた…(-_-)
しかし、小田切の稚拙な反撃に、スナイパー・ジョーは呼応した。
「おやおや、なかなか威勢のいいパートナーがいるようで。いいですよ、私を倒すことが出来たなら、焼肉でもステーキでも好きなものをご馳走しましょう」
「先輩、あんなこと言ってますよ?ジョーさんて実は話のわかるイイ人なんじゃないですか?」
「何言ってんだ!イイ人が刑事の足を撃ち抜くか?極悪人中の極悪人だ!」
「その声は…やはりあなたでしたか。久しぶりです、ダンディーさん。20年も追いかけ回されて、ほとほと迷惑していたのでね…。やっとあなたの息の根を止められると思うと、何だかワクワクした気分になりますよ」
「息の根を止めるだと?それはどうかな?勝負は終わってみなきゃ分からねぇぜ?」
「強気な発言がいつまで続くか見ものですね。もしかして、1対2なら勝てるとでも?」
俺は、隣のテーブルに隠れる小田切に、身振り手振りで「もっと喋りで応戦しろ!」と指示を出す。
舌戦で負けたくないわけでなく、ジョーの話す声を頼りに、隠れ場所を特定するためだ。
「わかりました。……ジョーさん、先輩はそれほど役に立たないと思うんで、1対1.5が正解ですよ。1.2ぐらいかな…」
「………(-_-;)」
「なかなかユーモアのある相棒さんですね」
「どうせ役に立たないなら、最初から僕とジョーさん1対1で勝負しちゃいます?」
「………(-_-)」
「そーゆーわけには行かないんですよ、あくまで私の目的はダンディーさんの存在をこの世から消すことなのでね。若い刑事さんとの勝負はその後ということで」
小田切とジョーのやりとりの内容は置いといて、おかげでジョーの隠れているポイントの予測はついた。
「小田切、おそらくジョーの野郎は、左奥の柱の陰だ…」
「左奥?…あの柱の陰ですか…じゃあ先輩、先に勝負して、さっさと負けちゃって下さい☆そのあと僕が勝負しますから☆」
「なに言ってんだ?あと一歩のところまで来てんだぞ、ここはチームプレーで何としてもジョーの野郎を捕らえるんだ!」
「え~……一人を複数でって僕あまり好きじゃないんですよね…特に男と男の勝負はタイマンって方がカッコいいと思うんですけど…」
「お前なぁ…」
呆れてその先の言葉は出てこなかった。
今まで何度となく感じた小田切の思考回路のズレは、こんな場面でも全開に発揮されていた。
一瞬の迷いや判断ミスが命取りになる危険性など微塵も感じていないように見える。おそらくは、今の緊迫した状況をゲーム感覚で楽しんでいるのだろう。
しかし俺は、そんな小田切の戦闘スイッチを入れる手段を心得ていた。
過去の経験から、落ち込んだりヤル気の失せた小田切を、瞬時に復活させる魔法の言葉を知っていた…。
「わかった、じゃあ俺が先にタイマン勝負するが、それで俺が勝てば『銀河英雄勲章』は俺だけのもんてことだな☆」
「先輩……やっぱりチームプレーで行きましょう!先輩が息の根を止められるのも見たくないし、万が一にも先輩がタイマン勝負で勝っちゃったら…」
思った通りの反応だった(^O^)
「お前、俺が役に立たないとか言ってなかったか?」
「それは確かにそうですけど……考えてみたら、ドラクエでもファイナルファンタジーでも、ラスボスと戦うのはパーティーですからね☆」
「いまいち納得いかねぇが…まぁいい、ヤル気になったんなら、お前が攻撃してジョーの野郎を柱の陰から引きずり出せ。角度的にお前の位置からの方が有効だ」
俺はコルトの弾倉マガジンを全て小田切に投げて渡した。
「引きずり出すことに成功したら、俺がトドメをさす。だからお前はあの柱を崩すつもりで撃ちまくれ!」
「…それって、先輩が一人で倒したことになりません?もしかして『銀河英雄勲章』を独り占めする気じゃ…」
「あくまでチームプレーだ!独り占めする気なんかサラサラねぇよ!もし、どちらか一人しか授与されないときはお前にやるから!わかったらさっさと撃ちまくれ!」
「へい、合点だ!!」
こうして俺と小田切のチームプレーが始まった。
「英雄勲章は僕のものだ~ッ!」
バン!バン!バン!バン!…
でっち上げの勲章に目がくらんだ小田切は、やたらめったら撃ちまくった。
「出てこい!スナイパー・ジョー!」
バン!バン!バン!バン!…
小田切の射撃の腕は驚くべきもので、ジョーに反撃の暇を与えないばかりか、正確に柱の一部を崩し続け、ついには柱が倒れかける。
その瞬間、とうとう柱の陰からジョーが飛び出した。
「先輩!ジョーさんが!」
「よし!」
ズキューン!…
「ぐわっ!…」
しかし、先に撃ったのはスナイパー・ジョーだった。
再びジョーが放った弾丸は、移動しながらも的確に俺の右肩を撃ち抜いていた。
「あ~ぁ…せっかくのチャンスだったのに…」
「お前…心配するのが先じゃねーかフツー…」
「だって…言われた通り、撃ちまくってジョーさん引きずり出したのに…」
「そのくらい簡単には倒せねぇ相手だってことだ…何度もチャレンジするしかない…」
「でも先輩、その腕じゃもう銃は撃てないんじゃ?右肩とんでもないことになってますけど?」
「え?…」
見ると、右腕は力なくダラリと垂れ下がり、指先から大量の血が滴り落ちていた。
銃を握ることはもちろん、腕を動かすことも出来ないのに、不思議と痛みは感じなかった。
しかたなく左手で銃を拾い上げる。
しかし…
ズキューン!…
「くっ!…」
「先輩ッ!」
今度は左腕を撃ち抜かれてしまう。
幸いにも骨までは砕かれていないようだが、これで俺の攻撃能力はほぼゼロに等しくなってしまった。
「ちきしょ~…ジョーの野郎、遊んでやがる…」
「遊んでる?」
「ああ。やつの腕なら簡単に俺の眉間を撃ち抜くことが出来るはず…。それなのにジョーの野郎、少しずつ痛ぶって楽しんでやがる」
「だったら僕たちも楽しんじゃいましょうよ☆\(^o^)/」
「そうは行くか!遊び半分で勝てるような相手じゃねーよ…」
その時だ。
バーン!と正面玄関の扉が開き、大勢がなだれ込んで来た。
「ジャック!間に合ったか!」
と思いきや、なだれ込んで来たのは黒ずくめの男たち…マフィアの援軍だった。
「…完全に終わった…俺達の負けだ…」
深手を負った俺は負けを悟った。
しかし、小田切は諦めていなかった。
「何を弱気になってるんですか、先輩らしくもない。やっつけちゃっていい敵が増えただけでしょ?英雄勲章はそう簡単に諦められませんから☆」
小田切の少しズレたポジティブ思考に救われ、俺は自分自身に喝を入れ直す。
「それもそうだな、まだ武器も弾薬も尽きたわけじゃねぇし…」
「そうですよ☆勝負はここからです」
「よっしゃ!最後の悪あがき、やれるとこまでやってみるか☆」
「そうこなくっちゃ☆\(^o^)/」
簡単な作戦会議のあと、俺たち二人の開き直りとも取れる悪あがき攻撃が展開された。
「マフィアの皆様、北京飯店へようこそ☆ただいまキャンペーン中につき、ご来店の方全員にもれなく手榴弾をプレゼントしていま~す☆」
俺はそう言いながら、まだかろうじて使える左手で、黒ずくめの集団に向けて手榴弾を投げつける。
ドッカ~ン!
爆発から逃れようと逃げ惑うマフィアに向けて、今度は小田切が
「さらに、タイムセール中につき、0.45ACP弾もお安くなっておりま~す☆ご賞味くださ~い☆」
バン!バン!バン!バン!…
と、コルトをブッ放す。
ドカ~ン!
バン!バン!バン!バン!…
ドカ~ン!
バン!バン!バン!バン!…
手持ちの手榴弾が尽きる頃には、加勢に来たマフィアの援軍は一掃されていた。
おまけに、度重なる爆発のせいで正面玄関の壁や天井が崩れ、これ以上の援軍が入って来れない状況まで出来上がっていた。
「やっぱり今回も、脇役は脇役らしい結末でしたね☆それにしても、すごい煙と砂埃ですね…全然前が見えないや」
「お前の射撃の腕に助けられたよ☆ホント、大したもんだ」
「ひょっとしたら、今の一連の攻撃でスナイパー・ジョーも仕留めちゃったんじゃないですか?(^O^)」
「そう簡単に仕留められる相手じゃねーって言ってんだろ。今もどこかに身を潜めて反撃のチャンスをうかがってるはずだ…」
「反撃するって言っても、こんな煙と砂埃じゃ僕たちのこと見えないじゃないですか」
「ああ。だからジッと耳を澄ませて………しまった!!」
ズキューン!…
=つづく=
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