第肆話「影響」

身体の痛みで目を覚ます。

健人はゆっくりとベッドから起き上がり、記憶を辿る。


よく分からない男に襲われて、慎太郎がそれと戦って、最後は……

しかし、良く考えれば現実的にそんなこと有り得ない。あれはただの悪い夢だった。慎太郎の妄想話に付き合わされて、自分まで影響を受けてしまったのだろうか。

それでも、あの時の断末魔はくっきりと脳裏にこびりついていた。


時計は、午前3時を指していた。


充電済みのスマートフォンのスリープを解除する。ネットニュースを開くと、衝撃的な字面が目に飛び込んできた。


「世界各地で謎の大穴出現。空に不自然に浮かぶその正体とは。」


「”能力”に目覚めたと言う人が続出。実際に事件も発生。」


「未確認生物を砂漠で撮影。目撃者多数。」


「ワープホールって何?謎の巨大生物の正体が判明!?彼女はいるの?調べてみました!」


これだけの情報で、現実に引き戻された。昨日から頭が混乱しっぱなしだ。どうやら、学校と似たような出来事が各地で起こったらしい。慎太郎の様に謎の力に目覚めた人もいるようだ。


「嘘だろ……」

何回も反復したセリフだ。

窓を開ける。学校の方角の空が不自然に輝いていた。

暫く呆然と立ち尽くしていたが、その静寂は母親の声で破られた。


「健人ー!起きなさーい!」


ここだけは普段と変わらない日常……しかし1歩外に出れば、狂った世界が待っている。その現実を、健人は受け止めきれない。


リビングに行くと、母親が台所で目玉焼きを焼いていた。


「今日も早いんでしょ?さっさと食べて学校行きなさい」


(なにを言ってるんだこの人は、世界が今、大変なことになっているのに。)

そう思いながらも、健人は椅子に腰を下ろした。


「今日は学校ないよ。ニュース見てないの?」


「何馬鹿なこと言ってんの。」


朝食を食べながら、新聞紙を手に取る。やはり、どの面も同じようなことばかり掲載している。


溜息をつきながら食事を済ませ、外に出る。そうだ、学校は無いんだった。そのことに健人が気づいたのは、校門の前に立った時だった。


校庭には、奇妙奇天烈な化物が沢山蠢いていた。穴から出てきたのだろうか、その光景を前にして、動くことが出来なかった。


健人の呼吸が早くなっていく。


化物の1匹が、急にこちらを向いた。魚のような1つ目で、不気味な程に白い肌が恐怖心を煽っていた。


(終わった……)


そう思っても動けない。蛇に睨まれたカエルのように。


ゆっくりとこちらへ向かってくる。それでも足は固まったままだ。


50m


20m


10m


目の前に現れたそいつは、健人を見てニヤリと笑うと、大きな顎で食らいついた。


バリバリバリバリ


健人の目の前は闇に包まれた。


しかし、直ぐに視界に光が戻った。

何が起こった?僕は食べられたんじゃ……


目の前を見ると化物が倒れている。体からは蒼い血が流れ、足元まで染めていく。


「危ない所であったな!」


その声の主は化物の体の中から聞こえる。

突如電光が走り、化物の肉が切り裂かれ、中から人が現れた。


「シュッシュッシュッ」


全身黒色の服に身を包み、手に持っているのは……手裏剣……?


「素人が物の怪に手を出すとは命知らずにも程があるでござる!」


「君は……?」

「おっと、自己紹介を忘れてしまっていた様で、かたじけない!」




「拙者は人呼んで『轟雷ノ忍ごうらいのしのび』、物の怪を斃し世を救うのが使命でござる!」


その男に、健人はどこか既視感を覚えた。



to be continued…





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