第参話「真昼の住宅街」
慎太郎の手を掴み、ヨロヨロと健太は立ち上がった。目の前で起きた光景……それを未だ信じられない様子で、後をついて行く。
1階に降りた所で、突然右頬に痛みを感じた。
「お前ら何をしていた!」
教師はずっと探していたのだろう。額に汗を流しながら、彼らにビンタした。
「早く家に帰りなさい!」
「フフフッ先生、大丈夫ですよ。」
慎太郎が口を開く。
「アイツは俺が───」
「先生すいませんでした!」
健人は直ぐに慎太郎の口を塞ぎ、手を引いて校門を出た。20mほど走った所で立ち止まる。住宅街のど真ん中であるにも関わらず、不気味な程の静けさが2人を包む。
「い…いったいどうしたんだ健人。」
肩で息をしながら答える。
「だって……先生にあの事言おうとしただろ……」
「何が悪いんだ?」
「あの男……倒れて動かなかった……絶対死んでるよ……殺人罪で捕まりたいのか……?」
「こっちが殺される所だったのだから仕方がない……正当防衛と言うものだ。」
「……」
その時、落下した様な大きな音が2人の後ろで響いた。
「グルルル…ガハッ…」
そこにはあの男が…最早人とは言えない姿で倒れていた。まだ生きているようで、2人に向かって這いずってくる。
「フフフ…こいつ…しつこいな。」
「早く逃げようよ!」
健人の脳内には再びあの時の光景が蘇る。
男は血塗れで、グロテスクな姿で2人を見ていた。そして突然折れた剣を投げつけた。
「危ない健人!」
半透明の壁が現れ剣から2人を守る。剣は無機質な音を立てて砕け散る。
「は……!?今何したの?」
「そんなことどうでも良い。ひとまずここを去るぞ。」
「『飛翔・
轟音とともに2人は空中に飛ばされる。混乱した頭で健人が見たものは、先程自分たちがいたはずの場所にせり立つ数十本もの剣山であった。もし少しでも遅れていたのなら間違いなく八つ裂きになっていただろう。
「フフフッ危ない所だったな。」
しかし男は諦めなかった。
鼓膜が破れるほどの大きな声で叫ぶ。
グオオオォォォ…!
「うわっ、うるさい!」
健人は思わず耳を塞ぐ。
「断末魔か?憐れなものだ。」
慎太郎は男の方を見た。そこには血塗られた男の姿と……背中から何か生えてくるものが2つある。それは数メートルほど伸びると今度は横に広がり、大きな翼と化した。
男が翼をはためかせ、蒼色の血を落としながら2人に向かって飛んでくる。
「本当にしつこいな……堕ちな。『紅鎌乱舞・
黒き火炎を纏わせた紅の大鎌が、男の翼を斬り裂いた。男の身体が地面に向かって落下する。
下には丁度マンホールがあった。男はそれごと穿いて、深い下水道の奥へと執念と共に消えていく。
慎太郎と健人はゆっくりと下降しながら少し離れた所にフワリと足をつけた。
「見てたか健人?俺の鎌捌き。」
「……説明してくれ。」
健人が震えながら言った。
「何の事だ?」
「説明しろって言ってんだよ!今日起こったことを全て!……何でいきなり鎌を持ってんだよ。何で変な光る穴が出来てんだよ。何で変な奴が襲ってきたんだよ。何で……何で空を飛べるんだよ!意味がわからないよ!頭がおかしくなりそうだ!全部……僕が納得できるように教えてくれ!」
慎太郎はその勢いに驚いた様な顔をした後、暫く黙ってから口を開いた。
「俺にも……分からない。でも、やろうとしたら出来たんだよ。」
「……はぁ?」
「本当だ。俺は何も知らないし、あんな奴を見たのも初めてだ。……信じてくれ。」
慎太郎の真っ直ぐな瞳にそう言われ、健人は静かに頷くしかなかった。
to be continued…
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